【完結】家族に虐げられた高雅な銀狼Ωと慈愛に満ちた美形αが出会い愛を知る *挿絵入れました*

亜沙美多郎

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フォーリア18歳、アシェル28歳 ー秘密のハーブガーデンー

魔女の庭 ーsideフォーリア

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 アシェルさんの傷は幸い大したこともなく、塗り薬だけで治った。気になることは沢山あるものの、今は精神状態も良くはない。食欲も殆どないし、水やハーブティーは喜んで飲んでくれるが固形物は食べても戻してしまう。

 それでもベッドから体を起こしてハーブ園を眺めるのは、とても気に入っているらしく、起きている間はずっと魔女の庭を眺めて過ごしている。

「アシェルさん、ここにあなたを招待するのが夢でした」
 アシェルさんが静かに頷く。口角が僅かに上がった気がした。優しい目で庭から視線を離さないでいる。私はアシェルさんの肩を抱き、同じ景色を眺めていた。

「体力が回復したら、庭を散歩しましょう。ここは、誰にも見られる心配もありませんから」
「……誰にも?」
 微かに声を出して尋ねた。
「そうです。ここは“魔女の庭“と言って、地図にも載っていない、我が家の裏口からしか入れない、不思議な場所なんです」
 アシェルさんは顔だけを私に向けた。
「誰にも秘密の、ハーブガーデンですよ」

 それは凄い、とでも言っているような表情を見せた。私はなるべく先日のことを避けるように振る舞った。今は楽しいことだけを考えてほしい。

「ここは、本当に魔女が住んでいるのかと思うような不思議な土地なんです。季節関係なく色とりどりのハーブや花、果実が採れます。それに、タネを植えてから草花なら一日、果実でも三~五日あれば収穫できるようになります。ハーブの乾燥だって一時間あれば出来るんですよ。それに、この土地はいくらでも必要なだけ広がるんです」
「……早く……散歩……」
「ええ、行きましょうね。少しずつ、食べられそうなものから食べてくださいね」

 意識を戻してから五日程経ったが、アシェルさんはみるみる痩せてしまった。頬は痩け、手首なんかは折れてしまいそうな程細い。少しでも食べて欲しいが、事件が事件だっただけに無理強いも出来ない。少しでも気分が良くなるよう、カモミールにローズやラベンダーをブレンドしたハーブティーを飲んでもらった。


 その後は少しづつ体調も精神面も回復していき、ご飯もだんだんと食べられるようになった。さらに三日も経つと顔色も随分良くなった。

「アシェルさん、明日はハーブ園を歩いてみますか?」
「是非、案内してくれ」
 お喋りも短時間ならできる。

「ガーデンの真ん中にガゼボがあります。明日はそこで食事を摂りましょう。母様とも、そこで毎朝ご飯を一緒に食べています」

 魔女の庭はいつだって暖かいからアシェルさんも過ごしやすいだろう。思っていた形ではなかったが、こうしてアシェルさんをハーブ園に招くことが出来た。後はアシェルさんが元気になれるよう最善を尽くすのみだ。

 夜は悪い夢を見るようで、時折魘されては起きてしまう。そんな時は無理に寝かせようとせず、背中を撫でて気持ちを落ち着かせた。初めは震えていたがそれも徐々に治まり、私の腕の中でぐっすりと眠れるようになっていった。

 アシェルさんが眠っている間にハーブの手入れを済ませると、アシェルさんをガゼボまで案内する。朝でも暖かいことに驚いていた。

「ここは天国のようだ」
 ゆっくりと歩きながら、周りのハーブや花を見渡してウットリとしている。
「いい香りがする」と、深呼吸した。

 ガゼボに座ると母様が運んでくれたイングリッシュマフィンと、ローズヒップにペパーミントやローズマリーをブレンドしたハーブティーを嗜んだ。朝にピッタリの爽やかな香りと酸味が喉を潤す。

 そうして朝ごはんを食べた後はハーブ園を散策した。まだ疲れやすいので少しだけですよ、と言ったのに、アシェルさんは名残惜しそうに向こうも見たい、あっちにも行きたいと、小屋に帰りたがらない。仕方なく私はアシェルさんを抱き上げ、ハーブ園のあちこちを散策した。

 アシェルさんの嬉しそうな表情は久しぶりのように感じる。私も釣られて笑顔になっていく。二人だと何をしてても楽しい。都会育ちのアシェルさんに田舎の暮らしが合うのか心配していたが、こんなにも気に入ってくれているのだから問題ないだろう。

 ハーブ園の小屋に帰ると再びベッドで横になる。
「アシェルさん、もうこのまま我が家で住んでください。街へは危険すぎて帰せません。必要な荷物があるなら、私が取ってきます」

 会えないたった二日の間に襲われたのだ。もう今後離れて過ごすなんて考えたくもない。アシェルさんも頷き答えてくれた。

 

 ディルが村に帰ってきたのは二週間も経ってからだ。

 私はいつものように魔女の庭でアシェルさんと過ごしていて、二人でハーブを摘んでいる時だった。母様が私を呼びにきたのだ。

「フォーリア、ディルが訪ねてきてくれているわよ」
「ディルが!? 直ぐに行くよ!! アシェルさん、少し小屋で休んでてもらえますか?」
 大急ぎでハーブ園を後にした。

「ディル! 二週間も戻らないから心配していたんだ!」
「なかなか帰れなくてごめんよ、フォーリア。アシェルさんはどうだい?」
「うん、だいぶ回復してるよ。傷も大したことなかった」
 それは良かったとディルが呟いた。

「あのさ、ブライアンさんが孤児院に来てるんだ。フォーリアも来てくれないか?」
「ブライアンさんが!?」

 村人には暴露ないように変装してきたから大丈夫だ、とディルが言う。私も直ぐにいくと伝えた。奥でアシェルさんが休んでいるから伝えてから向かうよと言うと、ディルは先に帰っていった。


「アシェルさん、ブライアンさんが孤児院に来られているようなので会ってきますね」
「ブライアンが? 俺も行きたい」
「大丈夫ですか?」
「お願いだ。連れていってくれ」

 そりゃ、弟が村に来ているのだ。会いたくて当然だろう。母様に頼んで父様の服をアシェルさんに着てもらい、家を出た。

 初めて見る村に、アシェルさんは興味津々だ。意外にも色んな店があることに驚いている。もちろんジュニパーネトル街に比べれば規模も小さくて便利も良くはない。

 ただ街にはない穏やかな空気が流れていると感じたアシェルさんは、良い所だなと言ってくれた。

「街は良くも悪くも賑わっている。気丈に振る舞っていないと世間から置いていかれるような恐怖心が常にあった。でもここは違う。とても緩やかな時間の流れを感じる」

 何処にいても時間の過ぎるスピードは同じなのに……と、アシェルさんが笑った。

 ヴァルプルギス孤児院に着くと、ディルが自室まで案内してくれた。ディルは小さな鳥族だが、部屋は以外にも広かった。いつでも飛び回れるようにと、メイポップさんが気を遣ってくれたらしい。
 
 部屋へ入るとブライアンさんが立ち上がって出迎えてくれた。
「アシェル兄さん! フォーリア!」
「ブライアン!」
 二人で固く抱きしめあった。

「アシェル兄さん、ディルから話を聞いた時は気が気じゃなかったよ。よく無事でいてくれた」
「ブライアン、来てくれてありがとう。会いたかった……」

 それから私達は今回の事件について話し合った。
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