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一章~伊角光希編~
37 体の異変
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ルシィはダイニングの前でロラに捕まり、そのまま連れて行かれた。
一人でダイニングへ入ると、アンナ様にキリアン様、そして公爵様が殆ど食事を済ませているという状態だった。
会釈をして静かに席に着く。
入れ替わるように公爵様が席を立った。
「私は人と会う約束があるから、お先に失礼するよ」
そう言い残しダイニングを後にする。
三人のダイニングは嫌な空気が流れていた。
僕が一人になると何か言ってくるかもしれないと思ったが、今日は無言を貫いている二人。
それはそれで妙だな。と思いつつも使用人の一人に目配せをして食事を運んでもらった。
今日はエリアス様がいないから、きっとほんの僅かな食事しか出ないだろう。
妊婦になってから、尋常じゃなく腹が減る。
僕もアシルもそれほど食欲旺盛ではないが、それでも今までの量では到底足りない。
合間でロラが部屋に運んでくれる食べ物も、パンやフルーツをカゴいっぱいに準備してもらっている。
それを食間に二回に分けて食べ切っているのだ。
しっかり食べられた日でもそんなだから、エリアス様が不在の日は食欲は尚更酷くなる。
「あれ……?」
出された食事に目を見張る。
今日は僕一人なのに、食事が通常通りの量が盛られているではないか。
アンナ様が指示を出し損ねたのか、それとも今日はエリアス様がいると思ったのか。
どうにせよ、期待していなかった分顔に嬉しさが出てしまっていただろう。
僕が一人でダイニングに来たのが予想外で、バツ悪く喋らなかったのかな。なんて呑気に思った。
アンナ様とキリアン様は終始無言でチラチラとこちらを見ては食事を済ませ、食後の紅茶を飲んでいる。
僕は視界になるべく二人が入らないよう意識しながらも、有り難く食事を頂いた。
数回フォークを口に運んだ頃、アンナ様とキリアン様が席を立った。
やはり無言で気味が悪い。
もしかするとルシィがここに来ないのを怒っているのか。
それならもう無駄な話だ、ルシィはロラが連れて行っていない。
怪しい液体の入った瓶も回収されている。
表情には見せないが計画通りに進まずイライラしているかもしれない。
キリアン様がアンナ様の腰に手を回しているのに気付いた。
友達の距離感ではないように思う。
さっきのロラの話を思い出す。
ロラが見たのは二人のキスの現場だと断定してもいいのではないか。
それならアンナはエリアス様を裏切ったことになる。
キリアン様は無意識に腕を回していた。
あんなにも自然な行動、慣れているとしか思えない。
まるで普段からそうしているような振る舞いだ。
食事をとりながら、アンナ様とキリアン様のことに頭が占領される。
「ん? あれ……?」
指先に違和感を感じた。
フォークを置き、指を擦り合わせる。
やはり変だ。痺れている。
さっきまで何もなかったのに。
気のせい……?
ダイニングの端に立っている使用人は、僕を見ていない。
今日の食事の材料に何か入っているのか?
ロラがまだ戻らない今、あの使用人に話しかけるには遠いが仕方ない。
手を挙げて合図を送る。
使用人が気づいてこちらへ足を進めると同時に、今度は吐き気に見舞われた。
「う……」
急に悪阻が始まったのか?
でも吐き気なら分かるが、手の痺れはなんだ?
こちらへ向かう使用人も異変に気付き駆け寄る。
「うぇ……」
床にへたり込み、さっき口にしたものを全て吐き出してしまった。
「アシル様、いかがなさいましたか?」
「……ロラを、呼んで……」
「アシル様!? アシル様!!」
使用人の声に別の人も駆けつけ、急いでロラを呼びに行ってくれた。
頭の中から声が聞こえた気がしたが、僕はそのまま意識を失った。
一人でダイニングへ入ると、アンナ様にキリアン様、そして公爵様が殆ど食事を済ませているという状態だった。
会釈をして静かに席に着く。
入れ替わるように公爵様が席を立った。
「私は人と会う約束があるから、お先に失礼するよ」
そう言い残しダイニングを後にする。
三人のダイニングは嫌な空気が流れていた。
僕が一人になると何か言ってくるかもしれないと思ったが、今日は無言を貫いている二人。
それはそれで妙だな。と思いつつも使用人の一人に目配せをして食事を運んでもらった。
今日はエリアス様がいないから、きっとほんの僅かな食事しか出ないだろう。
妊婦になってから、尋常じゃなく腹が減る。
僕もアシルもそれほど食欲旺盛ではないが、それでも今までの量では到底足りない。
合間でロラが部屋に運んでくれる食べ物も、パンやフルーツをカゴいっぱいに準備してもらっている。
それを食間に二回に分けて食べ切っているのだ。
しっかり食べられた日でもそんなだから、エリアス様が不在の日は食欲は尚更酷くなる。
「あれ……?」
出された食事に目を見張る。
今日は僕一人なのに、食事が通常通りの量が盛られているではないか。
アンナ様が指示を出し損ねたのか、それとも今日はエリアス様がいると思ったのか。
どうにせよ、期待していなかった分顔に嬉しさが出てしまっていただろう。
僕が一人でダイニングに来たのが予想外で、バツ悪く喋らなかったのかな。なんて呑気に思った。
アンナ様とキリアン様は終始無言でチラチラとこちらを見ては食事を済ませ、食後の紅茶を飲んでいる。
僕は視界になるべく二人が入らないよう意識しながらも、有り難く食事を頂いた。
数回フォークを口に運んだ頃、アンナ様とキリアン様が席を立った。
やはり無言で気味が悪い。
もしかするとルシィがここに来ないのを怒っているのか。
それならもう無駄な話だ、ルシィはロラが連れて行っていない。
怪しい液体の入った瓶も回収されている。
表情には見せないが計画通りに進まずイライラしているかもしれない。
キリアン様がアンナ様の腰に手を回しているのに気付いた。
友達の距離感ではないように思う。
さっきのロラの話を思い出す。
ロラが見たのは二人のキスの現場だと断定してもいいのではないか。
それならアンナはエリアス様を裏切ったことになる。
キリアン様は無意識に腕を回していた。
あんなにも自然な行動、慣れているとしか思えない。
まるで普段からそうしているような振る舞いだ。
食事をとりながら、アンナ様とキリアン様のことに頭が占領される。
「ん? あれ……?」
指先に違和感を感じた。
フォークを置き、指を擦り合わせる。
やはり変だ。痺れている。
さっきまで何もなかったのに。
気のせい……?
ダイニングの端に立っている使用人は、僕を見ていない。
今日の食事の材料に何か入っているのか?
ロラがまだ戻らない今、あの使用人に話しかけるには遠いが仕方ない。
手を挙げて合図を送る。
使用人が気づいてこちらへ足を進めると同時に、今度は吐き気に見舞われた。
「う……」
急に悪阻が始まったのか?
でも吐き気なら分かるが、手の痺れはなんだ?
こちらへ向かう使用人も異変に気付き駆け寄る。
「うぇ……」
床にへたり込み、さっき口にしたものを全て吐き出してしまった。
「アシル様、いかがなさいましたか?」
「……ロラを、呼んで……」
「アシル様!? アシル様!!」
使用人の声に別の人も駆けつけ、急いでロラを呼びに行ってくれた。
頭の中から声が聞こえた気がしたが、僕はそのまま意識を失った。
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