【完結】後宮に舞うオメガは華より甘い蜜で誘う

亜沙美多郎

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其の参拾壱

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「飛龍様!!」
 会いたくて会いたくて仕方なかった。
 疲れているであろう飛龍の前では気丈に振る舞おうと決めていたが、顔を見た瞬間泣き崩れてしまった。
 自覚していた以上に寂しいと思っていたのだと、飛龍の姿が視界に入った瞬間思い知らされた。

 飛龍は青蝶に走り寄り、包み込んでくれた。飛龍の方が少し痩せている気がする。
 寝る間も惜しんで捜索していたのだろう。

 一緒に食事をしたいと伝えてもらっていたが、それよりも少しでも体を休めて欲しい。
 それを伝えたところ、飛龍も一緒に食事を摂るのを楽しみにしていたと言った。

「直ぐに準備をさせよう。遅くなって申し訳ない。腹が減っているだろう?」
 自分のことよりも青蝶を気にかけてくれるのは、現状を考えると申し訳なく感じる。
 飛龍の方こそ、もっと我儘を言えば良いのに……。

 毒を塗った犯人が特定できたのかを、聞いても良いのか。
 折角の二人の時間だから、無理やりでも明るい話をして過ごすべきか。
 青蝶も飛龍に気の使える人でありたいと思うが、正解が分からない。結局は飛龍に任せるのが得策なのだ。

 会えない期間、青蝶は食欲がなく、今度は飛龍に会えたことで胸がいっぱいになり、どちらにせよ食欲には繋がらなかった。

「青蝶、こちらへ……」
 あまり食欲のない青蝶を心配してか、飛龍が傍に来るよう促した。そのまま青蝶を自分の膝に座らせると粥を口元へと運ぶ。
「きっと食欲をなくしていたのだろう?」
「そんな!! こんなこと、許されません」
「今は二人きりだ。誰も文句など言わない。ほら、食べろ」
 飛龍の手から食事を摂るなど、考えてもみなかった。本当に良いのだろうか。
 じっと手元を見て悩んでいたが、思い切ってパクリと口にした。

 飛龍に視線だけを向けると、嬉しそうに微笑んでいる飛龍と目が合う。
 まるで餌付けされる鳥のようだと自虐的に思ったが、この笑顔を見て安心している自分もいる。

 こうして飛龍の体温を感じるのを心待ちにしていた。
 粥を飲み込むと、飛龍の肩に項垂れた。仕事を頑張って欲しいと思う反面、これだけ会えない日が続くのは堪える。それを飛龍には言えないが、せめて今くらいは自分から甘えさせて欲しい。

 飛龍は何も言わずに青蝶を引き寄せてくれた。
 食事もそこそこに、寝台へと移動する。

「青蝶、聞きたくないかもしれないが、今回の事件の話をしてもいいか?」
 横になり、腕枕の状態で飛龍が喋り始めた。
 青蝶は無言で頷く。
 飛龍は「また青蝶を落胆させるだろうが、包み隠さず話す」と言った。

 やはり、犯人は青蝶の知っている人物ということになる。
 ともなれば暁明と針房の長がいなくなった今、青蝶と僅かにも接点があったのはあの人しかいない。

「針房の見習い、小鈴シャオリンを知っているな?」
「……はい。彼女が毒を塗った張本人なのですか?」
「あぁ、そこは認めたが、どうも裏で操っている人物がいる。それを吐かないので苦戦しているのだ」
「小鈴は今はどこに?」
「冷宮だ。いつまで保つだろうな。真実を吐いたところで重罪は間逃れない。あやつは誰かを庇っているように感じるのだ」

 それで仕事場から各針房の部屋まで一斉捜索を行ったが、事件解決に繋がるものは何一つ見つからなかった。
 小鈴単独で行うには無理がありすぎる。
 裏で小鈴を操っている人物を炙り出さないことには、再び青蝶が狙われる可能性を秘めている。

「でも、僕は入宮した翌年にはあの殿舎へと移り住みました。小鈴の他に接触などありません。それどころか、僕の存在を知らない人が多数だと思うのです」
「問題は青蝶を知ってるかどうかではない。後宮内では針房から承恩尚宮スンウンサングンが選ばれたと話題になっている。それだけで十分狙われる理由になる。最初は女官の仕業かとも思ったのだが、それでは毒を塗る隙などない。それで捜査の幅を広げて針房へと赴いた」

 小鈴までは割と直ぐに辿り着いたという。しかし証言するたび食い違いが生まれる。
 小鈴から青蝶への殺意がどうしても見受けられなかった。
 そこで「誰かに頼まれたのか?」と尋ねたところ、あからさまな動揺を見せた。
 それを喋らないため、毒を手に入れた方法を聞くと、それも答えられないと言う。

 話は堂々巡り。

 自室に帰ってきたのは一度頭を無にしたかったのもあると言った。

「あの、話してなかったことがあるのですが」
 特に言う必要もないと思い、これまで飛龍に言わなかったことがある。
「何だ? 話してみろ」
「小鈴と暁明は、親子なんです。血は繋がっていませんが」
「何だって!?」
 
 これも暁明がこっそり教えてくれたことがあった。きっと暁明自身、青蝶に話たのを忘れているだろう。『亡き姉の子がいる』と、会話の流れでポロリと零していたことを。

 後宮で働いている自分の目が届くよう、小鈴も入宮させた。ここでいると働き口に困ることはないからと。

 青蝶に対して愛想もない小鈴ではあったが、その事実をこっそり知っていた青蝶は憎めなかった。いつか、心を開いてくれると期待していたのだ。
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