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フォーリア18歳、アシェル28歳 ー秘密のハーブガーデンー
プロポーズ ーsideフォーリア
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「フォーリア!! 卒業おめでとう」
「アシェルさん、ありがとうございます!」
無事学校を卒業したお祝いに、ディルと共にレストランでの食事会に誘ってくれた。そこにはイアソンさんにブライアンさん、そしてオリビアさんも同席してくれている。
ディルは上流階級の人たちに囲まれて緊張している。ブライアンさんがいるのが少しだけ救いになっているようだが、こんなに大人しいディルは相当珍しい。
「フォーリア、首席で卒業なんて凄いじゃないか!」
「学校の勉強が楽しくて楽しくて。卒業するのも寂しいくらいです」
「そんなに充実した学校生活を送れたなら私も大満足だよ」
イアソンさんに通わせてもらった学校だから、首席で卒業できたのは良い恩返しになっただろう。それだけのために頑張ったわけではないが、それでも目に見える結果を残せたのは嬉しかった。
「卒業後はどうするの?」
「ディルと共に村へ帰ります」
オリビアさんはそれを勿体無いと言った。
「折角そんなに素晴らしい知識を得たのに、田舎ではなくジュニパーネトル街ならもっと活かせるじゃない!」
と、驚きを隠せない様子だ。
でも元々私は街で仕事をするために薬草学を学びたかったのではないのだ。
「私は村の人達のために薬草学を学びたかったのです。なので街に残るつもりはありません」
これはイアソンさんにも予め伝えていた。卒業しても医師会には入らないし、街にも残らないと。それでもイアソンさんは私を学校へ通わせてくれたのだ。
「イアソンさんには本当に感謝しています」
「それは私の方だよ、フォーリア。ずっと気にかかっていたオルダーへの償いがやっと出来た気分だ。村へ帰ってしまうのは寂しいが、君はもう私の家族だ。いつでも頼ってきなさい」
「ありがとうございます」
その後も楽しい時間を過ごした。初めは緊張していたディルもすっかり慣れてきている。
オリビアさんやイアソンさんも、私の前腕に座っている小さなディルに興味津々だ。
「ディルはカワセミなので、これ以上は大きくならないんです」
「でも、カワセミの中では大きい方だってダンテさんが言ってたけどな!」
身長四十センチほどのディルはみんなから可愛がられた。小さいと言うだけでディルも成人したのに、どうしても子供扱いしそうになってしまう。
「フォーリアとディルはいつ村に帰るんだい?」
ブライアンさんに尋ねられた。
「明日は一度帰ってきます。引っ越しまではあと十日ほどあるのですが……。そういえばアシェルさん、こっちで使っていた家具や寝具をヴァルプルギス孤児院に寄付しても良いでしょうか?」
寝具の他にも大きな家具類は全てアシェルさんが手配してくれていた。でも村に帰ると自分の部屋はそのまま残っているので使い道がない。それなら孤児院に寄付してはどうか、とディルと話し合ったのだ。アシェルさんも快諾してくれたので安心した。
「ありがとうございます。院長も喜びます」
ディルも深々とお辞儀をする。
食事会の後、ディルはブライアンさんと出掛けた。成人した記念にブライアンさん行きつけのバーに連れて行ってもらうらしい。ブライアンさんが一緒なら安心だ。
私はアシェルさんと一緒に借家へ帰った。アシェルさんが来るのは実は初めてだ。
「五年間もフォーリアが住んでいたのに、やっと来れたと思えばもう出て行ってしまうのか」
アシェルさんも苦笑いを浮かべた。
「アシェルさん、次の発情期に番になってください」
「っ! 突然どうした? フォーリア」
「だって、このまま私が村に帰れば今まで以上にアシェルさんと会えなくなります。発情期にも近付けないとなると、一体私たちはいつ会えますか? それに、私はこれ以上待てません!」
ベッドに並んで座ったまま話し込んだ。なんとかアシェルさんと会える手段を確保したい。そうなると、私は番う他の方法が思い浮かばない。
窓の外には星が瞬いている。春先の冷たい夜風が私たちの距離を近づけようと吹き込んできた。私は窓を閉めて、アシェルさんの肩を抱き締めた。何も今だけの勢いで言ったのではない。
「フォーリア、番になった後はどうするつもりだ?」
「その時は……。アシェルさん、ヒースマロウ村で私と共に人生を歩んではもらえませんか?」
「今の俺の仕事は?」
分かっている、アシェルさんがローウェル家の長男で、病院の跡継ぎということくらい。それでも私たちの未来は、ヒースマロウ村にしかない。
「番になったら、ローウェル病院は辞めてください」
無茶苦茶なことを言っていると自覚している。アシェルさんがこんな言葉に惑わされるわけはないのだ。それでも言わずにはいられない。この先ずっとアシェルさんと離れて暮らすなど、とてもじゃないが耐えられない。
それに……。アシェルさんには我が家の秘密を話しても大丈夫だ。決して裏切ったりはしない。この人だからこそ、私の秘密を共有してほしいと思ったのだ!
「アシェルさん、我が家へ来て下さい」
「フォーリア……」
アシェルさんの瞳には涙が溢れている。
「俺が村へ行っても良いのか?」
「将来的には全てを捨ててきて欲しいですが、今は我が家の秘密を共有して欲しいのです」
「マティアス家の……秘密?」
「そうです。誰にも秘密の我が家のハーブ園へ、来てくれますか?」
アシェルさんの頬に手を添え、口付けた。眼差しごと全てを奪うように、舌で絡め取った。
部屋には唾液の交わる淫靡な音と二人の息遣いだけが響いている。どちらからも止めようとしないのは、満月の所為かもしれない。
アシェルさんの答えがどうであれ、私はもうこの人を離す気は無い。
「アシェルさん、ありがとうございます!」
無事学校を卒業したお祝いに、ディルと共にレストランでの食事会に誘ってくれた。そこにはイアソンさんにブライアンさん、そしてオリビアさんも同席してくれている。
ディルは上流階級の人たちに囲まれて緊張している。ブライアンさんがいるのが少しだけ救いになっているようだが、こんなに大人しいディルは相当珍しい。
「フォーリア、首席で卒業なんて凄いじゃないか!」
「学校の勉強が楽しくて楽しくて。卒業するのも寂しいくらいです」
「そんなに充実した学校生活を送れたなら私も大満足だよ」
イアソンさんに通わせてもらった学校だから、首席で卒業できたのは良い恩返しになっただろう。それだけのために頑張ったわけではないが、それでも目に見える結果を残せたのは嬉しかった。
「卒業後はどうするの?」
「ディルと共に村へ帰ります」
オリビアさんはそれを勿体無いと言った。
「折角そんなに素晴らしい知識を得たのに、田舎ではなくジュニパーネトル街ならもっと活かせるじゃない!」
と、驚きを隠せない様子だ。
でも元々私は街で仕事をするために薬草学を学びたかったのではないのだ。
「私は村の人達のために薬草学を学びたかったのです。なので街に残るつもりはありません」
これはイアソンさんにも予め伝えていた。卒業しても医師会には入らないし、街にも残らないと。それでもイアソンさんは私を学校へ通わせてくれたのだ。
「イアソンさんには本当に感謝しています」
「それは私の方だよ、フォーリア。ずっと気にかかっていたオルダーへの償いがやっと出来た気分だ。村へ帰ってしまうのは寂しいが、君はもう私の家族だ。いつでも頼ってきなさい」
「ありがとうございます」
その後も楽しい時間を過ごした。初めは緊張していたディルもすっかり慣れてきている。
オリビアさんやイアソンさんも、私の前腕に座っている小さなディルに興味津々だ。
「ディルはカワセミなので、これ以上は大きくならないんです」
「でも、カワセミの中では大きい方だってダンテさんが言ってたけどな!」
身長四十センチほどのディルはみんなから可愛がられた。小さいと言うだけでディルも成人したのに、どうしても子供扱いしそうになってしまう。
「フォーリアとディルはいつ村に帰るんだい?」
ブライアンさんに尋ねられた。
「明日は一度帰ってきます。引っ越しまではあと十日ほどあるのですが……。そういえばアシェルさん、こっちで使っていた家具や寝具をヴァルプルギス孤児院に寄付しても良いでしょうか?」
寝具の他にも大きな家具類は全てアシェルさんが手配してくれていた。でも村に帰ると自分の部屋はそのまま残っているので使い道がない。それなら孤児院に寄付してはどうか、とディルと話し合ったのだ。アシェルさんも快諾してくれたので安心した。
「ありがとうございます。院長も喜びます」
ディルも深々とお辞儀をする。
食事会の後、ディルはブライアンさんと出掛けた。成人した記念にブライアンさん行きつけのバーに連れて行ってもらうらしい。ブライアンさんが一緒なら安心だ。
私はアシェルさんと一緒に借家へ帰った。アシェルさんが来るのは実は初めてだ。
「五年間もフォーリアが住んでいたのに、やっと来れたと思えばもう出て行ってしまうのか」
アシェルさんも苦笑いを浮かべた。
「アシェルさん、次の発情期に番になってください」
「っ! 突然どうした? フォーリア」
「だって、このまま私が村に帰れば今まで以上にアシェルさんと会えなくなります。発情期にも近付けないとなると、一体私たちはいつ会えますか? それに、私はこれ以上待てません!」
ベッドに並んで座ったまま話し込んだ。なんとかアシェルさんと会える手段を確保したい。そうなると、私は番う他の方法が思い浮かばない。
窓の外には星が瞬いている。春先の冷たい夜風が私たちの距離を近づけようと吹き込んできた。私は窓を閉めて、アシェルさんの肩を抱き締めた。何も今だけの勢いで言ったのではない。
「フォーリア、番になった後はどうするつもりだ?」
「その時は……。アシェルさん、ヒースマロウ村で私と共に人生を歩んではもらえませんか?」
「今の俺の仕事は?」
分かっている、アシェルさんがローウェル家の長男で、病院の跡継ぎということくらい。それでも私たちの未来は、ヒースマロウ村にしかない。
「番になったら、ローウェル病院は辞めてください」
無茶苦茶なことを言っていると自覚している。アシェルさんがこんな言葉に惑わされるわけはないのだ。それでも言わずにはいられない。この先ずっとアシェルさんと離れて暮らすなど、とてもじゃないが耐えられない。
それに……。アシェルさんには我が家の秘密を話しても大丈夫だ。決して裏切ったりはしない。この人だからこそ、私の秘密を共有してほしいと思ったのだ!
「アシェルさん、我が家へ来て下さい」
「フォーリア……」
アシェルさんの瞳には涙が溢れている。
「俺が村へ行っても良いのか?」
「将来的には全てを捨ててきて欲しいですが、今は我が家の秘密を共有して欲しいのです」
「マティアス家の……秘密?」
「そうです。誰にも秘密の我が家のハーブ園へ、来てくれますか?」
アシェルさんの頬に手を添え、口付けた。眼差しごと全てを奪うように、舌で絡め取った。
部屋には唾液の交わる淫靡な音と二人の息遣いだけが響いている。どちらからも止めようとしないのは、満月の所為かもしれない。
アシェルさんの答えがどうであれ、私はもうこの人を離す気は無い。
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