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フォーリア18歳、アシェル28歳 ー秘密のハーブガーデンー

プロポーズの後 ーsideアシェル

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 フォーリアからのプロポーズを受けた一週間後、オリビアのパートナーが予定よりも早く発情期に入り無事番になったと報告を受けた。

 子供の頃からずっと一緒だった彼女の幸せそうな笑顔に心から祝福の言葉を贈る。

「今度はアシェルが幸せになる番よ!」
 半ば強制のように言われてしまった。

 あの日以来、実はフォーリアと会えずにいる。俺も仕事で忙しいし、フォーリアも引っ越しの準備でバタバタとしている様子だった。俺が仕事が早く終わった日に限ってフォーリアは村に帰っていたりと、見事なすれ違いの日々を送っている。

 こんなことなら直ぐに返事をしておけば良かったと、今更ながら後悔してしまう。返事はいつでもいいとは言われているものの、早く自分の気持ちを伝えたいと気持ちが流行るのは、オリビアから番の報告を受けてしまったから。自分も早く番いたい欲求が増しているからなのかもしれない。

 全く勝手な奴だと呆れられても仕方ないだろう。

 でも俺もまもなく発情期に入る。それにフォーリアも三日後には村に帰ってしまうから、どうしてもそれまでに返事をしたいのだ。

 ようやく取れた休日、朝からフォーリアの借家へと向かった。居なければ置き手紙をドアに挟んで帰ろうと思っていたが、運よく部屋にいるようだ。

 プロポーズの返事をすると思うと緊張してしまうが、一つ深呼吸をしてからドアをノックした。


「アシェルさん!! 会いたかったです!!」
 勢いよくドアが開き、俺の姿を確認すると同時に抱きしめられた。その力強さに驚いて思わず笑ってしまう。
「ははっ……フォーリア、そんなに力を入れたら苦しい……」
「すみません。まさか一週間も会えないなんて思ってもいなかったので」
「そうだな。俺も会いたかった」
 再びフォーリアの胸に頬を寄せる。すると今度は優しく包み込んでくれた。とても、温かい……。

「とりあえず部屋に入りましょう」

 部屋の中はほとんどの荷物がなくなって殺風景になっていた。テーブルやベッドももう孤児院に運び込んだそうだ。

「今日はディルは居ないのか?」
「一緒に村へ帰る予定が、孤児院の職員の方が体調を崩してしまって、一足先に帰ったんですよ。また明後日には残りの荷物を取りに来ます」
「それは急だったな。じゃあ、今はフォーリアだけなんだ……」

 何かを期待しているように取られてしまった。フォーリアはハーブティーを淹れる手を止め、俺の腕を引き寄せた。

「アシェルさん、プロポーズの返事をしに来てくれたんじゃないのですか?」
 俺の返事も聞かない内から口付けられた。発情期が近いからフォーリアの甘いキスは危険だ。ヒートを起こしかねない。
 
 少し体を離して呼吸を整える。

「返事をしに来た」
「私と共に生きてくれますか?」
「……こんな俺でよければ……よろしくお願いします」
「アシェルさん!!」

 フォーリアが勢いよく抱きしめるものだから、そのまま二人して床に転んでしまった。そんなことも嬉しくて、顔を寄せて笑いあった。

「アシェルさん、村へ来てくれますか?」
「ああ、一緒に行くよ」
「仕事は大丈夫でしたか?」
「父にも許可を取ってある。何も問題はない」

 床に転んだまま、何度も唇を重ねる。オメガになってから、こんな幸せが訪れるなんて考えてもいなかった。偶然の出会いが運命を変えた。いや、きっと俺はフォーリアと番う為にオメガになったのだ。

「フォーリア」
「はい」
「俺の番になってください」
「勿論です」
 ニッコリと微笑んでいうと、俺の左手を手に取った。何事かとフォーリアを見ると、小さな箱を取り出し蓋を開ける。その中にはシルバーのシンプルなリングが入っていた。
「これ……は……」
「高価なものではないんですが、受け取ってもらえますか?」

 ゆっくりと薬指にリングを嵌めてくれた。

「人生で一番嬉しいプレゼントだ」
 左手をかざして一時眺めた。

「ふふ。アシェルさん、尻尾が千切れそうですよ」
 言葉で喜びを伝えずとも、尻尾を振りすぎて十分なほど伝わっている。

 フォーリアと番になれる喜びもあったが、仕事の責任感から解放されることにも安堵した。アルファだらけの中で危険を犯しながら働くのも、もう終わりなのだ。これでフォーリアと番になれたら、堂々とオメガとして歩んでいこう。


「アシェルさん、二日後一緒に我が家へ来てください」
 引っ越しは発情期が終わって、俺の体調が回復してからにしようと提案された。一先ずはフォーリアの家まで案内したいのだと言う。即答で承諾した。二日後、別宅で落ち合おうと約束をし、フォーリアは村へと帰っていった。


 父やブライアン、オリビアへ報告すると、みんなとても喜んでくれた。オリビアなんかは父よりも嬉しそうで歓喜まわって泣いている。

 子供の頃から何をするにもタイミングのよく被る俺たちだったが、まさか結婚のタイミングまで重なるとは、可笑しくてお互い笑ってしまった。

 そして、ローウェル病院はブライアンが後継となってくれと父から言い渡し、ブライアンも快諾した。

 併設する新病棟はオメガ専用病棟で、オリビアのお父様が経営するバーチ病院が提携して入ってくれることとなった。オリビアのパートナーもオメガで医師をしているそうだ。

「良い医師とはバース性では決まらないと、アシェルが教えてくれたからな」
 父が笑って言う。

「それに、私もパートナーと共に新病棟に入るからね!」
「オリビアが来てくれるとは頼もしいな」
「兄さん、こっちのことは心配いらないからね」

 ブライアンも生意気を言うようになったものだ。期待しているぞ、と激励を飛ばす。


 何もかもが順調だった。怖いくらいに。


 順調すぎて気を抜いていたのか……。担当の診察室に戻ると、机の上に置かれていたお茶を飲んだ。後に思えば俺のマグカップではなかったのに、自分のデスクに置かれていたものだから何の疑いもなく飲んでしまったのだ。

 フォーリアからもらっているものと味が違いすぎてハッと我に返った。


 そしてその数分後、突然酷い眩暈に襲われた。

(これは……発情⁉︎)

 いくら発情期が近いとはいえ、こんなにも急に体調が変わるなんてあり得ない。フォーリアの抑制剤を飲み始めてからは予定通りに発情期に入っていて、狂ったことはなかった。でも間違いなくこれはヒートの現象だ。

 このままではナースや患者にオメガだと暴露てしまう。急いで身を隠せる場所を探しに走った。どんどん呼吸が荒くなるのを感じたが必死に耐え、足を止めないことだけに集中する。偶然近くにいてくれたオリビアが走り寄り、自分の白衣で俺を包み支えてくれた。


 何とか病院の裏口から外に出ると、そのまま馬車に乗せ内側から鍵をかけた。
「アシェル!! 別宅を案内して!! 早くここを離れないと危険よ!!」

 朦朧とする意識の中、何とか場所を伝えると勢いよく馬車が走り始めた。

 別宅に着くと家の中まで俺を支え、直ぐに鍵をかけるよう念押しで伝えるとオリビアは帰っていった。

「……苦しい」
予定外の発情は今までにもあったが、こんな違和感のある発情は初めてだ。まるで無理矢理起こされたような……。

(発情誘発剤⁉︎)

 さっき飲んだお茶を思い出した。あの中に混ぜられていたのか。一体誰が……。
 こんなことは病院の関係者じゃなければ出来ないはずだ。だが、俺がオメガだと知っている人間なんて限られている。

 その後直ぐ、何も考えられなくなった。必死で寝室まで這って行くと、何とかベッドによじ登った。
 
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