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二章~アシル・クローシャー編~

15 ロベール家へのトラウマ②

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 エリアス様はその後、ぼくが聞いた同じ内容をクレールにも伝え、現在四歳の息子・ヴィクトール様も来訪すると加えた。
「ヴィクトール様はこっちにまだ友人がいない。寂しい思いをさせないよう、気を使ってあげてくれるかい?」
「はい、僕も新しい友人ができるのが楽しみです」
 ニッコリと笑って返事をした。
 しかしその表情は明らかにぎこちない。このあと、エリアス様は仕事へと出かける予定があるので、それから二人で話そうと思った。

 束の間の一家団欒を楽しんだあと、予定通りエリアス様を見送ると、クレールの部屋のドアを閉めた。

「アシル、アンナ様の妹が来るってどう言う風の吹き回し!? なんで断らなかったの?」
 コーキはロベール家に対しての警戒心が解けない。エリアス様からクララ様は子供の頃からおとなしい性格だったと説明は聞いた。しかしそんなもので信じられるならば、最初から苦労はしない。
 
「……アシル、僕は心が狭いのだろうか。断罪され、二度と会うことがなくなっても、それでもアンナ様に苦しめてれているような錯覚を起こすことがある」
 コーキの中に植え付けられた、アンナ様へのトラウマは根強いものだった。クララ様は性格が正反対とはいえ、身内には変わりない。
 本当は名前すら聞きたくないだろうと思う。正直に言えば、ぼくだってそうだから……。
 今でもたまに夢に見る。アンナ様が嘲るあの姿を。今はエリアス様がいてくれるから、なんとか気持ちを切り替えられている。
 でもコーキは違う。ぼくの前面に立ち、アンナ様とキリアン様と戦ってきたからこそ、その闇から完全に抜け出せないのも仕方がないことなのだ。

 できればその名前を、コーキの耳に入れたくはない。
 せめて、ぼくがもっとクララ様のことを知っていれば弁明くらいできたのに……。
 パーティーの主役であるクレールが、ゲストであるクララ様のご機嫌をとる。一見すると当たり前のことだが、コーキにとっては屈辱になりかねない。
 二人ともが初めて顔を合わせるのは確かに不安だ。しかしパーティー当日まで時間がない。

 今日はクレールの部屋で一緒に寝ることにした。
 もっと会話をしていたいと思った。

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