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フォーリア10歳、アシェル20歳 ーバース性判明からー

一歩前進 ーsideフォーリア

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 母様にアシェルさんとの関係を認めてもらえたのは嬉しかった。それに、父様の抑制剤もアシェルさんに飲ませ良いなんて……。

 村へと帰る道中は口元がニヤけてしまって、自分でもくすぐったい気持ちになった。

 しかし……。母様は私たちの秘密の全てを話したわけではない。ハーブ園のことは一才話さなかった。実際、抑制剤の存在が暴露ようと私たちのハーブ園に辿り着かなければ何も意味がないのだ。

 魔女の庭は、私の家の裏口からじゃないと行けない。外からいくら探しても、地図にも載っていないあの場所には到底辿り着くことはない。

 きっと母様は、まだアシェルさんを全面的に信用したわけではないのだと思った。私がまだ子供だからと言う理由もあるのだろう。今は慕って番になると言っているが、未来なんてどうにでも変わってしまう。母様は、今後私が心変わりするかもしれないとでも思っているのだろうか。

 私はどんな素晴らしい人と出会ったとしても、番う相手はアシェルさんしか考えられのに!

 いつかはアシェルさんへの気持ちを確固たるものと母様に証明し、アシェルさんを魔女の庭へ招待したい。

 とりあえず今はアシェルさんに堂々と会いに行けるようになったのと、抑制剤を渡せるようになったのを素直に喜んでおこう。

「母様、今日は本当にありがとうございました」
「ローウェルさんのお人柄を見て判断しただけですよ。これからはフォーリアがローウェルさんの体調管理を行うのです。普段アルファの中で働いてるローウェルさんが、勤務中に発情すれば大変な事態になります。肝に銘じて頑張りなさい」

 気を引き締めて「はい!」と返事をした。

 アシェルさんに頼られて嬉しいなどと、浮かれてはいけない。もっともっと薬草学を学び、よりよい抑制剤を作れるようになりたい。

「随分と話し込んでしまったわね。早く帰らないと真っ暗になってしまうわ」
「そうですね。今日の晩ごはんはミルクスープが食べたいです」

 冷たい北風がツンと顔を刺して気持ち良い。少し歩くスピード早めながら、雪はいつ降るだろうと考えていた。アシェルさんも雪が好きだろうか。

「明日は忙しくなるわよ、フォーリア」
「はい、大切なお仕事です。頑張ります」
 三ヶ月分のアシェルさんの抑制剤を準備しないといけないので、朝一番にハーブを採って乾燥させる。そして学校から帰ったら直ぐに作業に取り掛かろう。

 魔女の庭の不思議は沢山ある。例えばハーブを乾燥させるまでに一時間あれば十分なのだ。ハーブ園の小屋に干しておけば直ぐにブレンド出来る。だから我が家の茶葉はいつだって新鮮で香り高い。


 折角アシェルさんの滞在期間が伸びたのに、翌日は抑制剤の準備で会えなかった。寂しいが仕方ない。アシェルさんが街に帰ってからも安心して過ごせるためのお手伝いが出来ると思えば、作業も楽しい。
 朝一番に干しておいたハーブは今日もいい感じに乾燥している。学校から帰ると、いい香りに包まれながら調合していった。
 
 しかし、一生懸命準備したが夜まで掛かって仕上がったのはたったの一ヶ月分だった。
「どうしよう……明日渡さないといけないのに……」
 途中から手の空いた母様も手伝ってくれたが、それでも夕食までに半月分がプラスされただけだった。

 夕食後、直ぐにハーブ園に戻ろうとしたが母様に止められた。
「母様、明日渡さないといけないのに引き止めないでください」
「フォーリア、あなたはもうシャワーをして寝る準備をなさい。あとは出来るだけ母様が準備しておきますから」

 本当は全日分、自分一人で準備したかった。しかし寝ぼけて分量を間違っては元も子もない。大人しく母様の指示に従うことにした。

「でも母様も無理しないでくださいね。明日も朝一番から準備出来ますから」
 最低限だけ手伝って欲しいと言う念を込めて言った。


 次の日の朝、母様がもう半月分の抑制剤を準備してくれていた。これで後一ヶ月分だ。

 ハーブのお手入れは任せて私は調合に専念する。頑張れば昼一番に渡しに行けるだろう。アシェルさんに喜んでもらいたい。その一心で準備に励んだ。


「……出来た」
 休憩もせずに準備したので昼前になんとか全ての準備が整った。

「よく頑張りましたね、フォーリア」

 母様にも確認してもらい、昼ごはんの後直ぐに持っていった。


「フォーリア!! こんなに沢山。準備も大変だったろう」
「母様にも手伝ってもらったので、大丈夫でしたよ。抑制剤三ヶ月分と、少し予備もあります」
「素晴らしい。いい香りを嗅ぐだけでもホッとする。流石はマティアス先生が研究されただけある」

 アシェルさんは私たちの作る抑制剤を気に入ってくれたようだ。直ぐにお湯を沸かす準備をした。帰る前に飲んで欲しい。
「直ぐ飲めるように準備しますね。普段の薬との併用も出来ますが、アシェルさんの場合は薬を変えないと意味がありません。併用するなら一度診察を受けて違うものを処方してもらって下さい」
「フォーリアも立派な医師になれそうだな。俺と同じ道は目指したりしないのか?」

 医師の素質があると言ってくれたのは嬉しかった。でも私の目標は薬の開発だ。
「あの……私はできれば父様のように薬草学を学びたいと思っています。それでアシェルさんに相談したいのですが、どこの学校に通えばいいのか分からなくて……」

「なるほど……まだ進学までに三年あるからゆっくり考えられるだろう。帰ってから調べてみよう」
「でも、アシェルさんは忙しいので……やはりもう少し自分で調べてみます」
「そんな遠慮しなくて良い。俺もフォーリアの力になりたいのだ。……俺の父にフォーリアの話をしても構わないだろうか? もちろん、抑制剤の話はしない。ただ、マティアス先生のご子息となれば父も知りたいはずなのだ。何も言わずに会えなくなってしまい、酷く落ち込んでいたから」

 そこはもう、断りは出来ない。会うかどうかは別として、結婚して子供が出来た宗だけは話しても大丈夫ですと返事をしておいた。

 アシェルさんとの時間がタイムリミットを告げると、また離れ離れの時が来た。

「はぁぁ。また三ヶ月も会えないなんて……」
「俺も寂しいよ。こんなにも発情期が恋しいなんて、おかしな話だ」
「どうか無理なさらないでくださいね! 次に会える日まで、アシェルさんを思わない日はありません」

 本当は離れたくはない。玄関先でアシェルさんを抱きしめた。アシェルさんも私を抱きしめ、額にキスをする。

「俺もだ。いつだってフォーリアを想っている」

 アシェルさんの背中を見送ると、振り向かないように村へと帰った。もう一度姿を見てしまうと、今度こそ離れられなくなりそうだった。



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