【完結】家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた美形αが出会い愛を知る *挿絵入れました*

亜沙美多郎

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ヒート ーsideフォーリア

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 ウィローとアシュは健やかに育ち、慌ただしくも幸せな毎日はあっという間に流れていった。

 気付けば二人が生まれてから六ヶ月が経っており、二人とも動き回るのが大好きになっている。少し目を離すとどこにいったのか分からないほど素早いハイハイで追いかけっこの毎日だ。

「ウィロー? ミルクの時間だよ。……あれ? 居ないのかな? ミルクがウィローに飲んでほしいって言ってるよ」
 声をかけながら小屋のリビングを探し回る。
 
 魔女の庭に建てられている小屋は南側が全面ガラス張りでハーブガーデンが一望出来る。アシェルさんも初めて来た時からここらからの景色をとても気に入ってくれたが、それは子供達も然り。だいたい姿が見えないと思えばガラスに張り付いて外を眺めているのだった。

「ウィロー、見つけた!!」
 今日も今日とてアシュと二人並んで座り、ガーデンを眺めていた。

「あー、あー」
 ガラスをパシパシと叩いて外に出たいと訴えてくる。
「何? お外に出たいの? じゃあ、ミルクが飲めたらお散歩に行こうか」
「あー! あー!」
 二人は話が分かるのかな? と感じることがよくある。嬉しいことや楽しいことは見極められるのか。赤子は皆そうなのか? それとも、うちの子が天才なのかもしれない。

 ウィローとアシュを両手で抱え上げるとソファーに腰掛け、隣からアシェルさんがアシュを抱え膝に座らせた。

「さあ、たっぷり飲んで大きくなってね」
 アシェルさんがミルク瓶を傾けると、アシュが瓶を両手で抱えて勢いよく飲み干していく。
「あぁ! アシュ、そんなに勢いよく飲んだら溢れちゃう。少しずつ飲んで?」
 アシェルさんの言葉はどうやアシュには届いてないらしく、腹ペコのアシュはゴクゴクと音を鳴らして飲み干していった。

 アシェルさんは出産してから雰囲気が変わったように思う。前から美しかったが、母になったからか、とても穏やかで柔らかいオーラを放っている。アシュを抱いているアシェルさんの姿そのものが、ビーナスのように思える。

 アシュがミルクを飲み終わったのを確認すると、堪え切れずアシェルさんの頬にキスをした。
「フォーリア、急にどうした?」

 不意打ちでキスをしたものだからアシェルさんを驚かせてしまったようだ。
「アシェルさんがあまりにも綺麗なので、我慢できませんでした」
「もう! フォーリア、俺たちはもう結婚して子供も生まれたんだ。その……綺麗とか……そんなの烏滸がましい……だろ」
「そんなわけありません!! アシェルさんは今でもとても綺麗で……、いや、違う。出会った時からどんどん綺麗になっていってます!!」

 照れてアシェルさんの頬が赤く染まる。こんな表情をされるともっとアシェルさんを求めてしまいそうになってしまう。

 子供達はお腹いっぱいミルクを飲んでウトウトとしていた。
「ウィロー? アシュ? お散歩はお昼寝の後にする?」
「んまー、ううぅ……」
 どうやら散歩には行きたいらしい。眠そうな目をしながらも手で自分のお腹をポンポンと叩いて抵抗している。

「アシェルさん、私が二人を散歩させてきますから少し休んでいてくださいね」
「俺も一緒に行くよ」
「いえ、大丈夫です。二人ともすぐに眠ってしまいそうですし、アシェルさんも今のうちに寝てください」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

 今にも寝てしまいそうな子供二人を散歩用に改造した双子専用のカートに乗せ、ガーデンへと出た。ハーブガーデンは今日も心地よい気温で、暖かな風が緩やかに吹いている。
 葉と葉が擦れて奏でる葉音が丁度いい子守唄になってくれた。

(アシェルさんが休めるように長めに散歩しておこう)
 フェンネルやカモミールを通り過ぎて少し進むと、ガーデンでいつも食事を摂っているテラスがある。テラスをさらに奥に進み、イランイランの花が咲く方角を目指して歩いた。今晩飲むハーブティーは何にしようかと考えながら、のんびりとした時間を過ごした。


 しばらくして小屋に戻ると、ガーデンの見えるリビングにアシェルさんの姿は見当たらなかった。きっと寝室へ移動したのだろう。昨日も二人が夜中に長時間泣いていたから疲れているに決まっている。

 アシェルさんを起こさないようそっと小屋に入り、リビングに置いてあるベッドに二人を寝かせようとした時、母様が入ってきた。

「フォーリア、ラムズさんがウィローとアシュに会いにきてるの。連れていってもいいかしら?」
「今よく眠っているからしばらく起きないかもしれません。このままカートで移動しますか?」
「そうね、アシェルさんも休んでいるんでしょう? フォーリアも一緒に休んでいいわよ。今日はもう配達もないし」

 母様が二人を連れていったので、そうすることにした。

 フッと甘い香りが鼻を掠めたような気がした。そういえば産後、アシェルさんのヒートは一度も来ていない。

「あれ……もしかして……」
 そう気付いた途端に身体中が痺れるような感覚に見舞われた。

「暑い」
 体温がグングン上がっていく。アシェルさんが発情期に入ったのだ。母様が子供たちを連れていってくれて良かった。ラムズさんとなら長時間ティータイムは続くだろうし、万が一、二人が泣き出してもミルクも与えてくれる。

 リビングの奥の寝室へと向かった。ドア越しにもアシェルさんの香りが充満しているのが分かる。ゆっくりとドアを開けると、アシェルさんがベッドの上で大量の私の服に埋もれているではないか。これはオメガ特有の『巣作り』という行為で、アルファの香りに包まれて精神を安定させようとするものだ。

「ん……んふぅ……。フォーリア……はぁぁ」
 とろけそうな顔で私の服を抱きしめにおいを嗅いでいる。散歩からなかなか帰ってこない私を待ちきれなかったのだろう。

 結婚し、子供が産まれても尚、こうして求められているのだと実感した。


「アシェルさん」
 ベッドサイドに座り、アシェルさんの髪を撫でた。
「フォーリア……こっち、来て……」
 私の腕を引き寄せるアシェルさん。自分の息も荒くなっているのを自覚しながら服を床に落とし、布団に入った。

「ふぅぅん……フォーリアの匂い……ん、ん」
「アシェルさん、煽らないでください。我慢出来なくなりますから」
「我慢……しないで……欲しい……フォーリアが……欲し……」
 アシェルさんは私の懐に潜り込み、昂りを押し当ててくる。それは既に固くなっていた。思わず腰から抱えると下半身はグショグショに濡れていた。

 どうやら私が散歩に出たすぐ後にヒートが始まったようだ。

「優しくします」
 そう言ってアシェルさんの唇を塞いだ。
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