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アシェルさんへのサプライズ ーsideフォーリア
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子供達が生まれてもうすぐ一年が経とうとしている。アシュもウィローもすっかり村の人気者となっている。二人は特にディルにとても懐いていて、飛び回るディルを追いかけるのが一番好きな遊びだ。
ディルは孤児院の仕事をテキパキとこ熟し、最近では教会の神父としてもメイポップさんから引継ぎを行い始めた。
そんなディルに子供達の誕生日と、ずっと引き伸ばしになっているアシェルさんとの結婚式を教会で行いたいと相談したのが先月のことだった。
私の相談を聞いたディルは快く了承してくれ、折角なら結婚式はサプライズにしてはどうかと提案をしてくれた。
「それは名案だ! ぜひお願いしたい」
「そうこなくっちゃ! じゃあ、イアソンさんやブライアンさん、そしてオリビアさんも秘密で招待しよう」
そこからは急ピッチで準備が進められた。なにせたったの一ヶ月で結婚式と誕生日の準備をしなければいけないのだ。
母様やラムズさんも喜んで手を貸してくれた。
ブライアンさんも診療所に来た日は準備を手伝いに教会へ寄ってくれている。力仕事が出来るのが私とブライアンさんだけだったので、本当に助かった。
「ありがとうございます、ブライアンさん。忙しいのに」
「そんなこと言わないでくれ! アシェル兄さんの結婚式の準備に参加できるなんて光栄だよ。サプライズなんてワクワクするね」
ブライアンさんが悪戯っ子のように無邪気に笑った。
イアソンさんも村に来て準備を手伝いたいと豪語しているそうなのだが、流石に目立ち過ぎるので丁重にお断りをしておいた。イアソンさんが来た日には村中大騒ぎになるのは目に見えている。
村での準備には来てもらえないが、ローウェル家の馴染みの仕立て屋で衣装を手掛けてくれることとなった。この店は上流階級の人しか利用出来ない。体の隅々まで採寸してもらいながら、名家の人達の顧客リストの中に自分のカルテも入るのか。そう思っただけでも緊張感が身体中を駆け巡った。
「アシェルさんは妊娠前と体型は変わっていないようです」と伝えると、それならカルテがあるので心配いりませんと言ってくれた。
「アシェルおぼっちゃまは生まれた時から存じております。まさか結婚式のお衣装まで手掛けられるなんて。私めは幸せ者でございます」
その仕立て屋はイアソンさんよりももっと年上に見える。70歳くらいだろうか? 白髪の狐族だ。 とても品の良いゆったりとした喋り方をしている。
その日は子供の頃のアシェルさんの話も沢山聞けて楽しかった。
それから一ヶ月。準備は滞りなく遂行され、遂に当日の朝を迎える。
いつも通り、魔女の庭のテラスで朝食を終えると母様が子供達の着替えを担ってくれた。
自分達も小屋に戻り支度を始める。
そこに母様がやってきて
「子供達の写真を撮ってくれるそうだから先に家を出るわね」
と、二人を連れて家を出発した。
ここまでは順調だ。
しかし、今私たちが動けばローウェル家の馬車に出くわす可能性がある。もう少し時間稼ぎをしなければいけない。
「アシェルさん、ハーブティーを飲んでから出かけませんか?」
苦し紛れにお茶に誘ってみるとアシェルさんから「とんでもない」という視線を向けられた。
「何を言っているんだ? 子供たちの誕生日だろう? 何をそんな悠長に構えているんだ」
私はこの時になって時間稼ぎの対策を考えていなかったことを悔やんだ。
「まだ着いて間もないでしょうし、きっと遊んでいますよ」
はははっと力なく笑って誤魔化す。
「それでも一刻も早く出発だ! 写真撮影も見たいだろう? そんなにゆっくりするなんてフォーリアらしくない。何か理由でもあるのか?」
「いや、理由なんて……」
アシェルさんの鋭い質問に返す言葉も見つからない。
額にこっそりと冷や汗が滲む。嘘は苦手なのだ。
サプライズって難しいな。なんて焦りまくっている私に救世主が現れた。
店の方からベルが鳴る。
「おーーーい!! フォーリアーー!!」
ディルの大きな声が小屋まで届いた。あの小さな体からなぜあんなにも大声が出せるのか不思議で仕方ない。
「はーーい!! いま行きます!」
返事を返すと、アシェルさんに一先ずゆっくりしていてくださいと伝え、店に出た。
「おはよう、ディル。何か問題でも?」
予定よりも随分呼びに来るのが早い。何かあったのでは? と焦ったが、待ちきれないイアソンさん達がもう教会に着いたという知らせだった。
「アシェルさん呼び止めるのに苦労してるだろうと思ってな! 飛んで来てやったんだぜ」
「ディル! 本当にその通りだ!! 恩に切るよ」
これ以上は引き伸ばし用もなかった。イアソンさんたちが早く来てくれて良かった。
ディルを見送ると急いで小屋へと戻る。
「アシェルさん、すぐに出発しましょう」
「さっきまでゆっくりしましょうと言っていたのに、今度は出発しましょう?」
アシェルさんが私を見る目が不審そうだ。こういう時は多くを語らないに限る。
(ボロが出ては大変だ)
「と、とにかく教会へ向かいましょう!」
二人で家を出た。教会までは歩いても10分くらいだ。賑やかな声ですぐに気付かれてしまうかもしない。
さあ、サプライズの幕開けだ!
ディルは孤児院の仕事をテキパキとこ熟し、最近では教会の神父としてもメイポップさんから引継ぎを行い始めた。
そんなディルに子供達の誕生日と、ずっと引き伸ばしになっているアシェルさんとの結婚式を教会で行いたいと相談したのが先月のことだった。
私の相談を聞いたディルは快く了承してくれ、折角なら結婚式はサプライズにしてはどうかと提案をしてくれた。
「それは名案だ! ぜひお願いしたい」
「そうこなくっちゃ! じゃあ、イアソンさんやブライアンさん、そしてオリビアさんも秘密で招待しよう」
そこからは急ピッチで準備が進められた。なにせたったの一ヶ月で結婚式と誕生日の準備をしなければいけないのだ。
母様やラムズさんも喜んで手を貸してくれた。
ブライアンさんも診療所に来た日は準備を手伝いに教会へ寄ってくれている。力仕事が出来るのが私とブライアンさんだけだったので、本当に助かった。
「ありがとうございます、ブライアンさん。忙しいのに」
「そんなこと言わないでくれ! アシェル兄さんの結婚式の準備に参加できるなんて光栄だよ。サプライズなんてワクワクするね」
ブライアンさんが悪戯っ子のように無邪気に笑った。
イアソンさんも村に来て準備を手伝いたいと豪語しているそうなのだが、流石に目立ち過ぎるので丁重にお断りをしておいた。イアソンさんが来た日には村中大騒ぎになるのは目に見えている。
村での準備には来てもらえないが、ローウェル家の馴染みの仕立て屋で衣装を手掛けてくれることとなった。この店は上流階級の人しか利用出来ない。体の隅々まで採寸してもらいながら、名家の人達の顧客リストの中に自分のカルテも入るのか。そう思っただけでも緊張感が身体中を駆け巡った。
「アシェルさんは妊娠前と体型は変わっていないようです」と伝えると、それならカルテがあるので心配いりませんと言ってくれた。
「アシェルおぼっちゃまは生まれた時から存じております。まさか結婚式のお衣装まで手掛けられるなんて。私めは幸せ者でございます」
その仕立て屋はイアソンさんよりももっと年上に見える。70歳くらいだろうか? 白髪の狐族だ。 とても品の良いゆったりとした喋り方をしている。
その日は子供の頃のアシェルさんの話も沢山聞けて楽しかった。
それから一ヶ月。準備は滞りなく遂行され、遂に当日の朝を迎える。
いつも通り、魔女の庭のテラスで朝食を終えると母様が子供達の着替えを担ってくれた。
自分達も小屋に戻り支度を始める。
そこに母様がやってきて
「子供達の写真を撮ってくれるそうだから先に家を出るわね」
と、二人を連れて家を出発した。
ここまでは順調だ。
しかし、今私たちが動けばローウェル家の馬車に出くわす可能性がある。もう少し時間稼ぎをしなければいけない。
「アシェルさん、ハーブティーを飲んでから出かけませんか?」
苦し紛れにお茶に誘ってみるとアシェルさんから「とんでもない」という視線を向けられた。
「何を言っているんだ? 子供たちの誕生日だろう? 何をそんな悠長に構えているんだ」
私はこの時になって時間稼ぎの対策を考えていなかったことを悔やんだ。
「まだ着いて間もないでしょうし、きっと遊んでいますよ」
はははっと力なく笑って誤魔化す。
「それでも一刻も早く出発だ! 写真撮影も見たいだろう? そんなにゆっくりするなんてフォーリアらしくない。何か理由でもあるのか?」
「いや、理由なんて……」
アシェルさんの鋭い質問に返す言葉も見つからない。
額にこっそりと冷や汗が滲む。嘘は苦手なのだ。
サプライズって難しいな。なんて焦りまくっている私に救世主が現れた。
店の方からベルが鳴る。
「おーーーい!! フォーリアーー!!」
ディルの大きな声が小屋まで届いた。あの小さな体からなぜあんなにも大声が出せるのか不思議で仕方ない。
「はーーい!! いま行きます!」
返事を返すと、アシェルさんに一先ずゆっくりしていてくださいと伝え、店に出た。
「おはよう、ディル。何か問題でも?」
予定よりも随分呼びに来るのが早い。何かあったのでは? と焦ったが、待ちきれないイアソンさん達がもう教会に着いたという知らせだった。
「アシェルさん呼び止めるのに苦労してるだろうと思ってな! 飛んで来てやったんだぜ」
「ディル! 本当にその通りだ!! 恩に切るよ」
これ以上は引き伸ばし用もなかった。イアソンさんたちが早く来てくれて良かった。
ディルを見送ると急いで小屋へと戻る。
「アシェルさん、すぐに出発しましょう」
「さっきまでゆっくりしましょうと言っていたのに、今度は出発しましょう?」
アシェルさんが私を見る目が不審そうだ。こういう時は多くを語らないに限る。
(ボロが出ては大変だ)
「と、とにかく教会へ向かいましょう!」
二人で家を出た。教会までは歩いても10分くらいだ。賑やかな声ですぐに気付かれてしまうかもしない。
さあ、サプライズの幕開けだ!
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