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一章~伊角光希編~
89 大切な時間
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───あの日から三年後───
ベルクール邸はすっかり平穏な日々が流れている。
屋敷内の至る所に、エリアス様とアシル、そして僕の結婚式の日の絵が飾られてある。
公爵様が張り切って、何枚も描かせたのが容易く想像できた。
アンナ様はあの日、駆け付けた公爵様たちに取り押さえられ、即刻断罪されたそうだ。二人の会話でそれを知った。
そして僕、伊角洸希はというと……。
「まぁま、あれみて! ちょうちょ」
「本当だね。ちょうちょ、かわいいね。クレール、どんどん上手にお話が出来るようになってるね」
僕の目の前にアシルがしゃがむ。
淡いラベンダー色の髪は、今日もふわりと風に揺れている。
「アシル、クレール、お茶にしないか?」
「エリアス様。今、クレールが“ちょうちょ”って教えてくれたんですよ」
ロラを従え、ハーブ園に顔を出したエリアス様を振り返り、アシルが言う。
「本当だ」と、エリアス様が蝶を目で追った。
エリアス様が、僕を抱き上げ頬擦りする。
「クレール、ママに教えてあげるなんて優しいな」
「うん!」
満面の笑みで返した。
———僕には前世の記憶がある。
三年前のあの日、意識がなくなるまでの記憶が。
アシルとしての人生を終えた僕は、お腹の中の子供に転生した。
そして、アシルは元のアシルへと戻り、僕を産んでくれた。
僕が目を覚ました時、身動きが取れないものだから、今度は何に生まれ変わったのかと不安になり、泣きじゃくった。
すると、視界に薄らと顔を覗かせたのはアシルでないか。
状況が掴めるまで、またしばらくの時間を要したが、小さな手が見えた時、喋ろうとする程泣いてしまうと気付いた時、ようやく自分が二人の子供になったのだと理解出来た。
アシルは僕に“クレール”と名付けてくれていた。
『男の子だった時の名前はもう決めている』
そう言っていたのを思い出す。
アシルが蘇り、いろんな話をしていた時、僕の名前の話をした。
「洸希って言うんだ。希望の光って意味なんだよ」と自分の人生を振り返り、半ば自嘲して教えていた。
アシルは素敵な名前だと言って、とても気に入ってくれた。
どうやらその話を覚えてくれていたアシルは、「光り輝く」という意味を持つ名前を付けてくれたのだった。
感極まって僕はまた泣いた。
大人としての記憶はあれども、体の機能は赤ちゃんそのもの。動けるようになるのも人並みに苦労した。
赤ちゃんって、こんなに大変なのかと思う程、一つ一つの過程が難しい。
それでもほんの僅かな成長を、オーバーなまでに喜んでくれる周りの期待にもっと応えたくなるものだ。僕が歩けるようになってからの成長は、周りを大いに驚かせた。
僕があの時一緒に過ごしたコーキだと、いつかアシルに打ち明けたいと思う。
彼なら喜んでくれるのではないかと、今から楽しみだ。
それまでは、“クレール”として成長しなければならない。
以前、部屋の大きな姿見を覗き込んだ時、エリアス様譲りのサラサラの金髪に、アシルそのものの顔が映った。
これが、クレール・ベルクール……。
思わず自分に見惚れてしまい、『本物の天使みたいだ』なんて言わないように気を付けようと、自分に言い聞かせた。
「クレールの家庭教師が決まったのだ」
「もうですか?」
「あぁ、クレールは努力家だからね。早い方がいいだろうと思ってね」
「はい!」
「エリアス様、流石にまだ分からないですよ」
「良いのだ。クレールは私に似て、きっと勉強が大好きになるだろう」
目の前で、大好きな二人が笑っている。
───幸せだ。
三回目の人生は、きっとこんな毎日になるだろう。
エリアス様の膝に抱かれ、三人でティータイムを楽しむ。
談笑する二人を交互に見ながら、僕も笑う。
これを、最後の人生にしようと思うのだ。
だから、心残りの無い日々しよう。
大好きなエリアス様とアシルと過ごす日々を、思い出に刻みながら───
──第一章完結──
ここまでお付き合い下さり、大変ありがとうございます✨️
この後、第二章では【アシル・クローシャー編】
そして第三章では伊角洸希の三度目の人生である、
【クレール・ベルクール編】をお届けします。
そうです。洸希の夢であるアレが、まだ本人は叶えておりません。第三章ではその辺を絵描きたいと思っております。
引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。
☆お気に入り登録、感想、投票、大変ありがとうございます♡♡皆様に支えられています。
感想や、投票したよのコメントを一言でも頂けると励みになります。どうぞよろしくお願いします。
ベルクール邸はすっかり平穏な日々が流れている。
屋敷内の至る所に、エリアス様とアシル、そして僕の結婚式の日の絵が飾られてある。
公爵様が張り切って、何枚も描かせたのが容易く想像できた。
アンナ様はあの日、駆け付けた公爵様たちに取り押さえられ、即刻断罪されたそうだ。二人の会話でそれを知った。
そして僕、伊角洸希はというと……。
「まぁま、あれみて! ちょうちょ」
「本当だね。ちょうちょ、かわいいね。クレール、どんどん上手にお話が出来るようになってるね」
僕の目の前にアシルがしゃがむ。
淡いラベンダー色の髪は、今日もふわりと風に揺れている。
「アシル、クレール、お茶にしないか?」
「エリアス様。今、クレールが“ちょうちょ”って教えてくれたんですよ」
ロラを従え、ハーブ園に顔を出したエリアス様を振り返り、アシルが言う。
「本当だ」と、エリアス様が蝶を目で追った。
エリアス様が、僕を抱き上げ頬擦りする。
「クレール、ママに教えてあげるなんて優しいな」
「うん!」
満面の笑みで返した。
———僕には前世の記憶がある。
三年前のあの日、意識がなくなるまでの記憶が。
アシルとしての人生を終えた僕は、お腹の中の子供に転生した。
そして、アシルは元のアシルへと戻り、僕を産んでくれた。
僕が目を覚ました時、身動きが取れないものだから、今度は何に生まれ変わったのかと不安になり、泣きじゃくった。
すると、視界に薄らと顔を覗かせたのはアシルでないか。
状況が掴めるまで、またしばらくの時間を要したが、小さな手が見えた時、喋ろうとする程泣いてしまうと気付いた時、ようやく自分が二人の子供になったのだと理解出来た。
アシルは僕に“クレール”と名付けてくれていた。
『男の子だった時の名前はもう決めている』
そう言っていたのを思い出す。
アシルが蘇り、いろんな話をしていた時、僕の名前の話をした。
「洸希って言うんだ。希望の光って意味なんだよ」と自分の人生を振り返り、半ば自嘲して教えていた。
アシルは素敵な名前だと言って、とても気に入ってくれた。
どうやらその話を覚えてくれていたアシルは、「光り輝く」という意味を持つ名前を付けてくれたのだった。
感極まって僕はまた泣いた。
大人としての記憶はあれども、体の機能は赤ちゃんそのもの。動けるようになるのも人並みに苦労した。
赤ちゃんって、こんなに大変なのかと思う程、一つ一つの過程が難しい。
それでもほんの僅かな成長を、オーバーなまでに喜んでくれる周りの期待にもっと応えたくなるものだ。僕が歩けるようになってからの成長は、周りを大いに驚かせた。
僕があの時一緒に過ごしたコーキだと、いつかアシルに打ち明けたいと思う。
彼なら喜んでくれるのではないかと、今から楽しみだ。
それまでは、“クレール”として成長しなければならない。
以前、部屋の大きな姿見を覗き込んだ時、エリアス様譲りのサラサラの金髪に、アシルそのものの顔が映った。
これが、クレール・ベルクール……。
思わず自分に見惚れてしまい、『本物の天使みたいだ』なんて言わないように気を付けようと、自分に言い聞かせた。
「クレールの家庭教師が決まったのだ」
「もうですか?」
「あぁ、クレールは努力家だからね。早い方がいいだろうと思ってね」
「はい!」
「エリアス様、流石にまだ分からないですよ」
「良いのだ。クレールは私に似て、きっと勉強が大好きになるだろう」
目の前で、大好きな二人が笑っている。
───幸せだ。
三回目の人生は、きっとこんな毎日になるだろう。
エリアス様の膝に抱かれ、三人でティータイムを楽しむ。
談笑する二人を交互に見ながら、僕も笑う。
これを、最後の人生にしようと思うのだ。
だから、心残りの無い日々しよう。
大好きなエリアス様とアシルと過ごす日々を、思い出に刻みながら───
──第一章完結──
ここまでお付き合い下さり、大変ありがとうございます✨️
この後、第二章では【アシル・クローシャー編】
そして第三章では伊角洸希の三度目の人生である、
【クレール・ベルクール編】をお届けします。
そうです。洸希の夢であるアレが、まだ本人は叶えておりません。第三章ではその辺を絵描きたいと思っております。
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