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フォーリア10歳、アシェル20歳 ーバース性判明からー

意外な接点 ーsideフォーリア

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 アシェルさんから“番になろう”と言ってもらえたのがとても嬉しかった。まさか十歳も年下の私にそんな風に言ってくれるなんて、慰めてくれているだけなのかと疑ってしまった。

 しかしアシェルさんの真剣な表情を見ると、上部だけで言っているようには到底思えなかった。

 つまり……アシェルさんも、私を恋愛対象として見てくれているのだと認識していいのだろうか。

 思い切って誓いのキスをしたのはいいが、調子に乗り過ぎたと直後に我に帰り恥ずかしくなった。

 しかし、アシェルさんからも同じように誓いのキスをしてもらえるとは考えてもいなかったので、フワリと触れた唇が、私の全ての緊張と羞恥を奪い去ったのだった。

 私は今、アシェルさんと過ごす時間を如何に大切に過ごすかだけを考えていたのに、アシェルさんはもっと遠い未来までを見据えてくれていた。その遠い未来に私と添い遂げたいと言ってくれたのだ。

 アルファになんてなりたくなかったけど、アシェルさんのお陰で救われた。

 未来の地位や名誉なんて物には本当に興味はないが、私がアルファだからこそアシェルさんとの未来があるのなら、私はその未来を喜んで受け入れたい。


「そういえばアシェルさんはどんなお仕事をされているのですか?」

 前から気になってはいたが、なんとなく流していたことを思い切って聞いてみた。アシェルさんから詳しく話したりしないし、別宅に来るときはとても疲れているように感じていたので、あまり仕事の話はしないほうがいいのかと思っていた。

 もし聞いてみて、答えにくそうならば諦めればいい。別に私はアシェルさんの仕事で番になるか否かを決めるわけではないのだし。興味本位といえばそうなってしまうのだが……。

 銀狼は大体が政治家の家系か医者の家系に二分する。どちらにせよ、私とは不釣り合いなのは初めから分かりきっている。

「銀狼だから、お医者さんか……政治家ですか?」
「俺は医者だ。将来は父の病院を受け継ぐ予定だ。俺がオメガになってからも俺に病院を譲ると言ってくれている。俺はなんとしてでも父の期待に応えたいんだ」

 意外とすんなり教えてくれて、若干拍子抜けしてしまった。気を使い過ぎたか? でもやはり例に漏れず医者の家系だったのか。

「フォーリアは将来どんな職業に就きたいんだ?」
「私ですか? 私は……薬草学をもっと勉強したいです。父が詳しかったんです。私の幼い頃に他界したのですが、若くして亡くなった父に代わってもっと薬草の知識を活かした活動が出来ればと思っています……」

 私が答えると、アシェルさんが何やら考え始めた。

「ん? 薬草学……。雪豹……。フォーリアが今十歳ならありえるのか……」

「アシェルさん、どうかしましたか?」
 恐る恐る訪ねてみる。


「あっいや、その……今更なのだが、フォーリアの名前をフルネームで知らなかったなと思ってな」
「私のフルネーム? ですか。私はフォーリア・マティアスと言います」
「やはりそうか!! 俺はなぜ直ぐに気づかなかったのだ!! 珍しい雪豹だというのに!!」

 急に一人で納得し始めたアシェルさん。何がどうなったのか。もしかして秘密の抑制剤がバレか。

「すまない! 取り乱してしまった。フォーリアが、薬草学で博士号を取ったマティアス先生のご子息だったなんて、驚いてしまってね」

 父が薬草学の博士? そんなのは初めて知った。母様も知らなかったのだろうか。いや、知ってて知らないふりをしていたのだろうか……。

 アシェルさんは私の顔を見て、どうやら分かっていないと察しらしい。

「フォーリアのお父様は薬草学に長けていて、今出回っている薬の殆どはマティアス先生がより安全性の高い物に改良してくれたものなんだよ」
「そうなんですか!! 父は豊富な知識を生かして我が家のハーブ園を作ったのです。でもまさか博士号まで持っていたなんて……」

 アシェルさんの仕事の話題から、まさか私の父の話になるとは考えてもみなかった。しかも私の父がそんなに凄い人なんて、初めて聞いたからまだ半分信じられなていない。

「私の父とマティウス先生はとても仲が良かった。もしよければフォーリアを父に紹介させてもらえないだろうか」
「それは……私の一存ではなんとも……」
 ただでさえ此処に来ているのも秘密だし、こっそりとアシェルさんのハーブティーに抑制剤を混ぜているのも、勿論私以外の誰も知らない。

 それに我が家の秘密のハーブ園と、非公認の抑制剤を作っているのをバラすわけにはいかない。
 その可能性を含むのなら避けて正解なのだ。

「そうか……そりゃ、そうだな。私としたことが、まさかマティアス先生のご子息なんて考えてもいなかったから浮かれてしまった。初めからフルネームを聞いていれば良かったのだ」

 仮にも私の父がそんなに凄い人なら、アシェルさんのお父さんだって物凄く凄い人ではないのだろうかと、フッと疑問に思った。

「そういえばアシェルさんのフルネームも聞いていませんでした」
「俺の名前はアシェル・ローウェルだ」
「アシェル……ローウェル!!? アシェルさんはローウェル家の人だったのですか?」

 ローウェル家と言えば広いジュニパーネトル街でも群を抜いて大きな総合病院を経営している。アシェルさんはその病院の次期院長だと、名前だけで判断出来てしまった。

 つまりアシェルさんは銀狼の中でも最高位に値する地位の人なのだ。

「すまない。俺はわざと名前を伏せていた。ローウェル家の名前はあまりにも知れ渡っているから」
「そりゃそうですよ!! この辺りでローウェル家を知らない人なんて居ませんもの。仕方ありません」

 そんな雲上の人と過ごしていたなんて(しかも番う約束までしたなんて!)いきなり全身が震え始めた。やはり、アシェルさんは私が関わって良いような人ではなかったのだ。

「数々の御無礼をお許しください。ローウェル様」
「あぁ……フォーリア、お前がそうなるのを恐れて隠していた。どうかいつも通り接してくれないか」
「でも……そこまで偉い方だったなんて……知らないにしても失礼過ぎました」
「フォーリア、お願いだ。いつものフォーリアでいてくれ。そうでないと俺は悲しくなる」

 力強く抱きしめられた、その腕がほんの少し震えているように感じた。

「身分など関係ないのだ。それにフォーリアのお父様であるマティアス先生だって、医師会の人間なら全員知っているような名誉ある方なんだよ」

 アシェルさんに抱きしめられると、何も考えられなくなる。全て、この腕に委ねたいと。このままアシェルさんの言う通りにしたい。

 しかし、ローウェル病院の人間に我が家の秘密を知られてはならない。

 私はそれを守り抜けるのだろうか……。それが出来ないのなら、もうアシェルさんとは会ってはいけない。

 母様にもアシェルさんとの関係を隠してはおけないと思った。何か問題が起きてからでは手遅れになる、私と母様は村のオメガの方達の安全と穏やかな暮らしを担っているのだ。

 私の我儘だけでアシェルさんと付き合ってはいけないと、分かってしまう年齢になったのだ。

(今夜にでも母様に打ち明けないと)
 それに、父の話もアシェルさんからではなく母様から聞きたかった。私はアシェルさんの腕の中で、これからの事を考えていた。

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