70 / 221
一章~伊角光希編~
70 追い詰められたアンナ
しおりを挟む
「君の不貞行為を知らないとでも思ったか?」
「あ、あれは……キリアンの方から……」
「そうか? 侍女からは、そのような報告は受けてない。私から抱かれないのが寂しいと言って、キリアンに擦り寄っていたと聞いている」
「なっ……ルシィ!! 貴様、侍女の分際で!!」
アンナ様が突如大声で叫んだので、ルシィは「ひっ」と悲鳴を漏らした。
エリアス様はそれを視線だけで制止させた。
「キリアンは動かしやすかっただろうな。なんせ、子供の頃からアンナに想いを寄せていたのだから。それを知っていて、キリアンを使った。自分の性欲の発散にもなる上に、従順な弟を嘲笑っていたのだな」
「そんな……キリアンだって、その気だったわ……向こうから言い寄られて、無理矢理押し倒されたこともあった」
「もう、そんな嘘を付かなくてもいいのだ。君が学生の頃から、学友や教授にまで手を出していたのを、知らないとでも思ったか? 婚約破棄の一番の理由は、もちろん運命の番と出会ったからだが、それでなくとも、私はあらゆる手を使って君との婚約破棄を計画しただろう。私は潔癖なんだ。数多くの男と寝たその体を抱く気には到底なれない」
アンナ様のプライドは完全に崩壊した。
気が狂ったように痙攣し、目の焦点があっていない。
ここに立ち会った全員が呆然と見守るしか出来ない中、僕はどうしても聞きたかったことを尋ねる許可をもらい、アンナ様の前に立つ。
「婚約パーティーの日、僕に発情誘発剤を使ったのはアンナ様ですね?」
使用人が騒つく。アシルが寝とったとされていた裏に、こんな企みがあったとは、誰も思っていなかった。
アンナ様は声を張り上げて高笑いをした。
「そんなことまで私に罪を押し付けるのね? 証拠は? 証拠を見せなさいよ!! この泥棒!! パーティーで勝手にヒートを起こしたのはお前じゃないか!! 人のものを全て奪っておいて、その罪を全て私に背負わせるように、エリアス様を誑かしたに違いない。お前は悪魔だ、アシル」
「それ以上喋ると、容赦しないぞ!! アンナ!!」
エリアス様がアンナ様を捩じ伏せる。
しかし僕は違う事を考えていた。
関与していなかったキリアン様に発情誘発剤を飲まされたと打ち明けた時とは、正反対の反応だった。
どちらのタイミングも、嘘を繕う余裕などなかった。見せた反応が真実だ。
僕はこれだけで満足だった。
エリアス様に「大丈夫です」とだけ言うと、自分の席に戻った。
ロベール家との約束があるため、アンナ様を追い出すわけにはいかなかったが、今後は一切の侍女を担当させないと言い渡し、ようやく全員が解放されたのだった。
「あ、あれは……キリアンの方から……」
「そうか? 侍女からは、そのような報告は受けてない。私から抱かれないのが寂しいと言って、キリアンに擦り寄っていたと聞いている」
「なっ……ルシィ!! 貴様、侍女の分際で!!」
アンナ様が突如大声で叫んだので、ルシィは「ひっ」と悲鳴を漏らした。
エリアス様はそれを視線だけで制止させた。
「キリアンは動かしやすかっただろうな。なんせ、子供の頃からアンナに想いを寄せていたのだから。それを知っていて、キリアンを使った。自分の性欲の発散にもなる上に、従順な弟を嘲笑っていたのだな」
「そんな……キリアンだって、その気だったわ……向こうから言い寄られて、無理矢理押し倒されたこともあった」
「もう、そんな嘘を付かなくてもいいのだ。君が学生の頃から、学友や教授にまで手を出していたのを、知らないとでも思ったか? 婚約破棄の一番の理由は、もちろん運命の番と出会ったからだが、それでなくとも、私はあらゆる手を使って君との婚約破棄を計画しただろう。私は潔癖なんだ。数多くの男と寝たその体を抱く気には到底なれない」
アンナ様のプライドは完全に崩壊した。
気が狂ったように痙攣し、目の焦点があっていない。
ここに立ち会った全員が呆然と見守るしか出来ない中、僕はどうしても聞きたかったことを尋ねる許可をもらい、アンナ様の前に立つ。
「婚約パーティーの日、僕に発情誘発剤を使ったのはアンナ様ですね?」
使用人が騒つく。アシルが寝とったとされていた裏に、こんな企みがあったとは、誰も思っていなかった。
アンナ様は声を張り上げて高笑いをした。
「そんなことまで私に罪を押し付けるのね? 証拠は? 証拠を見せなさいよ!! この泥棒!! パーティーで勝手にヒートを起こしたのはお前じゃないか!! 人のものを全て奪っておいて、その罪を全て私に背負わせるように、エリアス様を誑かしたに違いない。お前は悪魔だ、アシル」
「それ以上喋ると、容赦しないぞ!! アンナ!!」
エリアス様がアンナ様を捩じ伏せる。
しかし僕は違う事を考えていた。
関与していなかったキリアン様に発情誘発剤を飲まされたと打ち明けた時とは、正反対の反応だった。
どちらのタイミングも、嘘を繕う余裕などなかった。見せた反応が真実だ。
僕はこれだけで満足だった。
エリアス様に「大丈夫です」とだけ言うと、自分の席に戻った。
ロベール家との約束があるため、アンナ様を追い出すわけにはいかなかったが、今後は一切の侍女を担当させないと言い渡し、ようやく全員が解放されたのだった。
61
お気に入りに追加
1,696
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる