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命名式 ーsideフォーリア
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「フォーリア、見てくれ。この子はフォーリアにそっくりだ」
「本当ですね。まさか本当に二人生まれるなんて! 驚きました」
アシェルさんは予定よりも五日も早く出産を終えた。
『お腹の大きさから二人入っているのではないか』というイアソンさんの予想が見事に当たり、雪豹の男の子と銀狼の女の子の双子が生まれたのだ。
雪豹の男の子は私とそっくりのグレーのクリクリヘアーだ。そして銀狼の女の子はアシェルさんと同じ、白銀のサラサラヘアーに肌も透き通るように白い。
こんなにも可愛い子を産んでくれたアシェルさんには感謝の気持ちしかない。何度“ありがとう”と伝えても足りないくらいなのだ。
初めての出産により、酷い疲労で一日の殆どを寝て過ごしていたアシェルさんの体調も順調に快復へ向かっている。この分だと予定通りあと二日ほどで退院できそうだ。
私は早く自宅に二人の子供とアシェルさんを連れて帰りたいと思っているが、病院は至れり尽くせりでゆっくり休ませてもらえるから、アシェルさんは当分病院に居たいと言う。「それは私が困ります! 早く家族で暮らしたいです」と抱きしめた。するとアシェルさんは「冗談だよ」と笑って私の髪を撫でてくれた。
これじゃあまるで、私まで子供のようだ。自分で気づいて反省し、父様のような誇れる存在を目指そうと心に誓った。
病室にはイアソンさんやブライアンさん、そして一足先に出産を終えたオリビアさんも毎日訪ねて来てくれる。それに、ナースや他の先生達も赤子を見にくるので病室はいつだって賑やかだ。アシェルさんも久しぶりに病院の人たちと話が出来て終始楽しそうにしている。
そして二日後、ヒースマロウ村に帰るとすぐに魔女の庭にある小屋へと移動した。一年中暖かいここは、子供を育てるにも良い環境だ。薬がすぐに作れるという安心感もある。
二人の赤子は毎日ミルクをしっかりと飲み、元気いっぱいに泣いている。しかも二人同時に泣き始めるものだから、あやすのも大変だ。
「アシェルさん、後は私が見ていますから寝てください」
「ありがとうフォーリア。でもそれだとフォーリアが大変じゃないか」
「私は大丈夫です。ママの体調も大事なので、しっかり休んでくれないと!」
「じゃあ、お言葉に甘えて少し寝るとしよう」
赤子を抱っこしたまま口付ける。キスなんて毎日しているのにアシェルさんのキスは儚くて、それでいて情熱的で、私は今でもドキドキしてしまう。二人の呼吸が交わるように唇を重ね見つめ合った。
夜も更けていたのでアシェルさんには休んでもらう。ママに抱かれた銀狼の女の子は安心しきったように共に眠りについてくれた。
そしてその寝顔を眺めていると、いつの間にか雪豹の男の子も眠っていた。
「はぁ、幸せだ」
毎日この光景を見ては呟いてしまう。
この二人に母様とイアソンさんは何という名前をつけてくれただろうか。明日の命名式が楽しみで仕方がない。早く名前を呼んであげたい。ぐっすりと眠る家族を眺めながら、ソワソワして一人眠れぬ夜を過ごした。
そして迎えた次の日の命名式ではイアソンさんとブライアンさんが村まできてくれた。大量のお土産を持って……。子供服なんて全て着られないかもしれないと思うほど沢山だ。
二人とも一週間ぶりの赤子に夢中である。
「父さん、名前は決まった?」
「ああ、勿論だ。早く言いたくて仕方ない」
リビングに全員集まると、ハーブティーを嗜みながら自信満々の笑みでイアソンさんが言う。いよいよ子供達の名前の発表も時。
「じゃあ、父さんから発表して」
「あぁ。この雪豹の男の子の名前は“ウィロー”だ。“ウィロー・マティアス”」
「ウィロー」
早速呼んでみると、何となくウィローが笑った気がした。気に入ってくれたのかもしれない。
「次は母様の番ですよ」
「では私からも発表します。銀狼の女の子の名前は“アシュ”。“森のビーナス”と呼ばれている木の名前から取ったわ」
「それはこの子にピッタリだ!」
イアソンさんが一番に食いついた。
「ウィローにアシュ。良い名だ」
アシェルさんと目配せをして微笑み合う。二人の赤子も嬉しそうに手をパタパタと動かしている。
「アシェルの生まれた頃にソックリだ」
「父さんはずっと仕事をしていたんじゃないの?」
「馬鹿を言うな。陣痛の時からずっと付き添っていたんだ。アシェルは特に、私にとっても初めての子供だったし。使用人にお前の世話をされるなんて悔しいから時間を見つけては屋敷に戻っていた」
イアソンさんの言葉にアシェルさんは驚いていた。そんな話は初めて聞いたと言っている。
「まぁ、そんな昔の話は良いではないか。もっと子の名前を呼んでやってくれ」
イアソンさんの目尻は下がりっぱなしだ。先ほどまで黙って式を見守っていたブライアンさんも、もう我慢できない。と言わんばかりに子を抱え上げた。
「ブライアンさん、赤子の抱き方がお上手ですね」
「最近は小児科にも助っ人でよく行っているんだ。練習になってちょうどいいよ」
なかなかない休日には村の診療に通ってくれているブライアンさん。少しの疲れも見せずにいつもと変わらない優しい笑顔で抱っこをしているアシュに微笑みかけた。
「これからは病院はブライアンに任せて、私が村の診療所に通うことにするよ」
「え? 父さんが?」
突然イアソンさんが診療所に立つと言い出したものだから全員が驚いた。
「父さん、診療所を理由に孫の顔を見たいだけでしょう?」
「ははは! バレてしまったかな!」
早くも孫にメロメロのイアソンさんなのだった。
「本当ですね。まさか本当に二人生まれるなんて! 驚きました」
アシェルさんは予定よりも五日も早く出産を終えた。
『お腹の大きさから二人入っているのではないか』というイアソンさんの予想が見事に当たり、雪豹の男の子と銀狼の女の子の双子が生まれたのだ。
雪豹の男の子は私とそっくりのグレーのクリクリヘアーだ。そして銀狼の女の子はアシェルさんと同じ、白銀のサラサラヘアーに肌も透き通るように白い。
こんなにも可愛い子を産んでくれたアシェルさんには感謝の気持ちしかない。何度“ありがとう”と伝えても足りないくらいなのだ。
初めての出産により、酷い疲労で一日の殆どを寝て過ごしていたアシェルさんの体調も順調に快復へ向かっている。この分だと予定通りあと二日ほどで退院できそうだ。
私は早く自宅に二人の子供とアシェルさんを連れて帰りたいと思っているが、病院は至れり尽くせりでゆっくり休ませてもらえるから、アシェルさんは当分病院に居たいと言う。「それは私が困ります! 早く家族で暮らしたいです」と抱きしめた。するとアシェルさんは「冗談だよ」と笑って私の髪を撫でてくれた。
これじゃあまるで、私まで子供のようだ。自分で気づいて反省し、父様のような誇れる存在を目指そうと心に誓った。
病室にはイアソンさんやブライアンさん、そして一足先に出産を終えたオリビアさんも毎日訪ねて来てくれる。それに、ナースや他の先生達も赤子を見にくるので病室はいつだって賑やかだ。アシェルさんも久しぶりに病院の人たちと話が出来て終始楽しそうにしている。
そして二日後、ヒースマロウ村に帰るとすぐに魔女の庭にある小屋へと移動した。一年中暖かいここは、子供を育てるにも良い環境だ。薬がすぐに作れるという安心感もある。
二人の赤子は毎日ミルクをしっかりと飲み、元気いっぱいに泣いている。しかも二人同時に泣き始めるものだから、あやすのも大変だ。
「アシェルさん、後は私が見ていますから寝てください」
「ありがとうフォーリア。でもそれだとフォーリアが大変じゃないか」
「私は大丈夫です。ママの体調も大事なので、しっかり休んでくれないと!」
「じゃあ、お言葉に甘えて少し寝るとしよう」
赤子を抱っこしたまま口付ける。キスなんて毎日しているのにアシェルさんのキスは儚くて、それでいて情熱的で、私は今でもドキドキしてしまう。二人の呼吸が交わるように唇を重ね見つめ合った。
夜も更けていたのでアシェルさんには休んでもらう。ママに抱かれた銀狼の女の子は安心しきったように共に眠りについてくれた。
そしてその寝顔を眺めていると、いつの間にか雪豹の男の子も眠っていた。
「はぁ、幸せだ」
毎日この光景を見ては呟いてしまう。
この二人に母様とイアソンさんは何という名前をつけてくれただろうか。明日の命名式が楽しみで仕方がない。早く名前を呼んであげたい。ぐっすりと眠る家族を眺めながら、ソワソワして一人眠れぬ夜を過ごした。
そして迎えた次の日の命名式ではイアソンさんとブライアンさんが村まできてくれた。大量のお土産を持って……。子供服なんて全て着られないかもしれないと思うほど沢山だ。
二人とも一週間ぶりの赤子に夢中である。
「父さん、名前は決まった?」
「ああ、勿論だ。早く言いたくて仕方ない」
リビングに全員集まると、ハーブティーを嗜みながら自信満々の笑みでイアソンさんが言う。いよいよ子供達の名前の発表も時。
「じゃあ、父さんから発表して」
「あぁ。この雪豹の男の子の名前は“ウィロー”だ。“ウィロー・マティアス”」
「ウィロー」
早速呼んでみると、何となくウィローが笑った気がした。気に入ってくれたのかもしれない。
「次は母様の番ですよ」
「では私からも発表します。銀狼の女の子の名前は“アシュ”。“森のビーナス”と呼ばれている木の名前から取ったわ」
「それはこの子にピッタリだ!」
イアソンさんが一番に食いついた。
「ウィローにアシュ。良い名だ」
アシェルさんと目配せをして微笑み合う。二人の赤子も嬉しそうに手をパタパタと動かしている。
「アシェルの生まれた頃にソックリだ」
「父さんはずっと仕事をしていたんじゃないの?」
「馬鹿を言うな。陣痛の時からずっと付き添っていたんだ。アシェルは特に、私にとっても初めての子供だったし。使用人にお前の世話をされるなんて悔しいから時間を見つけては屋敷に戻っていた」
イアソンさんの言葉にアシェルさんは驚いていた。そんな話は初めて聞いたと言っている。
「まぁ、そんな昔の話は良いではないか。もっと子の名前を呼んでやってくれ」
イアソンさんの目尻は下がりっぱなしだ。先ほどまで黙って式を見守っていたブライアンさんも、もう我慢できない。と言わんばかりに子を抱え上げた。
「ブライアンさん、赤子の抱き方がお上手ですね」
「最近は小児科にも助っ人でよく行っているんだ。練習になってちょうどいいよ」
なかなかない休日には村の診療に通ってくれているブライアンさん。少しの疲れも見せずにいつもと変わらない優しい笑顔で抱っこをしているアシュに微笑みかけた。
「これからは病院はブライアンに任せて、私が村の診療所に通うことにするよ」
「え? 父さんが?」
突然イアソンさんが診療所に立つと言い出したものだから全員が驚いた。
「父さん、診療所を理由に孫の顔を見たいだけでしょう?」
「ははは! バレてしまったかな!」
早くも孫にメロメロのイアソンさんなのだった。
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