上 下
60 / 61
after story

アシェルさんへのサプライズ ーsideフォーリア

しおりを挟む
 子供達が生まれてもうすぐ一年が経とうとしている。アシュもウィローもすっかり村の人気者となっている。二人は特にディルにとても懐いていて、飛び回るディルを追いかけるのが一番好きな遊びだ。

 ディルは孤児院の仕事をテキパキとこ熟し、最近では教会の神父としてもメイポップさんから引継ぎを行い始めた。

 そんなディルに子供達の誕生日と、ずっと引き伸ばしになっているアシェルさんとの結婚式を教会で行いたいと相談したのが先月のことだった。

 私の相談を聞いたディルは快く了承してくれ、折角なら結婚式はサプライズにしてはどうかと提案をしてくれた。

「それは名案だ! ぜひお願いしたい」
「そうこなくっちゃ! じゃあ、イアソンさんやブライアンさん、そしてオリビアさんも秘密で招待しよう」

 そこからは急ピッチで準備が進められた。なにせたったの一ヶ月で結婚式と誕生日の準備をしなければいけないのだ。

 母様やラムズさんも喜んで手を貸してくれた。

 ブライアンさんも診療所に来た日は準備を手伝いに教会へ寄ってくれている。力仕事が出来るのが私とブライアンさんだけだったので、本当に助かった。

「ありがとうございます、ブライアンさん。忙しいのに」
「そんなこと言わないでくれ! アシェル兄さんの結婚式の準備に参加できるなんて光栄だよ。サプライズなんてワクワクするね」
 ブライアンさんが悪戯っ子のように無邪気に笑った。

 イアソンさんも村に来て準備を手伝いたいと豪語しているそうなのだが、流石に目立ち過ぎるので丁重にお断りをしておいた。イアソンさんが来た日には村中大騒ぎになるのは目に見えている。

 村での準備には来てもらえないが、ローウェル家の馴染みの仕立て屋で衣装を手掛けてくれることとなった。この店は上流階級の人しか利用出来ない。体の隅々まで採寸してもらいながら、名家の人達の顧客リストの中に自分のカルテも入るのか。そう思っただけでも緊張感が身体中を駆け巡った。

「アシェルさんは妊娠前と体型は変わっていないようです」と伝えると、それならカルテがあるので心配いりませんと言ってくれた。

「アシェルおぼっちゃまは生まれた時から存じております。まさか結婚式のお衣装まで手掛けられるなんて。私めは幸せ者でございます」
 その仕立て屋はイアソンさんよりももっと年上に見える。70歳くらいだろうか? 白髪の狐族だ。 とても品の良いゆったりとした喋り方をしている。

 その日は子供の頃のアシェルさんの話も沢山聞けて楽しかった。


 それから一ヶ月。準備は滞りなく遂行され、遂に当日の朝を迎える。

 いつも通り、魔女の庭のテラスで朝食を終えると母様が子供達の着替えを担ってくれた。
 自分達も小屋に戻り支度を始める。

 そこに母様がやってきて
「子供達の写真を撮ってくれるそうだから先に家を出るわね」
 と、二人を連れて家を出発した。

 ここまでは順調だ。

 しかし、今私たちが動けばローウェル家の馬車に出くわす可能性がある。もう少し時間稼ぎをしなければいけない。

「アシェルさん、ハーブティーを飲んでから出かけませんか?」
 苦し紛れにお茶に誘ってみるとアシェルさんから「とんでもない」という視線を向けられた。

「何を言っているんだ? 子供たちの誕生日だろう? 何をそんな悠長に構えているんだ」
 
 私はこの時になって時間稼ぎの対策を考えていなかったことを悔やんだ。

「まだ着いて間もないでしょうし、きっと遊んでいますよ」
 はははっと力なく笑って誤魔化す。

「それでも一刻も早く出発だ! 写真撮影も見たいだろう? そんなにゆっくりするなんてフォーリアらしくない。何か理由でもあるのか?」
「いや、理由なんて……」

 アシェルさんの鋭い質問に返す言葉も見つからない。

 額にこっそりと冷や汗が滲む。嘘は苦手なのだ。

 サプライズって難しいな。なんて焦りまくっている私に救世主が現れた。

 店の方からベルが鳴る。
「おーーーい!! フォーリアーー!!」
 ディルの大きな声が小屋まで届いた。あの小さな体からなぜあんなにも大声が出せるのか不思議で仕方ない。

「はーーい!! いま行きます!」
 返事を返すと、アシェルさんに一先ずゆっくりしていてくださいと伝え、店に出た。

「おはよう、ディル。何か問題でも?」
 予定よりも随分呼びに来るのが早い。何かあったのでは? と焦ったが、待ちきれないイアソンさん達がもう教会に着いたという知らせだった。

「アシェルさん呼び止めるのに苦労してるだろうと思ってな! 飛んで来てやったんだぜ」
「ディル! 本当にその通りだ!! 恩に切るよ」

 これ以上は引き伸ばし用もなかった。イアソンさんたちが早く来てくれて良かった。

 ディルを見送ると急いで小屋へと戻る。
「アシェルさん、すぐに出発しましょう」
「さっきまでゆっくりしましょうと言っていたのに、今度は出発しましょう?」
 アシェルさんが私を見る目が不審そうだ。こういう時は多くを語らないに限る。
(ボロが出ては大変だ)
「と、とにかく教会へ向かいましょう!」

 二人で家を出た。教会までは歩いても10分くらいだ。賑やかな声ですぐに気付かれてしまうかもしない。

 さあ、サプライズの幕開けだ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】【Bl】死にかけ獣人が腹黒ドS王子様のペットになって溺愛される話

ペーパーナイフ
BL
主人公のクロは黒猫の獣人だった。逃げ出し、道で死にかけていたところ、運良く男に拾われるがそいつはヤンデレ絶倫王子で…。 「君をねじ伏せて恐怖に歪んだ顔が見たい」 「大嫌いなやつに気持ちよくされる気分はどう?」 こいつは俺が出会った中で一番美しく、そしてやばいやつだった。 可愛そうな獣人がヤンデレ王子に溺愛、監禁されて逃げ出そうにも嫉妬執着される話です。 注意 妊娠リバなし 流血残酷な表現あり エロ濃いめ 

ケモとボクとの傭兵生活

Fantome
BL
小柄な体格と中性的な容姿がコンプレックスの高校生、神無月薫が目を覚ますと、そこは獣人や竜人といった亜人が普通に存在する異世界であった。 目覚めて早々に危機的状況に陥る薫であったが、偶然そこを訪れた傭兵団『紅蓮の剣』団長であり竜人のギランに助けられ、成り行きで彼の運営する傭兵団の一員として働くことに。 しかし、そこでの日常は極めて過酷であった。日々舞い込んでくる危険な依頼に、ライバル傭兵団との確執。薫の求めていた非日常を遥かに上回る出来事が怒濤のように彼を襲う。 果たして、薫は元の世界へと帰還することが出来るのか。そして、薫を召喚した者の意図とはーーー 人間の女の子にはモテないけれど、イロイロと大きな獣人さん達には大人気な主人公が送る異世界転移ファンタジー、開幕。 ※二メートルを越える体の大きい様々な亜人さんに女の子顔した小柄な人間の少年が物語の中で徹底的に足腰立たなくなるまでヤられちゃう内容となっておりますので、苦手な方は御注意。 ちなみに本作に登場する亜人さんは耳と尻尾だけではなく、ほぼほぼ見た目は動物に近い所謂完全亜人ですので、さらに御注意。

βの僕、激強αのせいでΩにされた話

ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。 αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。 β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。 他の小説サイトにも登録してます。

皇太子が隣で正室を抱くので側室の俺は従僕と寝ることにします

grotta
BL
側室に入った狐獣人でΩのエメは、人間の皇太子ルーカスの寝所で正室オメガにより惨めな思いをさせられる。 そしてある日、狼獣人と人間のハーフであるヴィダルが従僕となった。彼は実は狼一族の子孫で、αだった。 二人は皇太子を騙して帝国を乗っ取るためにあることを企てる。 【狼一族の生き残りα×美人狐獣人Ω】 ※前半皇太子と正室による胸糞注意

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【R-18】僕のえっちな狼さん

衣草 薫
BL
内気で太っちょの僕が転生したのは豚人だらけの世界。 こっちでは僕みたいなデブがモテて、すらりと背の高いイケメンのシャンはみんなから疎まれていた。 お互いを理想の美男子だと思った僕らは村はずれのシャンの小屋で一緒に暮らすことに。 優しくて純情な彼とのスローライフを満喫するのだが……豚人にしてはやけにハンサムなシャンには実は秘密があって、暗がりで満月を連想するものを見ると人がいや獣が変わったように乱暴になって僕を押し倒し……。 R-18には※をつけています。

獣人辺境伯と白い花嫁~転化オメガは地上の楽園で愛でられる~

佐藤紗良
BL
*** 「ミア。いい加減、オメガに転化したって認めちゃいなよ」 「何度も申し上げますが、私はアルファです」 「夕べはアンアン言ってたのに?こんなに僕が愛してるのに??」 「記憶にございません。先ほどから、黙れと申し上げております。獣人に不当な扱いを受けた、と派遣規定に沿って上に報告せねばなりませんがよろしいですか」 *** ※独自解釈を加えたオメガバースBLファンタジーです。 ※獣姦シーンがあるため、自己責任でお願いします。 ※素敵な表紙はrimei様(https://twitter.com/rimei1226 )に描いて頂きました。転載等は固くお断りいたします。 [あらすじ]  温暖化、砂漠化、食糧難……。  人間が劣悪になった地上を捨て、地下へと入り込んで九百年。地上は浄化され、獣人と獣の住む楽園となっていた。  八十年ほど前から、地上回帰を狙う人間の調査派遣が行われるようになり、試験に15歳で合格したアルファのミアは一年の研修を経て、地上へ向かった。  順風満帆だった調査や研究。  二年の任期満了を目前に幼い頃、昔のネイチャー雑誌で見たホッキョクギツネが今も生息しているか確認するため、北への移動申請をだした。  そこで強いアルファ性をもつ獣人シャノンと出会い、転化してしまう。追い討ちを掛けるように現実を受け止め切れないミアが引き金となる事件が起こってしまいーー。 ツンドラの大地で紡がれるホッキョクギツネ獣人シャノン(性に奔放アルファ)×アルビノ人間ミア(隠れモフモフ大好き転化オメガ)の最果ての恋物語。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

処理中です...