32 / 61
フォーリア10歳、アシェル20歳 ーバース性判明からー
転機 ーsideフォーリア
しおりを挟む
紹介してくれたのはラクヌンガ学院で、学長とも深い交流があるそうだ。そして何より、ここは父様も通っていた学校なのだ。
いくら学長と親しいとはいえ、試験に不正はしないで欲しいと強くお願いした。そこはイアソンさんも快諾してくれたのでホッとする。そして、ローウェル家の三男であるブライアンさんを家庭教師につけてはどうだと提案された。
「ブライアンか、それは良い。フォーリア、弟のブライアンはおっとりとしていて優しいし、フォーリアと歳も近い。きっとすぐに打ち解けるだろう」
ブライアンさんは私よりも三歳年上で、一年前に受験を受けたばかりだそうだ。一番最新の試験にも対応出来るだろう。年が近いのも嬉しい。私は是非ともお願いしますと返事をした。
イアソンさんはとても満足している様子だった。マティアス家の家族に会え、私の学校の面倒を見ると決まり、更にアシェルさんと私が番になると分かったのだ。こんなに一度に吉報を聞くなんて、信じられない! と感嘆の声をあげていた。
ブライアンさんの家庭教師は週に一度、ローウェル病院の会議室を貸してくれる事となった。
そして院長室を出て、階段を降りた所で再びオリビアさんと遭遇する。
「アシェル、帰る前に会えて良かったわ。今度こそ、その人達を紹介して頂戴! 私の勘だと……アシェルがプレゼントを渡した子じゃないの?」
「さすがはオリビア、鋭いな。さっきは急いでいたのもあったけど、一応先に父に紹介しておきたかったんだ。許してくれ」
オリビアさんは私とアシェルさんが番になると聞くととても驚いていたが、「アシェルをよろしくね」と握手をしてもらえた。とても気さくで好印象な方だ。小児科医だと言っていたから、きっと子供からも人気がありそうだ。
「また休みが合えばお茶でもしましょう」
そういうと、オリビアさんは仕事へ戻った。
私達もまた馬車に乗り、別宅まで帰った。
行きは緊張しかしていなかったが、帰りの馬車に揺られている間は充実感に満たされていた。アシェルさんを取り囲む人達は親切で面白くて、こんな子供の私を一瞬で受け入れてくれる器の大きな方ばかりだ。
アシェルさんのお父様に会うのを躊躇っていたが、実際会って良かったと思えた。父様との誤解も解けたし、私達も父様と医師会の関係に疑問があったので、イアソンさんに話が聞けて真実を知れたし、何よりも父様の知らなかった情報まで聞けたのが嬉しかった。
勿論、アシェルさんとの番も認めてもらえたのもそうだ。反対されると思っていたのに、あんなにも喜んでもらえるなんて……。
今日という日はまさに人生の転機と言えよう。アシェルさんと出会った二年前が一回目の転機、そしてアシェルさんのお父様に会った今日は二度目の転機を迎えたのだと、喜びを噛み締めた。
それから私は受験に向けて、毎週末ローウェル病院へと足を運んだ。別宅までは歩いて行き、そこからは馬車で移動した。迎えに来るのはアシェルさんの発情期中に食事などを運んでいる使用人だ。別宅が他人に暴露ないよう、密かに雇っているのだそう。
きっと屋敷の使用人だと、弟さんが何かしら企んで事件を起こしかねないからだろうと思った。それに、こんな森にローウェル家の人がいるなんてのも知られてはいけないのだ。
私は病院に着いてからもなるべく目立たないように慎重に移動した。雪豹族は珍しいので、毎回帽子で耳を隠していたし、丈の長いジャケットを母様に用意してもらった。他の患者に混じって入院病棟へ向かうふりをしながら会議室へと急いだ。
ブライアンさんはアシェルさんの言った通りの人で、常にニコニコとしている。教えるのも上手なので私はみるみる実力を伸ばしていった。「この調子でいけば、受験なんて余裕で受かるよ」と、ブライアンさんは沢山私を褒めてくれる。
改めて勉強をすると、薬草学や医学の勉強は本当に楽しい。もっともっと知識が欲しくなる。
ブライアンさんとの限られた時間はとても貴重なものだし、時間がなるべくゆっくりと動くように願いながら勉強に勤しんだ。
アシェルさんは時折会議室を覗きに来てくれたので、受験までの三年間は今までで一番顔を会わせられた。兄弟仲も良好で、三人で過ごす時間も私は気に入っている。
一度だけ病院内でタリスさんを見かけたことがあった。体格はイアソンさんとよく似ていたが、チラリと見えた目つきが全然違う。ギラギラとしていて、いつ誰に襲いかかってもおかしくはない風貌だ。アシェルさんが近寄ってはいけないと言っていたのも理解出来る。
その時のタリスさんは、受付カウンターを横切り、そのまま病院から出て行ってしまった。
後にも先にもタリスさんを見たのはその時だけだった。
ブライアンさんにタリスさんのことを聞いたこともあったが、やはり近づかないのが賢明だと言われてしまった。
タリス兄さんは変わってしまった、子供の頃の豪快で面白いタリス兄さんはもう居ない……と、悲しんでいる。
「そういえば、アシェル兄さん。タリス兄さんは最近殆ど家に帰ってきていないんだ。どうしたんだろう」
丁度三人で話している時だった。話の流れでブライアンさんがアシェルさんに相談し始めた。家に帰らないなんて、どこで寝ているのだろう。友人の家に行ってるとか?
「この時期は社交会が頻繁に開催されているから、母さんと共に参加しているのだろう。全く、タリスは早く勤務態度を改めないとクビにすると父さんが言っていた。社交会に出たであろう翌日は必ず遅刻だ。ローウェル家の人間だからと言って仕事の時間や、ましてや診察の時間を変えていいわけがない」
どうやらアシェルさんもイアソンさんも、このタリスさんには手を焼いているようだ。以前はアシェルさんへの嫌がらせが酷かった印象だが、最近何もタリスさんの話を聞かなくなったと思っていたのは社交会に行っていたからなのか。
それから月日は流れ、私が無事ラクヌンガ学院の受験に合格する頃、ローウェル病院ではタリスさんがついに解雇され、さらには医師免許剥奪の窮地に立たされていたのだった。
いくら学長と親しいとはいえ、試験に不正はしないで欲しいと強くお願いした。そこはイアソンさんも快諾してくれたのでホッとする。そして、ローウェル家の三男であるブライアンさんを家庭教師につけてはどうだと提案された。
「ブライアンか、それは良い。フォーリア、弟のブライアンはおっとりとしていて優しいし、フォーリアと歳も近い。きっとすぐに打ち解けるだろう」
ブライアンさんは私よりも三歳年上で、一年前に受験を受けたばかりだそうだ。一番最新の試験にも対応出来るだろう。年が近いのも嬉しい。私は是非ともお願いしますと返事をした。
イアソンさんはとても満足している様子だった。マティアス家の家族に会え、私の学校の面倒を見ると決まり、更にアシェルさんと私が番になると分かったのだ。こんなに一度に吉報を聞くなんて、信じられない! と感嘆の声をあげていた。
ブライアンさんの家庭教師は週に一度、ローウェル病院の会議室を貸してくれる事となった。
そして院長室を出て、階段を降りた所で再びオリビアさんと遭遇する。
「アシェル、帰る前に会えて良かったわ。今度こそ、その人達を紹介して頂戴! 私の勘だと……アシェルがプレゼントを渡した子じゃないの?」
「さすがはオリビア、鋭いな。さっきは急いでいたのもあったけど、一応先に父に紹介しておきたかったんだ。許してくれ」
オリビアさんは私とアシェルさんが番になると聞くととても驚いていたが、「アシェルをよろしくね」と握手をしてもらえた。とても気さくで好印象な方だ。小児科医だと言っていたから、きっと子供からも人気がありそうだ。
「また休みが合えばお茶でもしましょう」
そういうと、オリビアさんは仕事へ戻った。
私達もまた馬車に乗り、別宅まで帰った。
行きは緊張しかしていなかったが、帰りの馬車に揺られている間は充実感に満たされていた。アシェルさんを取り囲む人達は親切で面白くて、こんな子供の私を一瞬で受け入れてくれる器の大きな方ばかりだ。
アシェルさんのお父様に会うのを躊躇っていたが、実際会って良かったと思えた。父様との誤解も解けたし、私達も父様と医師会の関係に疑問があったので、イアソンさんに話が聞けて真実を知れたし、何よりも父様の知らなかった情報まで聞けたのが嬉しかった。
勿論、アシェルさんとの番も認めてもらえたのもそうだ。反対されると思っていたのに、あんなにも喜んでもらえるなんて……。
今日という日はまさに人生の転機と言えよう。アシェルさんと出会った二年前が一回目の転機、そしてアシェルさんのお父様に会った今日は二度目の転機を迎えたのだと、喜びを噛み締めた。
それから私は受験に向けて、毎週末ローウェル病院へと足を運んだ。別宅までは歩いて行き、そこからは馬車で移動した。迎えに来るのはアシェルさんの発情期中に食事などを運んでいる使用人だ。別宅が他人に暴露ないよう、密かに雇っているのだそう。
きっと屋敷の使用人だと、弟さんが何かしら企んで事件を起こしかねないからだろうと思った。それに、こんな森にローウェル家の人がいるなんてのも知られてはいけないのだ。
私は病院に着いてからもなるべく目立たないように慎重に移動した。雪豹族は珍しいので、毎回帽子で耳を隠していたし、丈の長いジャケットを母様に用意してもらった。他の患者に混じって入院病棟へ向かうふりをしながら会議室へと急いだ。
ブライアンさんはアシェルさんの言った通りの人で、常にニコニコとしている。教えるのも上手なので私はみるみる実力を伸ばしていった。「この調子でいけば、受験なんて余裕で受かるよ」と、ブライアンさんは沢山私を褒めてくれる。
改めて勉強をすると、薬草学や医学の勉強は本当に楽しい。もっともっと知識が欲しくなる。
ブライアンさんとの限られた時間はとても貴重なものだし、時間がなるべくゆっくりと動くように願いながら勉強に勤しんだ。
アシェルさんは時折会議室を覗きに来てくれたので、受験までの三年間は今までで一番顔を会わせられた。兄弟仲も良好で、三人で過ごす時間も私は気に入っている。
一度だけ病院内でタリスさんを見かけたことがあった。体格はイアソンさんとよく似ていたが、チラリと見えた目つきが全然違う。ギラギラとしていて、いつ誰に襲いかかってもおかしくはない風貌だ。アシェルさんが近寄ってはいけないと言っていたのも理解出来る。
その時のタリスさんは、受付カウンターを横切り、そのまま病院から出て行ってしまった。
後にも先にもタリスさんを見たのはその時だけだった。
ブライアンさんにタリスさんのことを聞いたこともあったが、やはり近づかないのが賢明だと言われてしまった。
タリス兄さんは変わってしまった、子供の頃の豪快で面白いタリス兄さんはもう居ない……と、悲しんでいる。
「そういえば、アシェル兄さん。タリス兄さんは最近殆ど家に帰ってきていないんだ。どうしたんだろう」
丁度三人で話している時だった。話の流れでブライアンさんがアシェルさんに相談し始めた。家に帰らないなんて、どこで寝ているのだろう。友人の家に行ってるとか?
「この時期は社交会が頻繁に開催されているから、母さんと共に参加しているのだろう。全く、タリスは早く勤務態度を改めないとクビにすると父さんが言っていた。社交会に出たであろう翌日は必ず遅刻だ。ローウェル家の人間だからと言って仕事の時間や、ましてや診察の時間を変えていいわけがない」
どうやらアシェルさんもイアソンさんも、このタリスさんには手を焼いているようだ。以前はアシェルさんへの嫌がらせが酷かった印象だが、最近何もタリスさんの話を聞かなくなったと思っていたのは社交会に行っていたからなのか。
それから月日は流れ、私が無事ラクヌンガ学院の受験に合格する頃、ローウェル病院ではタリスさんがついに解雇され、さらには医師免許剥奪の窮地に立たされていたのだった。
17
お気に入りに追加
422
あなたにおすすめの小説
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる