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フォーリア10歳、アシェル20歳 ーバース性判明からー

転機 ーsideフォーリア

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 紹介してくれたのはラクヌンガ学院で、学長とも深い交流があるそうだ。そして何より、ここは父様も通っていた学校なのだ。

 いくら学長と親しいとはいえ、試験に不正はしないで欲しいと強くお願いした。そこはイアソンさんも快諾してくれたのでホッとする。そして、ローウェル家の三男であるブライアンさんを家庭教師につけてはどうだと提案された。

「ブライアンか、それは良い。フォーリア、弟のブライアンはおっとりとしていて優しいし、フォーリアと歳も近い。きっとすぐに打ち解けるだろう」

 ブライアンさんは私よりも三歳年上で、一年前に受験を受けたばかりだそうだ。一番最新の試験にも対応出来るだろう。年が近いのも嬉しい。私は是非ともお願いしますと返事をした。


 イアソンさんはとても満足している様子だった。マティアス家の家族に会え、私の学校の面倒を見ると決まり、更にアシェルさんと私が番になると分かったのだ。こんなに一度に吉報を聞くなんて、信じられない! と感嘆の声をあげていた。

 ブライアンさんの家庭教師は週に一度、ローウェル病院の会議室を貸してくれる事となった。

 そして院長室を出て、階段を降りた所で再びオリビアさんと遭遇する。

「アシェル、帰る前に会えて良かったわ。今度こそ、その人達を紹介して頂戴! 私の勘だと……アシェルがプレゼントを渡した子じゃないの?」

「さすがはオリビア、鋭いな。さっきは急いでいたのもあったけど、一応先に父に紹介しておきたかったんだ。許してくれ」

 オリビアさんは私とアシェルさんが番になると聞くととても驚いていたが、「アシェルをよろしくね」と握手をしてもらえた。とても気さくで好印象な方だ。小児科医だと言っていたから、きっと子供からも人気がありそうだ。

「また休みが合えばお茶でもしましょう」
 そういうと、オリビアさんは仕事へ戻った。

 私達もまた馬車に乗り、別宅まで帰った。

 行きは緊張しかしていなかったが、帰りの馬車に揺られている間は充実感に満たされていた。アシェルさんを取り囲む人達は親切で面白くて、こんな子供の私を一瞬で受け入れてくれる器の大きな方ばかりだ。

 アシェルさんのお父様に会うのを躊躇っていたが、実際会って良かったと思えた。父様との誤解も解けたし、私達も父様と医師会の関係に疑問があったので、イアソンさんに話が聞けて真実を知れたし、何よりも父様の知らなかった情報まで聞けたのが嬉しかった。

 勿論、アシェルさんとの番も認めてもらえたのもそうだ。反対されると思っていたのに、あんなにも喜んでもらえるなんて……。

 今日という日はまさに人生の転機と言えよう。アシェルさんと出会った二年前が一回目の転機、そしてアシェルさんのお父様に会った今日は二度目の転機を迎えたのだと、喜びを噛み締めた。



 それから私は受験に向けて、毎週末ローウェル病院へと足を運んだ。別宅までは歩いて行き、そこからは馬車で移動した。迎えに来るのはアシェルさんの発情期中に食事などを運んでいる使用人だ。別宅が他人に暴露ないよう、密かに雇っているのだそう。

 きっと屋敷の使用人だと、弟さんが何かしら企んで事件を起こしかねないからだろうと思った。それに、こんな森にローウェル家の人がいるなんてのも知られてはいけないのだ。


 私は病院に着いてからもなるべく目立たないように慎重に移動した。雪豹族は珍しいので、毎回帽子で耳を隠していたし、丈の長いジャケットを母様に用意してもらった。他の患者に混じって入院病棟へ向かうふりをしながら会議室へと急いだ。

 ブライアンさんはアシェルさんの言った通りの人で、常にニコニコとしている。教えるのも上手なので私はみるみる実力を伸ばしていった。「この調子でいけば、受験なんて余裕で受かるよ」と、ブライアンさんは沢山私を褒めてくれる。

 改めて勉強をすると、薬草学や医学の勉強は本当に楽しい。もっともっと知識が欲しくなる。
 ブライアンさんとの限られた時間はとても貴重なものだし、時間がなるべくゆっくりと動くように願いながら勉強に勤しんだ。

 アシェルさんは時折会議室を覗きに来てくれたので、受験までの三年間は今までで一番顔を会わせられた。兄弟仲も良好で、三人で過ごす時間も私は気に入っている。


 一度だけ病院内でタリスさんを見かけたことがあった。体格はイアソンさんとよく似ていたが、チラリと見えた目つきが全然違う。ギラギラとしていて、いつ誰に襲いかかってもおかしくはない風貌だ。アシェルさんが近寄ってはいけないと言っていたのも理解出来る。

 その時のタリスさんは、受付カウンターを横切り、そのまま病院から出て行ってしまった。
後にも先にもタリスさんを見たのはその時だけだった。

 ブライアンさんにタリスさんのことを聞いたこともあったが、やはり近づかないのが賢明だと言われてしまった。
 タリス兄さんは変わってしまった、子供の頃の豪快で面白いタリス兄さんはもう居ない……と、悲しんでいる。


「そういえば、アシェル兄さん。タリス兄さんは最近殆ど家に帰ってきていないんだ。どうしたんだろう」
 丁度三人で話している時だった。話の流れでブライアンさんがアシェルさんに相談し始めた。家に帰らないなんて、どこで寝ているのだろう。友人の家に行ってるとか?

「この時期は社交会が頻繁に開催されているから、母さんと共に参加しているのだろう。全く、タリスは早く勤務態度を改めないとクビにすると父さんが言っていた。社交会に出たであろう翌日は必ず遅刻だ。ローウェル家の人間だからと言って仕事の時間や、ましてや診察の時間を変えていいわけがない」

 どうやらアシェルさんもイアソンさんも、このタリスさんには手を焼いているようだ。以前はアシェルさんへの嫌がらせが酷かった印象だが、最近何もタリスさんの話を聞かなくなったと思っていたのは社交会に行っていたからなのか。


 それから月日は流れ、私が無事ラクヌンガ学院の受験に合格する頃、ローウェル病院ではタリスさんがついに解雇され、さらには医師免許剥奪の窮地に立たされていたのだった。
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