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其の玖

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 すっかり外は明るくなっていて、青蝶は窓を開け放ち、仕事に没頭した。明るいうちに少しでも進めておきたい。暗くなれば、きっと仕上がりに支障が出るほど見えなくなるだろう。
 ただでさえ厄介な性だというのに、その上仕事もまともに出来なければ、もう後宮で住むことさえ許されないかもしれない。病気で命を断つまではここで居られるなど、安易に思っていた。
 働けない見習いを、どうして置いてくれようか。

 暁明が言っていたのは単なる可能性であり、本当に視力が低下するなど、実感が持てなかった。完全に油断していた。

「そうだ。先生に相談しなくちゃ」
 暁明なら、薬を出してくれるかもしれない。視力の低下を抑制する薬があるのかさえ、青蝶は知らないが、気休めでもいい。方法があるなら試したい。
 直ぐにでも暁明を訪ねたいが、発情期の薬は飲み干してしまっていた。
 午後からはヒートが酷くなり、動ける状況ではなくなった。

「こんな体……」
 寝台に移動するだけでも体力を奪われる。まともな食事もしていない上、昨晩はずっと飛龍の部屋で過ごしていたため、一睡もしていない。

 体は疲れているのに、本能はαを求めている。触っていなくても中心は昂り、窄まりからはΩの分泌液が溢れ出す。
 熱を発散するように、自分の昂りを扱いた。

 思い出すのは飛龍の顔。あの逞しい腕の温もり。首にかかった吐息。
「飛龍さま……ぁあ、ふ……ん……」
 前を扱くだけでは足りない。もう片方の手を孔へ当てると、指を忍び込ませる。しとどに濡れた窄まりは、潤滑油も必要ないほどになっている。
 簡単に指を二本咥え、卑猥な水音を鳴らす。

 これが飛龍の指ならどんなに良いか……。想像しただけで、果ててしまいそうだ。
 きっと自分の指など比べ物にならないほど雄雄しいだろう。

「んっ……はぁぁ……ぁっん……飛龍さま、飛龍さま……ぁぁあああ~~~~っっ!!!」
 口付けられた感触が蘇った瞬間、全身が戦慄き、白濁を迸しらせた。
 脳裏に焼きついた飛龍が忘れられない。
 青蝶が発情期だと気付いていたのにも関わらず、一切襲わなかった。
 要するに、自分のフェロモンは飛龍を誘惑もできないほど弱いのだ。もしも飛龍が青蝶のフェロモンに宛てられていれば、きっとあのまま抱かれていただろう。

 許されないとは分かっていても、飛龍がもしあのまま自分を押し倒していれば、きっと抵抗はしなかったと思う。
 口では『駄目だ』と言ったとしても、きっと体は飛龍を求める。

 今だって、飛龍に抱かれたくて仕方がないくらいなのだ。あの手で愛撫されれば、きっと蕩ける程気持ちいいだろう。そう思っただけで、青蝶は再び気持ちが昂るのだった。

 自分の胸の突起を指で摘む。感じやすくなっている体は、簡単に反応した。
「あっ……んん……飛龍さま……」
 何度も名前を呼ぶ。頭の中では妄想の飛龍が思いのまま応えてくれた。
『青蝶、触って欲しいところを言ってくれ』
「僕の、ここ……」
『私を目の前に、こんな淫らな姿を晒してくれるのか』
「んぁぁ!! 殿下……」
『こんな時は、名前で呼んで欲しいものだ』
「飛龍さま、飛龍さまぁ……!!」
 
 昂りを扱く手に力を込めると、青蝶は再び白濁を飛び散らせる。
 妄想の中の飛龍は少し強引で、恋人のように青蝶を甘えさせてくれた。薬で押さえられないヒートは思考回路を停止させ、欲望のまま青蝶の劣情を誘う。何度絶頂に達しても、体の熱が冷める気配はない。きっと本物のαを求めているのだろうと思った。
 どんなに飛龍を思ったところで、飛龍の精液が青蝶に注がれることはない。Ωの性が満足することなど叶わない。

 青蝶は治ることのないヒートで何度も達し、ついに意識を手放した。夜に寝ていなかったこともあり、そのまま深い眠りについた。
 どのくらいの時間を眠っていただろうか。何度か起きなくては……と意識を戻しかけては体が反応してくれなかった。そうして再び眠る。これを繰り返してようやく目覚めた時、青蝶は見知らぬ部屋で目を覚ました。

 まだ夢を見ているのかと思い、寝台に横たわったまま部屋を見渡す。
 気付けば寝台だって青蝶の部屋とは全く違っている。こんなにも寝心地がいいなんて初めてだ。寝具も撫でるだけで極上のものだと判断できた。

「ここは……?」

 体を起こそうにも空腹と疲労で動かせそうになかった。ただぼんやりと、天蓋から垂れた煌びやかなな布の隙間から、その向こう側に広がる部屋に目を向けているだけで、まだしばらく何も考えられそうにはない。

 自分はヒートを起こして自室で苦しんでいたはずだった。その後のことは全く思い出せない。そういえば、部屋に誰かが入ってきたような気もしたが、夢か現実か、それが誰だったのかも、霞む記憶の中で何一つ鮮明に思い出せなかった。

 再び、目を閉じようとしたその時、天蓋から垂れる布の向こうから、一人の男が顔を覗かせた。
「目が覚めたか?」
 男は青蝶を愛しむ目で、優しく微笑んだ。
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