16 / 61
フォーリア10歳、アシェル20歳 ーバース性判明からー
タリスの悪行 ーsideアシェル
しおりを挟む
フォーリアの存在などタリスも母も知る由もない。
しかし、あれが自分のものでは無いことは一目瞭然だ。大切なものをゴミのように扱われたと思うと、腑が煮え繰り返るほどの憎しみを覚えた。
すぐにタリスの部屋へと向かう。
「タリス!! コソコソと俺がいない時を狙って部屋を漁るなんて!! 銀狼としてもアルファとしても最低の行いだぞ!!」
「だから、さっきから何なんだ!? 俺は何も知らないと言ってるだろう。被害妄想もいい加減にしてくれ。全く、オメガはそんなんだから社会的にも馬鹿にされるんだ。もっと品よく振る舞えないのか?」
こちらを見ようともせず、温度を持たない声で言った。まるで興味もないような言い草だ。
これから出かけるのか、ビシッと身なりを整え、ピンと張った耳や尻尾までも全身鏡でチェックしている。
銀狼らしいガタイの良さがスーツの上からでも分かるような、堂々とした立ち姿である。しかしその目は自分以外の者を蔑むような冷酷な瞳をしている。
その瞳を見ただけでも虫唾が走る。が、俺が今知りたいのはフォーリアのベストをどうしたのかだ。
「部屋から無くなっているものがある。しらを切っても無駄だぞ。あの服をどうした?」
「執念深いなぁ、兄さんは。まるで威厳もない。本当にローウェル家の長男か? と疑ってしまう……あぁ、そうだ。そういえば使用人が銀狼じゃない匂いがすると言って、何か運び出していたな。そいつに聞いてみればどうだ? ま、俺はイチイチ使用人の顔なんて覚えてもいないけどな」
出掛けるからそこを退け! と、ワザと体当たりして出て行った。やっぱり知っているじゃないか。使用人が俺の留守中に部屋に入る筈ないだろう。何を分かり切った嘘をついてるんだ。
銀狼以外の種族を頭から馬鹿にしているタリスだから、もしかしたら本当に使用人に処分させたかもしれないな。使用人なら、俺の居ない期間の事も知っているだろうし、どちらにせよ話を聞く価値はありそうだ。
一先ず、婆やの部屋に向かう。婆やは俺が生まれた時から子守りをしてくれていた山羊族の人で、とても信頼してる。母は昔から付き合いの派手な人だったから、子育ての殆どを婆やに任せて社交会へと出向いていた。婆やは“育ての親“と言ってもいい程の存在なのだ。
一階の裏口に近い場所が婆やの部屋だ。
「婆や、入ってもいい?」
「坊ちゃん、戻ってきたんだね。どうぞ、お入りなさいまし」
部屋に入ると、婆やは糸を紡いでいた。
「婆や、今年の冬には何を編むの?」
「何がいいかねぇ? 坊ちゃんは何か欲しいものはあるかい?」
「そうだな………マフラーを編んでくれないか? 同じものを二つ」
「ああ、それはいいねぇ。婆やに楽しみをくれて、ありがとうね。坊ちゃんは婆やを喜ばせるのが、昔から上手だねぇ」
婆やの隣に座って、黙って糸紡ぎを眺めた。カタカタと回りながら毛糸の玉が少しずつ大きくなっている。さっきまで気を荒立てていたが、少し肩の力が抜けた。
婆やはしばらく何も言わずに作業していたが、フッと手を止めて俺の手を取った。
「坊ちゃん、何があったんだい?」
優しい婆やの振る舞いに、思わず泣きそうになる。さりげなく目尻の涙を拭き、俺が別宅へ行ってる間に部屋が荒らされていたことを話した。
「とても大切にしていた物を盗まれたんだ」
「そうかい、酷い事をするもんだねぇ。婆やが懲らしめてやらないといけないねぇ」
婆やの掌に重ねた俺の手を、反対の手で柔らかく撫でながら、穏やかな口調で言った。
「ありがとう。婆やに話を聞いてもらったらスッキリしたよ。きっとタリスの仕業だろうし、諦めるよ」
婆やにハグをすると、俺の項垂れた耳ごと頭を撫でてくれた。
「婆やは、いつだって坊ちゃんの味方だよ」と、耳元で囁いた。
婆やの部屋を出ると、一人の使用人が待ち構えるように立っていた。
「あっあの!! アシェル様、少し宜しいですか?」
「ああ、構わない。どうした?」
「すみません。ドアが少し開いていたので話が聞こえてしまいました。それで……もしかして、アシェル様が探していた物はコチラではないでしょうか?」
使用人が差し出したのは紛れもない、フォーリアのベストだった!
「これだ!! これを何故持っている? 説明してくれ!」
「……タリス様にも誰にも言わないと約束してくださいますか? もし暴露てしまえば私は職を失ってしまいます」
「ああ、勿論だ。誰にも言わないし、あなたをこの屋敷から追い出すなんて絶対にさせない。どんな小さな事でもいいから話してくれ」
懇願するように使用人に尋ねた。
「私、見てしまったのです。庭の花の手入れをしていた時に、お部屋の方から凄い音が聞こえました。それで、音の方を見ると、タリス様が部屋で暴れていらしたのです。そして、屋敷に戻った時、丁度タリス様とすれ違った私にこの服を押し付け“臭いから捨てろ“と……」
やはりタリスの仕業だったのか! 再度頭まで血が登った。
「あなたは何故コレを直ぐに捨てなかったのだ?」
「はい。庭から見ても、アシェルさんの部屋が何処なのか分かります。サンキャッチャーがキラキラとしているので。使用人達は庭からそれを眺めるのが好きなのでございます。お昼に見える一等星のようだと、一息つく時はアシェル様の部屋に自然と目が向くのです」
オリビアと贈りあったサンキャッチャーがそんな風に見られていたなんて、すごく嬉しい。この話はオリビアにも聞かせてやらないといけないな。
「それで……タリス様は確かにアシェル様のお部屋におりました。なので、きっとアシェルさまの物だと思い、使用人の部屋に隠してあったのです」
「ありがとう。とても大切な物だったんだ。礼を言う」
使用人からフォーリアのベストを受け取ると、直ぐに自室へ帰った。良かった。フォーリアのベストが返ってきた。使用人には感謝してもし切れない。何かお礼をしなければいけないな。
ベストは前とは違う場所に隠した。
そして直ぐオリビアに連絡をし、街で落ち合い話を一通り聞いてもらった後、使用人の部屋にも吊るしてもらおうと、サンキャッチャーを購入した。
オリビアからは、俺が居ない間の病院での様子を教えてくれた。案の定、タリスはやりたい放題で、アルファの患者には優しいが、ベータの患者への態度は見ていられないほど酷かったらしい。そして俺の悪口は周りのナースが耳を塞ぐほど大きな声で言っていたそうだ。
タリスに逆らうと即刻クビにすると脅されている雇われの医師やナースは、逆らえず黙ってタリスの言いなりになっているのだ。
患者からタリスへの苦情も殺到しているそうで、一昨日父からお咎めを受けた所なのだそうだ。使用人からの話と照らし合わせると、どうも俺の部屋を荒らしたのはそのお咎めの後すぐのようだった。
しかし、あれが自分のものでは無いことは一目瞭然だ。大切なものをゴミのように扱われたと思うと、腑が煮え繰り返るほどの憎しみを覚えた。
すぐにタリスの部屋へと向かう。
「タリス!! コソコソと俺がいない時を狙って部屋を漁るなんて!! 銀狼としてもアルファとしても最低の行いだぞ!!」
「だから、さっきから何なんだ!? 俺は何も知らないと言ってるだろう。被害妄想もいい加減にしてくれ。全く、オメガはそんなんだから社会的にも馬鹿にされるんだ。もっと品よく振る舞えないのか?」
こちらを見ようともせず、温度を持たない声で言った。まるで興味もないような言い草だ。
これから出かけるのか、ビシッと身なりを整え、ピンと張った耳や尻尾までも全身鏡でチェックしている。
銀狼らしいガタイの良さがスーツの上からでも分かるような、堂々とした立ち姿である。しかしその目は自分以外の者を蔑むような冷酷な瞳をしている。
その瞳を見ただけでも虫唾が走る。が、俺が今知りたいのはフォーリアのベストをどうしたのかだ。
「部屋から無くなっているものがある。しらを切っても無駄だぞ。あの服をどうした?」
「執念深いなぁ、兄さんは。まるで威厳もない。本当にローウェル家の長男か? と疑ってしまう……あぁ、そうだ。そういえば使用人が銀狼じゃない匂いがすると言って、何か運び出していたな。そいつに聞いてみればどうだ? ま、俺はイチイチ使用人の顔なんて覚えてもいないけどな」
出掛けるからそこを退け! と、ワザと体当たりして出て行った。やっぱり知っているじゃないか。使用人が俺の留守中に部屋に入る筈ないだろう。何を分かり切った嘘をついてるんだ。
銀狼以外の種族を頭から馬鹿にしているタリスだから、もしかしたら本当に使用人に処分させたかもしれないな。使用人なら、俺の居ない期間の事も知っているだろうし、どちらにせよ話を聞く価値はありそうだ。
一先ず、婆やの部屋に向かう。婆やは俺が生まれた時から子守りをしてくれていた山羊族の人で、とても信頼してる。母は昔から付き合いの派手な人だったから、子育ての殆どを婆やに任せて社交会へと出向いていた。婆やは“育ての親“と言ってもいい程の存在なのだ。
一階の裏口に近い場所が婆やの部屋だ。
「婆や、入ってもいい?」
「坊ちゃん、戻ってきたんだね。どうぞ、お入りなさいまし」
部屋に入ると、婆やは糸を紡いでいた。
「婆や、今年の冬には何を編むの?」
「何がいいかねぇ? 坊ちゃんは何か欲しいものはあるかい?」
「そうだな………マフラーを編んでくれないか? 同じものを二つ」
「ああ、それはいいねぇ。婆やに楽しみをくれて、ありがとうね。坊ちゃんは婆やを喜ばせるのが、昔から上手だねぇ」
婆やの隣に座って、黙って糸紡ぎを眺めた。カタカタと回りながら毛糸の玉が少しずつ大きくなっている。さっきまで気を荒立てていたが、少し肩の力が抜けた。
婆やはしばらく何も言わずに作業していたが、フッと手を止めて俺の手を取った。
「坊ちゃん、何があったんだい?」
優しい婆やの振る舞いに、思わず泣きそうになる。さりげなく目尻の涙を拭き、俺が別宅へ行ってる間に部屋が荒らされていたことを話した。
「とても大切にしていた物を盗まれたんだ」
「そうかい、酷い事をするもんだねぇ。婆やが懲らしめてやらないといけないねぇ」
婆やの掌に重ねた俺の手を、反対の手で柔らかく撫でながら、穏やかな口調で言った。
「ありがとう。婆やに話を聞いてもらったらスッキリしたよ。きっとタリスの仕業だろうし、諦めるよ」
婆やにハグをすると、俺の項垂れた耳ごと頭を撫でてくれた。
「婆やは、いつだって坊ちゃんの味方だよ」と、耳元で囁いた。
婆やの部屋を出ると、一人の使用人が待ち構えるように立っていた。
「あっあの!! アシェル様、少し宜しいですか?」
「ああ、構わない。どうした?」
「すみません。ドアが少し開いていたので話が聞こえてしまいました。それで……もしかして、アシェル様が探していた物はコチラではないでしょうか?」
使用人が差し出したのは紛れもない、フォーリアのベストだった!
「これだ!! これを何故持っている? 説明してくれ!」
「……タリス様にも誰にも言わないと約束してくださいますか? もし暴露てしまえば私は職を失ってしまいます」
「ああ、勿論だ。誰にも言わないし、あなたをこの屋敷から追い出すなんて絶対にさせない。どんな小さな事でもいいから話してくれ」
懇願するように使用人に尋ねた。
「私、見てしまったのです。庭の花の手入れをしていた時に、お部屋の方から凄い音が聞こえました。それで、音の方を見ると、タリス様が部屋で暴れていらしたのです。そして、屋敷に戻った時、丁度タリス様とすれ違った私にこの服を押し付け“臭いから捨てろ“と……」
やはりタリスの仕業だったのか! 再度頭まで血が登った。
「あなたは何故コレを直ぐに捨てなかったのだ?」
「はい。庭から見ても、アシェルさんの部屋が何処なのか分かります。サンキャッチャーがキラキラとしているので。使用人達は庭からそれを眺めるのが好きなのでございます。お昼に見える一等星のようだと、一息つく時はアシェル様の部屋に自然と目が向くのです」
オリビアと贈りあったサンキャッチャーがそんな風に見られていたなんて、すごく嬉しい。この話はオリビアにも聞かせてやらないといけないな。
「それで……タリス様は確かにアシェル様のお部屋におりました。なので、きっとアシェルさまの物だと思い、使用人の部屋に隠してあったのです」
「ありがとう。とても大切な物だったんだ。礼を言う」
使用人からフォーリアのベストを受け取ると、直ぐに自室へ帰った。良かった。フォーリアのベストが返ってきた。使用人には感謝してもし切れない。何かお礼をしなければいけないな。
ベストは前とは違う場所に隠した。
そして直ぐオリビアに連絡をし、街で落ち合い話を一通り聞いてもらった後、使用人の部屋にも吊るしてもらおうと、サンキャッチャーを購入した。
オリビアからは、俺が居ない間の病院での様子を教えてくれた。案の定、タリスはやりたい放題で、アルファの患者には優しいが、ベータの患者への態度は見ていられないほど酷かったらしい。そして俺の悪口は周りのナースが耳を塞ぐほど大きな声で言っていたそうだ。
タリスに逆らうと即刻クビにすると脅されている雇われの医師やナースは、逆らえず黙ってタリスの言いなりになっているのだ。
患者からタリスへの苦情も殺到しているそうで、一昨日父からお咎めを受けた所なのだそうだ。使用人からの話と照らし合わせると、どうも俺の部屋を荒らしたのはそのお咎めの後すぐのようだった。
25
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説





欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点


孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる