【完結】家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた美形αが出会い愛を知る *挿絵入れました*

亜沙美多郎

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フォーリア18歳、アシェル28歳 ー秘密のハーブガーデンー

とあるナースの証言 ーsideアシェル

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 一ヶ月ぶりのローウェル病院だった。発情誘発剤事件以降、久しぶりにここに戻ってきた。

「アシェルさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、フォーリアが居てくれるから」
 馬車を降り、フォーリアに肩を抱えるように支えられて関係者出入り口から院内へ入った。

「アシェルさん、何かあれば直ぐに言ってくださいね」
 フォーリアの優しさが一段と心に響く。

 一ヶ月も魔女の庭で過ごしていたからか、都会の空気がどうも息苦しく感じる。そして、院内がこんなにも薬品臭かったと初めて気づいた。自分が勤務していた時には麻痺していたのだろう。ずっとハーブや花、果実の香りだけで過ごしていたから、薬品の匂いを忘れてしまっていた。無意識に鼻呼吸を避けている自分が居た。

 階段で最上階まで上がると、一番奥の院長室へ入った。

「アシェル!!」
「父さん!! この度は本当に……」
「謝るなアシェル! お前は被害者だろう」
「ですが俺の所為でこんなことに……」
「アシェルの所為なんかじゃない!! さぁ、座りなさい」
 父さんに促され、ソファーに腰を下ろした。

 しばらくすると、ブライアンとディルも入室した。
「フォーリア! オリビアさんが攫われたってどういうことだよ!!」
「ディル、今日別宅へ行ってみたら置き手紙があったんだ」

 ディルが涙目でその紙を睨んでいる。俺の友人のためにこんなにも怒りを露わにしてくれるのが嬉しかった。
「ディル、ありがとう」
「なっ何がですか⁉︎」
 お礼を言われるようなタイミングではないと言わんばかりに驚いた顔を見せた。

「俺の友人のことで、そんなにも怒ってくれるのが嬉しいんだ」
「だって、オリビアさんは俺にも優しく接してくれたから……こんな、孤児院育ちの俺にも……。だから! 俺、オリビアさんが見つかるまで絶対諦めません! なんでも協力しますから!」
「うんディル、私もそう思っている! 攫ったとは書いてあるが、殺意は感じられない。こちらに何か条件を突きつけるつもりなんだろうと思ったのだが……」
 フォーリアが現時点での仮説を立てた。

「問題は誰が何処にオリビアさんを連れて行ったのかだ……」
「父さん、確信ではありませんがタリス兄さんがまたここ最近殆ど帰っていません。もしかして……」

 確かにタリスなら何でもやり兼ねない。ただ、学校も中退してしまっては医師も戻れない。
 母さんと一時険悪になっていたとブライアンから聞いたが、今はどうなんだろう。ローウェル家から少し離れて過ごしただけなのに、もうこんなにも家の状態が分からなくなっているなんて……。

 集まった全員でまず何をするべきかと話し合っていた時、突然ドアを小さくノックする音が聞こえた。

「誰かいるのか?」
 父さんが声をかける。少しの間沈黙になった。全員が同時に空耳を聞くとも思えず、俺は立ち上がり、ドアを開いた。

「君は!!」
「あ……あの!! アシェル先生が、おおおおお見えになってると……聞きまして……そそそそその……」
 院長室を訪ねてきたのは、俺と同じ病棟で働くナースだった。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。中に入って……」
 院長室へと招くと、怯えた声のまま失礼しますと小声で言って入室した。

「どうしたのかね?」
「いいい院長先生、アアアシェル……先生、ああああの……実は……」
 どうしたのだろう? 父さんと眴をし、ブライアンを見るも何も知らなそうだ。フォーリアとディルは何事だろうとそのナースをジッと見ている。

「アシェル先生が体調を崩したのは、私が悪いんです!!」
 全身震えながらナースが叫ぶように言い放った。
「なっ!!どう言うことなんだ?」
「院長先生、アシェル先生、申し訳ありません。全て私の所為です!! まさかアシェル先生があんな状態になるなんて……その時はビックリするしか出来なかったのですが、だんだん怖くなってきて……なんてことをしてしまったんだろうって……それで、今日アシェル先生がお見えになっていると噂を聞いて。ちゃんと謝ってから退職願を出そうと思って参りました」

 ナースは一気に喋り終えたが、このナースが一体俺に何をしたのだ? あの時の状況から、俺はお茶の中に誘発剤が混ぜられていたと推測していたが違ったのか?

「君、順を追ってもう一度説明してくれ。なぜ、アシェルの体調が急変したのが君に関係あるんだい?」
「すみません、院長先生。実はあの日、タリス先生に突然呼ばれました」
「「「タリスが!!??」」」
「はい、それで……あの……」
「ゆっくりでいいから話せるかい?」
「アシェル先生……はい……」
 ナースは今にも泣きそうだ。タリスに何か言われたのか?

「あの……実は……私、前からアシェル先生に惹かれていました。それをタリス先生は知っていたんです。それで、『自分が指示した通りに動いてくれたらアシェルの秘密を教えてやる』と言われました。それで……あのお茶は……私がアシェル先生のデスクに置いたんです」
 本当に申し訳ありませんでした。と深々と頭を下げる。そして手に持っていた辞表を父さんに差し出した。

「病院にも多大なるご迷惑をおかけしました。こんな形でしか罪を償えず、申し訳ございません」
「君……」
 父さんも困り果ててしまっている。そりゃそうだ、このナースはタリスに嵌められたのだ。

 院長室が静まり返っている。誰も喋ろうともせず、事態の悲惨さに茫然としていた。何も関係のないナースまで巻き込むなんて……。ローウェル家としても職場の上司としても、大問題だ。

「あなたは、悪くありません」
 一番に口を開いたのはフォーリアだった。

「万が一、あなたがアシェルさんを好きだったとしても、他の誰かだったとしても、タリスさんは利用できそうな人を見極めて言ってきたと思いますよ」
「フォーリアの言う通りだ。君は何も悪くない。俺と同じ被害者じゃないか。兄として謝罪させてほしい」
 俺が立ち上がると、ナースはやめて下さいとたじろいた。

「あのお茶はどんな状況だったとしても飲んでいた」
「でも、薬……」
「それは君が悪くない。悪いのはタリスだ」

 やはりタリスか……。大勢の前でヒートを起こさせて、周りの人に襲わせる作戦だったんだ。俺がフォーリアと番になる前にどうしても実行したかったというワケか。だから俺に好意を寄せているナースと使って……。


 そして実は俺がオメガだと暴露し、ローウェル病院から追い出すようにも仕向けてもいた……。

 俺が発情を起こせば全てはタリスの思いのままだ。あいつはどうしても俺に消えてほしいということか。そんなことせずとも、俺はもうジュニパーネトル街を出たというのに……。


 でも、これでオリビアの失踪もタリスが関連していると言って良さそうだ。

「……タリスを、探さないと……」
 待っていろよ、タリス……。絶対にオリビアを助けてみせる………。

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