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一章~伊角光希編~
70 追い詰められたアンナ
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「君の不貞行為を知らないとでも思ったか?」
「あ、あれは……キリアンの方から……」
「そうか? 侍女からは、そのような報告は受けてない。私から抱かれないのが寂しいと言って、キリアンに擦り寄っていたと聞いている」
「なっ……ルシィ!! 貴様、侍女の分際で!!」
アンナ様が突如大声で叫んだので、ルシィは「ひっ」と悲鳴を漏らした。
エリアス様はそれを視線だけで制止させた。
「キリアンは動かしやすかっただろうな。なんせ、子供の頃からアンナに想いを寄せていたのだから。それを知っていて、キリアンを使った。自分の性欲の発散にもなる上に、従順な弟を嘲笑っていたのだな」
「そんな……キリアンだって、その気だったわ……向こうから言い寄られて、無理矢理押し倒されたこともあった」
「もう、そんな嘘を付かなくてもいいのだ。君が学生の頃から、学友や教授にまで手を出していたのを、知らないとでも思ったか? 婚約破棄の一番の理由は、もちろん運命の番と出会ったからだが、それでなくとも、私はあらゆる手を使って君との婚約破棄を計画しただろう。私は潔癖なんだ。数多くの男と寝たその体を抱く気には到底なれない」
アンナ様のプライドは完全に崩壊した。
気が狂ったように痙攣し、目の焦点があっていない。
ここに立ち会った全員が呆然と見守るしか出来ない中、僕はどうしても聞きたかったことを尋ねる許可をもらい、アンナ様の前に立つ。
「婚約パーティーの日、僕に発情誘発剤を使ったのはアンナ様ですね?」
使用人が騒つく。アシルが寝とったとされていた裏に、こんな企みがあったとは、誰も思っていなかった。
アンナ様は声を張り上げて高笑いをした。
「そんなことまで私に罪を押し付けるのね? 証拠は? 証拠を見せなさいよ!! この泥棒!! パーティーで勝手にヒートを起こしたのはお前じゃないか!! 人のものを全て奪っておいて、その罪を全て私に背負わせるように、エリアス様を誑かしたに違いない。お前は悪魔だ、アシル」
「それ以上喋ると、容赦しないぞ!! アンナ!!」
エリアス様がアンナ様を捩じ伏せる。
しかし僕は違う事を考えていた。
関与していなかったキリアン様に発情誘発剤を飲まされたと打ち明けた時とは、正反対の反応だった。
どちらのタイミングも、嘘を繕う余裕などなかった。見せた反応が真実だ。
僕はこれだけで満足だった。
エリアス様に「大丈夫です」とだけ言うと、自分の席に戻った。
ロベール家との約束があるため、アンナ様を追い出すわけにはいかなかったが、今後は一切の侍女を担当させないと言い渡し、ようやく全員が解放されたのだった。
「あ、あれは……キリアンの方から……」
「そうか? 侍女からは、そのような報告は受けてない。私から抱かれないのが寂しいと言って、キリアンに擦り寄っていたと聞いている」
「なっ……ルシィ!! 貴様、侍女の分際で!!」
アンナ様が突如大声で叫んだので、ルシィは「ひっ」と悲鳴を漏らした。
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「キリアンは動かしやすかっただろうな。なんせ、子供の頃からアンナに想いを寄せていたのだから。それを知っていて、キリアンを使った。自分の性欲の発散にもなる上に、従順な弟を嘲笑っていたのだな」
「そんな……キリアンだって、その気だったわ……向こうから言い寄られて、無理矢理押し倒されたこともあった」
「もう、そんな嘘を付かなくてもいいのだ。君が学生の頃から、学友や教授にまで手を出していたのを、知らないとでも思ったか? 婚約破棄の一番の理由は、もちろん運命の番と出会ったからだが、それでなくとも、私はあらゆる手を使って君との婚約破棄を計画しただろう。私は潔癖なんだ。数多くの男と寝たその体を抱く気には到底なれない」
アンナ様のプライドは完全に崩壊した。
気が狂ったように痙攣し、目の焦点があっていない。
ここに立ち会った全員が呆然と見守るしか出来ない中、僕はどうしても聞きたかったことを尋ねる許可をもらい、アンナ様の前に立つ。
「婚約パーティーの日、僕に発情誘発剤を使ったのはアンナ様ですね?」
使用人が騒つく。アシルが寝とったとされていた裏に、こんな企みがあったとは、誰も思っていなかった。
アンナ様は声を張り上げて高笑いをした。
「そんなことまで私に罪を押し付けるのね? 証拠は? 証拠を見せなさいよ!! この泥棒!! パーティーで勝手にヒートを起こしたのはお前じゃないか!! 人のものを全て奪っておいて、その罪を全て私に背負わせるように、エリアス様を誑かしたに違いない。お前は悪魔だ、アシル」
「それ以上喋ると、容赦しないぞ!! アンナ!!」
エリアス様がアンナ様を捩じ伏せる。
しかし僕は違う事を考えていた。
関与していなかったキリアン様に発情誘発剤を飲まされたと打ち明けた時とは、正反対の反応だった。
どちらのタイミングも、嘘を繕う余裕などなかった。見せた反応が真実だ。
僕はこれだけで満足だった。
エリアス様に「大丈夫です」とだけ言うと、自分の席に戻った。
ロベール家との約束があるため、アンナ様を追い出すわけにはいかなかったが、今後は一切の侍女を担当させないと言い渡し、ようやく全員が解放されたのだった。
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