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フォーリア10歳、アシェル20歳 ーバース性判明からー

夢見心地ーsideアシェル

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 父からお咎めを受けたタリスは俺への嫌がらせを強化させている。自分が評価されない事、俺がローウェル家から出て行かない事、自分が周りから腫れ物扱いされている事。タリスの思い通りにならない原因は全て俺にあると決めつけたいらしい。

 病院ではタリスが担当してるベータの患者が、担当医を代えてくれと抗議し、ただでさえ忙しい(俺を含む)他の医師の負担が増えてしまっている状態だ。その上、俺の発情期に十日ほど病院を空けるものだから、他の病院から医師を引き抜こうかという話も上がってきた。

 そこで困るのがタリスなのだ。担当の患者が激減し、評判も悪いことから、解雇すべきではないかという意見が内部から出始めたのだ。その噂を耳にしたタリスはさらに逆上し、父に何故オメガの俺は解雇しないのかと、講義しに行ったという。

 いくら我が子とはいえ、病院で居る間はプロとしての仕事をしろと、まるで相手にされなかったらしいが、その怒りの矛先は常に『長男というだけでオメガの癖に後継者』の俺なのだった。


 父は依然として俺に病院を継がせようとしている。さらにタリスを解雇する話まで出てきてしまったものだから、今頃タリスを裏で操っている母は慌てていることだろう。


「院長、失礼します」
 また発情期の為に病院を休まなければいけない。心苦しいがアルファとベータしかいないこの病院でヒートなど起こすわけにはいかないと自分に言い聞かせる。

「あぁ、もうそんな時期か。病院のことは気にせず、ゆっくり体を休めてきなさい」
「忙しい時にすみません。よろしくお願いします」
 父は俺がオメガになった時は酷く落胆していたものの、その後からは以前と変わらず接してくれている。
 こうして俺が別宅へ行く時も体を労ってくれる。父こそたまには仕事を休んでゆっくりしてほしいくらいなのに。

 父に挨拶をすると、一度屋敷に戻り婆やの部屋へ行った。

「婆や、マフラー出来た?」
「一つ先に仕上げてあるよ。どうだい?」
 広げて見せてくれたマフラーは、シンプルなマスタードカラーの糸で縄編みされていた。これはフォーリアに似合いそうだと、一目で気に入った。

「ありがとう! 凄く素敵だ。流石は婆やだな」
「ふふ……本当に、坊ちゃんは口が上手いねぇ。別宅から帰ってくる頃には坊ちゃんのも仕上がっているからね」
 婆やからフォーリアへプレゼントするマフラーを受け取ると、そのまま屋敷を出た。

 北から吹く風が随分と冷たくなった。吐く息の白さが冬の訪れを教えてくれる。三ヶ月前は紅葉し始めたくらいの季節だったのに……。仕事に追われて季節を感じる暇も無くなった。森に目を向けると、常緑樹に混じって葉の落ち切った木も目立ち始めていた。

 フォーリアには大体のスケジュールを伝えてある。そろそろ俺が別宅に来る頃だと思い出してくれれば良いが……。

 屋敷を出た後はなるべく早く別宅に行きたくて、菓子を準備しなかったのが悔やまれる。仕事も殆ど休みがなかったから仕方ないといえば仕方ないのだが。美味しそうにクッキーを食べているフォーリアを眺めているだけで心が温かくなれるのに。

 別宅に近づくにつれ、頭の中はフォーリアでいっぱいになっていく。早く会いたい。
タイミングよく今日来てくれないだろうか。この腕の中に包み込んでフォーリアの体温を感じたい。

 流行る気持ちを抑え、森に入る。

 森の中はすっかり日陰で、一段と冷えている。フォーリアには会いたいが、こんなに寒い中を来させるのは気が引ける。冬の間は会うのを我慢した方が良いのかもしれないな。会いたい欲よりもフォーリアの安全を最優先しないと……。

 森を入ってすぐ、小道に入り東に進むと別宅がある。誰も居ないのを確認しながら脇道へと進んだ。

(っ!?家の前に誰かいる……)

「……あ……アシェルさん?」
「フォーリア!!」
 駆け寄ると、そこには間違いなくフォーリアの姿があった。

「そろそろ来るころかもしれないと思って、様子を見にきたんです。まさか会えるなんて思っても見ませんでした」
「フォーリア、俺のことを覚えてくれいたのか! なんて愛らしいんだ!!」

 まだ外にいることすら忘れて抱きしめた。これが抱きしめずにいられるものか。俺を想って寒い中ここまで様子を伺いにきていたんだぞ! 会える保証もないのに。

「とにかくすぐ部屋に入ろう。フォーリアが風邪でも引けば大変だ」
 急いで家の鍵を開け、中に入った。寒いが少しの間だけ窓を開けて空気を入れ替えた。その間に軽く掃除を済ませる。フォーリアも手伝ってくれたから直ぐに終わった。

「はぁ……気が抜けて一気に眠気が……。折角フォーリアがここにいるというのに」
「アシェルさん、一先ず横になっててください。そうしたら、私は一旦家に帰ってお茶の準備をしてきます」
 とりあえず様子を見にきただけだから、手ぶらで来てしまったのだと言った。
 手ぶらでいいに決まっているが、今はとにかく眠い。フォーリアのお言葉に甘えて仮眠をとることにした。

 フォーリアは俺が眠るまでいてくれた。握った手の温もりを感じながら。深い眠りへ入っていった。
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