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一章~伊角光希編~
86 番の報告
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『後悔なんてしていない』
頭の中でアシルが言う。
『最初は、側室で十分だと思っていた。アンナ様の事も、本当の姉のように思っていたし……でもそれは、本性を知らなかったから。今は、誰にもエリアス様を渡したくないって思ってる』
それは僕も同感だ。
この世界に転生したのち、アシルと会話をする中で立てられた僕たちの目標は、発情誘発剤を飲ませ、悪役令息の濡れ衣を着せた犯人を探すことだった。
犯人はまさかのエリアス様本人だったわけだが、真相を全て聞くことができて、むしろスッキリした。それに、それほどまでにエリアス様がアシルを想っていたと聞くことができて、ぼくもアシルも喜んでいる。
でも一番は……僕たちの最大の望みは、エリアス様の番になること。
アシルだけでは絶対に行動に出るなど出来なかった。
だから、エリアス様からアシルを奪ってくれて嬉しかったのだ。
僕はエリアス様に、アシルが言った通りの言葉で伝えた。
「エリアス様を恨むなど、以ての外です。僕は、番になれて喜んでいるのですから」
ニッコリと微笑む。
エリアス様は眉根に皺を寄せ、かぶりを振る。
「何故……何故私を責めない? アシルを手に入れたいがために、私の欲のまま振り回したのだ。怒っていいんだ。こんな時にまで、気を使わなくていい」
「そんなのは一言も思い浮かびません。今、僕からエリアス様に伝えたい言葉は、愛しています」
「アシル……私もだ。君を愛している。誰よりも大切な存在だ。これからも、私の側にいてくれ」
エリアス様の瞳から、大粒の涙が流れた。
キラキラと輝いて綺麗だと思った。
僕はその涙にキスをして、自分もエリアス様と共に歩んでいきたいと伝える。
エリアス様は僕の腰に腕を回し、引き寄せた。
こんなに落ち着く場所は他には無い。凭れたまま、手を繋ぎ、お互いの存在をただただ感じて過ごす。
「子供が産まれて落ち着いたら、挙式を上げよう。三人で一緒に」
「それは、とても素敵ですね」
エリアス様も僕も、もう過去の話はしなかった。
僕達にあるのは、未来へと続く道だけ。
それぞれの道がやっと一つに繋がった。これからは、ようやく並んで歩けるのだ。
「明日の朝一番に、番になった報告をしましょう」
「そうだな、きっとお父様は驚き過ぎて椅子から転げ落ちるだろう」
「まさか、そこまで!?」
その時は二人とも笑っていたが、翌日それが現実となる。
朝食時に番になった報告をすると、驚き過ぎた公爵様は椅子ごと倒れたのだ。
「お父様!! 大丈夫です?」
「あぁ、まさかこんな突然言われるとは、心の準備が出来ていなかった。しかし、おめでとう。エリアス、アシル」
「ありがとうございます」
周りで聞いていた使用人達からも歓声が上がり、今夜にでもお祝いをしなければならないと、突然バタバタと走り回る。
料理長の所へ飛んで行く侍女もいれば、各方面に連絡をと、走り去る秘書もいた。
ダイニングを出る頃には、既に屋敷中に情報が回っていたものだから、今度は僕達が驚いた。
あちこちから祝福の声を掛けられる。
歓喜に泣き出す侍女もいた。
その中にライリーの姿を見つけ、声をかける。
「ライリー、あなたに頼みたい事があります」
「なんでしょう?」
「この子が産まれたら、ライリーが専属の侍女になって下さい」
「わ、私なんかで……良いのでしょうか?」
「その為に、エリアス様もあなたを呼び戻した。そうでしょう? エリアス様」
「あぁ、その通りだ。ライリー、よろしく頼むよ」
「有り難きお言葉……謹んで、お受け致します」
ライリーはその場に泣き崩れた。
「こんなに賑やかな朝は、初めてです」
「私も初めてだ。君はまさに、我が家に幸福をもたらす天使だな」
子供の部屋を見に行こうと、再び歩き出す。
完成してから披露すると言って、僕は今日初めて子供の部屋を見る事になっていた。
手放しに喜べる幸福に、僕達は完全に気を緩めていた。
頭の中でアシルが言う。
『最初は、側室で十分だと思っていた。アンナ様の事も、本当の姉のように思っていたし……でもそれは、本性を知らなかったから。今は、誰にもエリアス様を渡したくないって思ってる』
それは僕も同感だ。
この世界に転生したのち、アシルと会話をする中で立てられた僕たちの目標は、発情誘発剤を飲ませ、悪役令息の濡れ衣を着せた犯人を探すことだった。
犯人はまさかのエリアス様本人だったわけだが、真相を全て聞くことができて、むしろスッキリした。それに、それほどまでにエリアス様がアシルを想っていたと聞くことができて、ぼくもアシルも喜んでいる。
でも一番は……僕たちの最大の望みは、エリアス様の番になること。
アシルだけでは絶対に行動に出るなど出来なかった。
だから、エリアス様からアシルを奪ってくれて嬉しかったのだ。
僕はエリアス様に、アシルが言った通りの言葉で伝えた。
「エリアス様を恨むなど、以ての外です。僕は、番になれて喜んでいるのですから」
ニッコリと微笑む。
エリアス様は眉根に皺を寄せ、かぶりを振る。
「何故……何故私を責めない? アシルを手に入れたいがために、私の欲のまま振り回したのだ。怒っていいんだ。こんな時にまで、気を使わなくていい」
「そんなのは一言も思い浮かびません。今、僕からエリアス様に伝えたい言葉は、愛しています」
「アシル……私もだ。君を愛している。誰よりも大切な存在だ。これからも、私の側にいてくれ」
エリアス様の瞳から、大粒の涙が流れた。
キラキラと輝いて綺麗だと思った。
僕はその涙にキスをして、自分もエリアス様と共に歩んでいきたいと伝える。
エリアス様は僕の腰に腕を回し、引き寄せた。
こんなに落ち着く場所は他には無い。凭れたまま、手を繋ぎ、お互いの存在をただただ感じて過ごす。
「子供が産まれて落ち着いたら、挙式を上げよう。三人で一緒に」
「それは、とても素敵ですね」
エリアス様も僕も、もう過去の話はしなかった。
僕達にあるのは、未来へと続く道だけ。
それぞれの道がやっと一つに繋がった。これからは、ようやく並んで歩けるのだ。
「明日の朝一番に、番になった報告をしましょう」
「そうだな、きっとお父様は驚き過ぎて椅子から転げ落ちるだろう」
「まさか、そこまで!?」
その時は二人とも笑っていたが、翌日それが現実となる。
朝食時に番になった報告をすると、驚き過ぎた公爵様は椅子ごと倒れたのだ。
「お父様!! 大丈夫です?」
「あぁ、まさかこんな突然言われるとは、心の準備が出来ていなかった。しかし、おめでとう。エリアス、アシル」
「ありがとうございます」
周りで聞いていた使用人達からも歓声が上がり、今夜にでもお祝いをしなければならないと、突然バタバタと走り回る。
料理長の所へ飛んで行く侍女もいれば、各方面に連絡をと、走り去る秘書もいた。
ダイニングを出る頃には、既に屋敷中に情報が回っていたものだから、今度は僕達が驚いた。
あちこちから祝福の声を掛けられる。
歓喜に泣き出す侍女もいた。
その中にライリーの姿を見つけ、声をかける。
「ライリー、あなたに頼みたい事があります」
「なんでしょう?」
「この子が産まれたら、ライリーが専属の侍女になって下さい」
「わ、私なんかで……良いのでしょうか?」
「その為に、エリアス様もあなたを呼び戻した。そうでしょう? エリアス様」
「あぁ、その通りだ。ライリー、よろしく頼むよ」
「有り難きお言葉……謹んで、お受け致します」
ライリーはその場に泣き崩れた。
「こんなに賑やかな朝は、初めてです」
「私も初めてだ。君はまさに、我が家に幸福をもたらす天使だな」
子供の部屋を見に行こうと、再び歩き出す。
完成してから披露すると言って、僕は今日初めて子供の部屋を見る事になっていた。
手放しに喜べる幸福に、僕達は完全に気を緩めていた。
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