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其の拾壱
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翌日、自室へと帰った青蝶は、急いで暁明の元へと走って行った。青蝶から医務室まで行くことは殆どない。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「先生……」
青蝶は暁明の顔を見るなり泣き崩れた。今まで唯一、青蝶の味方をしてくれていた暁明だから、気が抜けたように緊張の糸が切れてしまった。
「おいおい、何かあったのか?」
暁明は訳もわからず、突然、泣き出した青蝶に駆け寄る。不器用に背中を撫でられると、青蝶は暁明に抱きついた。
「見えなくなってるんだ。目が……」
「なんだって!? いつからだ?」
「一昨日の夜。直ぐに言いたかったけど、ヒートが酷くて動けなかった」
「それ以来、ずっと見えないのか?」
「全く見えない訳じゃないけど、ぼんやりとしか見えない」
「そんな……」
暁明も全く予測していない事態に、困惑の色を見せた。視力や聴力に支障が出るかもしれないと言ったのは、ほんの僅かな可能性のはずだった。
まさかそれがこんなにも早く現実になるなんて……やはり、発情期の管理だけでは難病を抑えるのは難しいのか……。
「───青蝶、全面的に祭祀用の薬に変えてみるかい?」
「でもあれは、僕には強すぎるって……」
「もう普段の薬では抑えられてない。薬で管理しているにも関わらず、ヒートだって起こってしまった。これはもう効果が薄れていると考えた方がいい。しかし……」
「しかし?」
「あまりこんな話はしたくないが……。祭祀用の薬を普段から飲むには、青蝶のお給料ではとても賄えない」
暁明は申し訳なさそうに肩を落とした。今までの薬だって、他の見習いではとても買えるものではない。祭祀の時に飲んでいる薬となると、αが服用しているのと同等の価値があると言える。価格で言うと、普段青蝶が服用している薬の三倍になる。
「それに、あの薬を普段から飲むにはやはり体への負担も大きい。今まで以上に管理が大変になるんだ」
金銭的にも体への負担を考えても、暁明は安易に決定できないと言った。
「でも、それで症状が抑えられるなら、僕は飲みたいです」
まず仕事を失うわけにはいかない。それに、飛龍にも隠せておけるならそうしたい。
「勢いだけで決めることではないぞ、青蝶」
暁明はそう言うが、青蝶は可能性があるならそれに縋りたい一心だ。
「先生、またご奉仕も頑張りますから」
「青蝶……それは気が進まないよ」
「僕にはそれしか出来ません。どうか、薬が買えるように斡旋してください」
「……分かった。今夜、早速呼ぶが……本当にいいんだな?」
「はい……」
暁明は両手で顔をひと撫でして、ため息を吐いた。
青蝶にはそんな仕草も良く見えない。
再び自室へ帰ると、刺繍の続きを始める。なんとか色や柄が判断できる日中のうちに、少しでも仕事を進めなければならない。
そして夕方の日が暮れる前になると、急いで化粧をして痣を隠した。もうすぐ客がやってくる。青蝶は薬を買うために、男娼紛いな仕事もこなしていた。客は暁明が斡旋してくれる。
名前は互いに教えない。客もここでのことは一切口外しないというのがルールだ。
客が達するまで口で奉仕する。中には出した精液を飲めと言う客もいた。それに従うだけで金額を上乗せしてくれる。それ以上のことはしないというのも、暁明が定めてくれているから最後まで求めて来る者もいない。
客がそれらを守ってくれるのも、きっと店に行くよりも青蝶を頼るほうが色々と都合がいいからだろう。
何も好きでやっているのではない。生活のためには仕方のないことだ。後宮を追い出されれば、行く宛などどこにもない。青蝶が望むのは、ここで最期を迎えたい。そのために自分に出来ることなら何だってやる。
通路の方から足音が聞こえる。今夜の客が来たようだ。優しい人だと良いが、今日は少々乱暴にされても良いくらいには、自暴自棄になっていた。
ドアをノックもせずに男が入って来た。急いで深くお辞儀をして出迎えると、寝台へ座るよう促す。男は手慣れた様子で着物をはだけさせた。常連かもしれない。
青蝶は男の脚の間に顔を埋めると、まだ萎えている男根に口付けた。男は「ほう……」と卑猥なため息を吐く。青蝶は頭を無にして、ただ目の前にあるものに舌を這わせた。裏筋を舐めると、男のものに芯が通っていく。先端まで辿り着くと、丁寧に亀頭も舐める。それだけで、男のものは完全に勃起した。
「慣れたものだな。俺がここに通い始めた頃は、まだ辿々しかったのに」
その台詞から、青蝶がこの仕事を始めた頃からの客だと分かった。この男の声は覚えている。こんなところに来るような人間とは思えないほど、優しい喋り方をする。
時には仕事の愚痴を永遠に喋る人もいるが、この男からはそんな話も聞いたことがない。
たまに男の話に返事をしそうになるが、青蝶は自分のやるべきことだけに集中した。
男の先端から先走りの液が流れ出すと、小さな口いっぱいに男根を含ませる。
「んっ、んっ……」
「その小さな口で一生懸命奉仕してくれる姿が堪らないんだ」
男はそういうと、青蝶の頭に両手を添えた。
わざと淫靡な音が鳴るよう、唾液を含ませながら上下に扱くと、男は気持ち良さげな息を吐く。
「今日も飲んでくれ。礼は弾む」
頭に添えている手に力を込めると、男根を青蝶の喉奥まで突っ込み吐精した。
「っん!! ん、ふ……」
鼻にツンと抜ける匂いが気分を悪くさせるが、我慢してゴクンと音を出し嚥下する。
その後、男の男根を丁寧に口で綺麗にしていく。この些細な行為が意外なほど喜ばれる。
「また来るよ。これは暁明に内緒で持っておくといい」
男は青蝶の手に硬貨を数枚握らせてくれた。
「ありがとうございます」
小さな声で言うと、男は部屋を出て行った。
足音が遠ざかるのを、耳を澄まして聞いていた。客が皆、あの人のように優しければいいのに……なんて思ってしまう。
それでも口の中の気持ち悪さには耐えられない。青蝶は水をがぶ飲みして項垂れた。
これからは、毎日のようにいろんな客を相手にしなければいけなくなるだろう。
もしかすると、一晩に一人では薬代を賄えなくなるかもしれない。一人でもこの疲労感だ。これ以上はとても相手になどできない。
未来の不安に苛まれていた時、再びドアが開いた。
「誰?」
今日、二人も客が来るなど聞いてはいない。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「先生……」
青蝶は暁明の顔を見るなり泣き崩れた。今まで唯一、青蝶の味方をしてくれていた暁明だから、気が抜けたように緊張の糸が切れてしまった。
「おいおい、何かあったのか?」
暁明は訳もわからず、突然、泣き出した青蝶に駆け寄る。不器用に背中を撫でられると、青蝶は暁明に抱きついた。
「見えなくなってるんだ。目が……」
「なんだって!? いつからだ?」
「一昨日の夜。直ぐに言いたかったけど、ヒートが酷くて動けなかった」
「それ以来、ずっと見えないのか?」
「全く見えない訳じゃないけど、ぼんやりとしか見えない」
「そんな……」
暁明も全く予測していない事態に、困惑の色を見せた。視力や聴力に支障が出るかもしれないと言ったのは、ほんの僅かな可能性のはずだった。
まさかそれがこんなにも早く現実になるなんて……やはり、発情期の管理だけでは難病を抑えるのは難しいのか……。
「───青蝶、全面的に祭祀用の薬に変えてみるかい?」
「でもあれは、僕には強すぎるって……」
「もう普段の薬では抑えられてない。薬で管理しているにも関わらず、ヒートだって起こってしまった。これはもう効果が薄れていると考えた方がいい。しかし……」
「しかし?」
「あまりこんな話はしたくないが……。祭祀用の薬を普段から飲むには、青蝶のお給料ではとても賄えない」
暁明は申し訳なさそうに肩を落とした。今までの薬だって、他の見習いではとても買えるものではない。祭祀の時に飲んでいる薬となると、αが服用しているのと同等の価値があると言える。価格で言うと、普段青蝶が服用している薬の三倍になる。
「それに、あの薬を普段から飲むにはやはり体への負担も大きい。今まで以上に管理が大変になるんだ」
金銭的にも体への負担を考えても、暁明は安易に決定できないと言った。
「でも、それで症状が抑えられるなら、僕は飲みたいです」
まず仕事を失うわけにはいかない。それに、飛龍にも隠せておけるならそうしたい。
「勢いだけで決めることではないぞ、青蝶」
暁明はそう言うが、青蝶は可能性があるならそれに縋りたい一心だ。
「先生、またご奉仕も頑張りますから」
「青蝶……それは気が進まないよ」
「僕にはそれしか出来ません。どうか、薬が買えるように斡旋してください」
「……分かった。今夜、早速呼ぶが……本当にいいんだな?」
「はい……」
暁明は両手で顔をひと撫でして、ため息を吐いた。
青蝶にはそんな仕草も良く見えない。
再び自室へ帰ると、刺繍の続きを始める。なんとか色や柄が判断できる日中のうちに、少しでも仕事を進めなければならない。
そして夕方の日が暮れる前になると、急いで化粧をして痣を隠した。もうすぐ客がやってくる。青蝶は薬を買うために、男娼紛いな仕事もこなしていた。客は暁明が斡旋してくれる。
名前は互いに教えない。客もここでのことは一切口外しないというのがルールだ。
客が達するまで口で奉仕する。中には出した精液を飲めと言う客もいた。それに従うだけで金額を上乗せしてくれる。それ以上のことはしないというのも、暁明が定めてくれているから最後まで求めて来る者もいない。
客がそれらを守ってくれるのも、きっと店に行くよりも青蝶を頼るほうが色々と都合がいいからだろう。
何も好きでやっているのではない。生活のためには仕方のないことだ。後宮を追い出されれば、行く宛などどこにもない。青蝶が望むのは、ここで最期を迎えたい。そのために自分に出来ることなら何だってやる。
通路の方から足音が聞こえる。今夜の客が来たようだ。優しい人だと良いが、今日は少々乱暴にされても良いくらいには、自暴自棄になっていた。
ドアをノックもせずに男が入って来た。急いで深くお辞儀をして出迎えると、寝台へ座るよう促す。男は手慣れた様子で着物をはだけさせた。常連かもしれない。
青蝶は男の脚の間に顔を埋めると、まだ萎えている男根に口付けた。男は「ほう……」と卑猥なため息を吐く。青蝶は頭を無にして、ただ目の前にあるものに舌を這わせた。裏筋を舐めると、男のものに芯が通っていく。先端まで辿り着くと、丁寧に亀頭も舐める。それだけで、男のものは完全に勃起した。
「慣れたものだな。俺がここに通い始めた頃は、まだ辿々しかったのに」
その台詞から、青蝶がこの仕事を始めた頃からの客だと分かった。この男の声は覚えている。こんなところに来るような人間とは思えないほど、優しい喋り方をする。
時には仕事の愚痴を永遠に喋る人もいるが、この男からはそんな話も聞いたことがない。
たまに男の話に返事をしそうになるが、青蝶は自分のやるべきことだけに集中した。
男の先端から先走りの液が流れ出すと、小さな口いっぱいに男根を含ませる。
「んっ、んっ……」
「その小さな口で一生懸命奉仕してくれる姿が堪らないんだ」
男はそういうと、青蝶の頭に両手を添えた。
わざと淫靡な音が鳴るよう、唾液を含ませながら上下に扱くと、男は気持ち良さげな息を吐く。
「今日も飲んでくれ。礼は弾む」
頭に添えている手に力を込めると、男根を青蝶の喉奥まで突っ込み吐精した。
「っん!! ん、ふ……」
鼻にツンと抜ける匂いが気分を悪くさせるが、我慢してゴクンと音を出し嚥下する。
その後、男の男根を丁寧に口で綺麗にしていく。この些細な行為が意外なほど喜ばれる。
「また来るよ。これは暁明に内緒で持っておくといい」
男は青蝶の手に硬貨を数枚握らせてくれた。
「ありがとうございます」
小さな声で言うと、男は部屋を出て行った。
足音が遠ざかるのを、耳を澄まして聞いていた。客が皆、あの人のように優しければいいのに……なんて思ってしまう。
それでも口の中の気持ち悪さには耐えられない。青蝶は水をがぶ飲みして項垂れた。
これからは、毎日のようにいろんな客を相手にしなければいけなくなるだろう。
もしかすると、一晩に一人では薬代を賄えなくなるかもしれない。一人でもこの疲労感だ。これ以上はとても相手になどできない。
未来の不安に苛まれていた時、再びドアが開いた。
「誰?」
今日、二人も客が来るなど聞いてはいない。
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