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其の拾伍
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いつの間にか眠っていた。
昨日はヒートが治らなくて、飛龍の香りを嗅いでは何度も自慰で果てた。
夢も見ずに朝まで眠ったのはいつぶりだろうか。
(朝まで……というか、正確には昼近くまで眠っていたのだが)
翌日、起きてすぐに来客があった。自分に会いに来る人など、あの人しか思いあたらない。
「おはよう、青蝶」
「おはようございます、殿下……あっ!!」
飛龍の顔を見るなり、青蝶は声を上げた。これが昨夜言っていた違いなのか。じっと飛龍の目を見る。
「その様子だと、昨日とは違うのだな?」
「は、はい……確かに違います。殿下のお顔が、見えますもの」
昨日までは見えなかった、飛龍の顔が見える。鮮明に見えるわけではないが、それでも全く違う。
何がどうなっているのか、頭が混乱してしまう。しかも飛龍は青蝶が見えるようになると、先から予測していた。なぜ青蝶の目が見えるようになると知っていたのか。
青蝶は、飛龍のことがますます分からなくなってしまった。
飛龍にまだ休んでいなさいと言われ、布団に横たわるも、飛龍から目が離せない。
「そんな熱心に見られると、口付けたくなる」
言い終わると同時に唇が重なった。
昨日から、飛龍は口付ける度に舌を絡ませるようになった。日の高い真昼間から、変な気分になってしまう。それでも嬉しいと思ってしまうのは、飛龍が憧れの存在だからか、それともΩの性によるものか……。
「なぜ、僕の視力が回復すると分かったのですか?」
何故そのような口付けをするのか……とは聞けず、気持ちを誤魔化すように尋ねる。すると、飛龍から出た言葉は青蝶にとって衝撃的な内容だった。
「青蝶の病気に効くのは薬ではなく、運命の番の体液だと分かったのだ」
「体液!?」
「そうだ。つまりそれは、私の体液を指している」
「なぜ、殿下のものだと断言できますか?」
「答えは簡単。私は、運命の番以外には発情しないからだ。今まで誰が相手でも欲情したことはない。青蝶、君に出会うまではね」
喋りながらも、飛龍は青蝶の髪を撫でてくれる。そうしながら、この三ヶ月の間に調べた百花瘴気について判明した事を教えてくれた。
そもそも病気が発症したのは、運命の番が近くに存在したことが原因していると話した。
「きっとそれは、青蝶が原因ではなく、私が引き寄せたと思うのが自然だ。私はさっきも言ったように、運命の番にしか欲情しない。青蝶が現れたことで私が其方を強く求めた結果、病気を発症させた。運命が青蝶を縛り付けたのだ」
「必然的に、殿下としか生きられない体質になったと言うことですか?」
「その通りだ。私と番になり、常に私の体液を吸収しなければ、其方は精気を失い息絶える。私のαの性が強く作動した結果だ」
飛龍は青蝶の顔を覗き込んで「申し訳なく思っている」と眉を垂らす。そんな飛龍を青蝶は何だか可愛らしく思った。首を振り「光栄です」と答える。
「僕はずっと怖かったのです。この病気で、自分が息絶える未来が……仕事も次第に出来なくなってきましたし、竹の合間を飛ぶ蝶も、美しい刺繍も見えなくなり、自分の存在意義を見失っていました」
「青蝶はただ私の為だけに存在していて欲しいのだ。青蝶を初めて見た時から、ずっと探していた。なのに中々見つけ出せなかった。それでこんなに病気を進ませてしまい、本当にすまない」
飛龍は頭を下げたが、それは青蝶が誰にも見つかならないよう身を潜めていたからだ。あの場所を知っているのは暁明と針房の長、そして仕事と食事を運んでくれている、同じ針房見習いの三人のみ。誰も口外などしない。
後宮に来てから翌年にはあの殿舎に追いやられた。今では青蝶の存在すら知らない人のほうが多いだろう。
飛龍が諦めていれば、今頃自分は……。
「強い薬を飲んでも、意味なかったのですね」
殆ど食事を摂らないにも関わらず、無理して強い薬に変えた結果、胃が痛むことが多くなった。それに加えて夜の売春行為で神経まで病んでいた。この頃では朝になっても起き上がれない日も多くあった。
その全てが無意味と分かり、色んな意味で脱力した。
もう薬を、飲まなくても良いという安心感、そしてこれまでの無駄な努力。なんとも言えない感情が渋滞している。
気を張っていた今までの疲労が一気に押し寄せ、自分の体が重く布団に沈んでいくような感覚さえする。
「発情期が終わるまでは仕事を休んで構わない。気分がいい時に好きなだけ機織りをすれば良い」
どうやら、仕事の合間に様子を伺いに来てくれたようだ。飛龍は青蝶の額に口付けると、「また夜に来る」と言って出て行ってしまった。
昨日はヒートが治らなくて、飛龍の香りを嗅いでは何度も自慰で果てた。
夢も見ずに朝まで眠ったのはいつぶりだろうか。
(朝まで……というか、正確には昼近くまで眠っていたのだが)
翌日、起きてすぐに来客があった。自分に会いに来る人など、あの人しか思いあたらない。
「おはよう、青蝶」
「おはようございます、殿下……あっ!!」
飛龍の顔を見るなり、青蝶は声を上げた。これが昨夜言っていた違いなのか。じっと飛龍の目を見る。
「その様子だと、昨日とは違うのだな?」
「は、はい……確かに違います。殿下のお顔が、見えますもの」
昨日までは見えなかった、飛龍の顔が見える。鮮明に見えるわけではないが、それでも全く違う。
何がどうなっているのか、頭が混乱してしまう。しかも飛龍は青蝶が見えるようになると、先から予測していた。なぜ青蝶の目が見えるようになると知っていたのか。
青蝶は、飛龍のことがますます分からなくなってしまった。
飛龍にまだ休んでいなさいと言われ、布団に横たわるも、飛龍から目が離せない。
「そんな熱心に見られると、口付けたくなる」
言い終わると同時に唇が重なった。
昨日から、飛龍は口付ける度に舌を絡ませるようになった。日の高い真昼間から、変な気分になってしまう。それでも嬉しいと思ってしまうのは、飛龍が憧れの存在だからか、それともΩの性によるものか……。
「なぜ、僕の視力が回復すると分かったのですか?」
何故そのような口付けをするのか……とは聞けず、気持ちを誤魔化すように尋ねる。すると、飛龍から出た言葉は青蝶にとって衝撃的な内容だった。
「青蝶の病気に効くのは薬ではなく、運命の番の体液だと分かったのだ」
「体液!?」
「そうだ。つまりそれは、私の体液を指している」
「なぜ、殿下のものだと断言できますか?」
「答えは簡単。私は、運命の番以外には発情しないからだ。今まで誰が相手でも欲情したことはない。青蝶、君に出会うまではね」
喋りながらも、飛龍は青蝶の髪を撫でてくれる。そうしながら、この三ヶ月の間に調べた百花瘴気について判明した事を教えてくれた。
そもそも病気が発症したのは、運命の番が近くに存在したことが原因していると話した。
「きっとそれは、青蝶が原因ではなく、私が引き寄せたと思うのが自然だ。私はさっきも言ったように、運命の番にしか欲情しない。青蝶が現れたことで私が其方を強く求めた結果、病気を発症させた。運命が青蝶を縛り付けたのだ」
「必然的に、殿下としか生きられない体質になったと言うことですか?」
「その通りだ。私と番になり、常に私の体液を吸収しなければ、其方は精気を失い息絶える。私のαの性が強く作動した結果だ」
飛龍は青蝶の顔を覗き込んで「申し訳なく思っている」と眉を垂らす。そんな飛龍を青蝶は何だか可愛らしく思った。首を振り「光栄です」と答える。
「僕はずっと怖かったのです。この病気で、自分が息絶える未来が……仕事も次第に出来なくなってきましたし、竹の合間を飛ぶ蝶も、美しい刺繍も見えなくなり、自分の存在意義を見失っていました」
「青蝶はただ私の為だけに存在していて欲しいのだ。青蝶を初めて見た時から、ずっと探していた。なのに中々見つけ出せなかった。それでこんなに病気を進ませてしまい、本当にすまない」
飛龍は頭を下げたが、それは青蝶が誰にも見つかならないよう身を潜めていたからだ。あの場所を知っているのは暁明と針房の長、そして仕事と食事を運んでくれている、同じ針房見習いの三人のみ。誰も口外などしない。
後宮に来てから翌年にはあの殿舎に追いやられた。今では青蝶の存在すら知らない人のほうが多いだろう。
飛龍が諦めていれば、今頃自分は……。
「強い薬を飲んでも、意味なかったのですね」
殆ど食事を摂らないにも関わらず、無理して強い薬に変えた結果、胃が痛むことが多くなった。それに加えて夜の売春行為で神経まで病んでいた。この頃では朝になっても起き上がれない日も多くあった。
その全てが無意味と分かり、色んな意味で脱力した。
もう薬を、飲まなくても良いという安心感、そしてこれまでの無駄な努力。なんとも言えない感情が渋滞している。
気を張っていた今までの疲労が一気に押し寄せ、自分の体が重く布団に沈んでいくような感覚さえする。
「発情期が終わるまでは仕事を休んで構わない。気分がいい時に好きなだけ機織りをすれば良い」
どうやら、仕事の合間に様子を伺いに来てくれたようだ。飛龍は青蝶の額に口付けると、「また夜に来る」と言って出て行ってしまった。
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