【番外編スタート】公爵様を寝取った悪役令息に転生しましたが、子供が産まれるので幸せになるために、この事件解決させていただきます。

亜沙美多郎

文字の大きさ
上 下
37 / 221
一章~伊角光希編~

37 体の異変

しおりを挟む
 ルシィはダイニングの前でロラに捕まり、そのまま連れて行かれた。
 一人でダイニングへ入ると、アンナ様にキリアン様、そして公爵様が殆ど食事を済ませているという状態だった。

 会釈をして静かに席に着く。

 入れ替わるように公爵様が席を立った。
「私は人と会う約束があるから、お先に失礼するよ」
 そう言い残しダイニングを後にする。

 三人のダイニングは嫌な空気が流れていた。
 僕が一人になると何か言ってくるかもしれないと思ったが、今日は無言を貫いている二人。
 それはそれで妙だな。と思いつつも使用人の一人に目配せをして食事を運んでもらった。

 今日はエリアス様がいないから、きっとほんの僅かな食事しか出ないだろう。
 妊婦になってから、尋常じゃなく腹が減る。
 僕もアシルもそれほど食欲旺盛ではないが、それでも今までの量では到底足りない。
 合間でロラが部屋に運んでくれる食べ物も、パンやフルーツをカゴいっぱいに準備してもらっている。
 それを食間に二回に分けて食べ切っているのだ。

 しっかり食べられた日でもそんなだから、エリアス様が不在の日は食欲は尚更酷くなる。

「あれ……?」
 出された食事に目を見張る。
 今日は僕一人なのに、食事が通常通りの量が盛られているではないか。
 アンナ様が指示を出し損ねたのか、それとも今日はエリアス様がいると思ったのか。
 どうにせよ、期待していなかった分顔に嬉しさが出てしまっていただろう。

 僕が一人でダイニングに来たのが予想外で、バツ悪く喋らなかったのかな。なんて呑気に思った。

 アンナ様とキリアン様は終始無言でチラチラとこちらを見ては食事を済ませ、食後の紅茶を飲んでいる。

 僕は視界になるべく二人が入らないよう意識しながらも、有り難く食事を頂いた。
 数回フォークを口に運んだ頃、アンナ様とキリアン様が席を立った。
 やはり無言で気味が悪い。

 もしかするとルシィがここに来ないのを怒っているのか。
 それならもう無駄な話だ、ルシィはロラが連れて行っていない。
 怪しい液体の入った瓶も回収されている。
 
 表情には見せないが計画通りに進まずイライラしているかもしれない。

 キリアン様がアンナ様の腰に手を回しているのに気付いた。
 友達の距離感ではないように思う。
 さっきのロラの話を思い出す。
 ロラが見たのは二人のキスの現場だと断定してもいいのではないか。
 それならアンナはエリアス様を裏切ったことになる。

 キリアン様は無意識に腕を回していた。
 あんなにも自然な行動、慣れているとしか思えない。
 まるで普段からそうしているような振る舞いだ。

 食事をとりながら、アンナ様とキリアン様のことに頭が占領される。

「ん? あれ……?」
 指先に違和感を感じた。
 フォークを置き、指を擦り合わせる。

 やはり変だ。痺れている。
 さっきまで何もなかったのに。

 気のせい……?
 ダイニングの端に立っている使用人は、僕を見ていない。
 今日の食事の材料に何か入っているのか?

 ロラがまだ戻らない今、あの使用人に話しかけるには遠いが仕方ない。
 手を挙げて合図を送る。

 使用人が気づいてこちらへ足を進めると同時に、今度は吐き気に見舞われた。
「う……」

 急に悪阻が始まったのか?
 でも吐き気なら分かるが、手の痺れはなんだ?
 こちらへ向かう使用人も異変に気付き駆け寄る。

「うぇ……」
 床にへたり込み、さっき口にしたものを全て吐き出してしまった。

「アシル様、いかがなさいましたか?」
「……ロラを、呼んで……」
「アシル様!? アシル様!!」

 使用人の声に別の人も駆けつけ、急いでロラを呼びに行ってくれた。
 頭の中から声が聞こえた気がしたが、僕はそのまま意識を失った。
しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...