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フォーリア8歳、アシェル18歳 ——出会い——
初恋 ーsideフォーリア
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アシェルさんのヒートを目の当たりにして、正直怖かった。でもだからといって、逃げようなんて気持ちにはなれなかった。
いつも優しくて凛々しくて、綺麗で格好良くて……。堂々とした姿は理想の銀狼像そのものなのだ。そんなアシェルさんに憧れを持つのは、例え私じゃなくとも当たり前のように思う。誰もが銀狼に生まれたいと思っているのだ。そりゃ私だって同じである。
それにアシェルさんのような高貴な方が、私のような平民にも穏和な態度で接してくれる。きっと私だけに優しいのではないと思うが、それでも抱きしめられると特別扱いされているようで舞い上がるような気分になるのだった。
多分、私はアシェルさんのどんな姿を見ようと嫌いになんてならないだろう。それどころか、日に日にアシェルさんへの想いは募る一方なのだ。帰らなくていいなら、ずっとあの家に居たい。アシェルさんが街に帰る時まで。
空がオレンジ色に染まり、夜の準備をしている。急いで帰らなければ、秋の空は突然暮れる。何より、夕暮れ時には帰っておかなければいけない。今日こそは母様に叱られるだろう。アシェルさんのことをなんて言おうか……。
もっと早くアシェルさんの家を出ていれば、誤魔化すための木の実でも拾えただろうに……。家路を急ぎながら落胆のため息が漏れた。母様は怒ると怖いのだ。
家に着くと家の灯りが消えていた。良かった、まだ帰っていないのか……。急いでカバンを置き、シャワーを浴びた。その間もずっとアシェルさんの様子が気になって仕方なかった。明日までの時間が長過ぎる。
シャワールームら出ると、丁度母様が帰ってきた。ラムズさんの家に行っていたという。それで遅かったのか。ラムズさんはお喋りが好きだから。今日行ってくれて助かった。明日は二人で街まで出かけるらしい。午前中の配達は私がやるから早めに行って大丈夫ですよと伝えた。
勿論、母様はなかなか遊ぶ時間がないから気遣ったのもあるが、私も早くアシェルさんの所へ行けるからというのが一番の目的である。
自室に戻るとアシェルさん専用のノートを取り出し、今日のことを出来るだけ細かく書き記した。今日という日をずっと忘れたくはない。
次の日は朝一番から配達の準備を始め、オメガリストの確認をした。今日の配達は少しだけだ。急いで配ろう。いつもはのんびりといろんな人と話をしながら回るのだが、今日は自然と走り出していた。アシェルさんへの逸る気持ちが抑えられない。浮き足立っているのは自分でも分かる。
会いたい。今すぐアシェルさんに会いたい。
アシェルさんに抱きしめられたことを思い出すと恥ずかしくなるが、もしかすると今日も抱きしめてくれるかもしれないと期待してしまう。
アシェルさんの家に着いたら、勝手に鍵を開けて入っていいと言われている。静かに開錠すると、中を伺うようにドアを開けた。今日も部屋にいるようだ。
「こんにちは」
空気を含んだ声で私は言った。もうすぐお昼になるがまだ寝ているだろうか。
奥の部屋に足を運ぶ。私がドアノブに手をかけるのと、アシェルさんが中から出て来るのがほぼ同時だった。
「フォーリア、来てくれたんだね」
目が合った瞬間、アシェルさんの頬が緩み、喜びの笑みを浮かべた。顔色が良かったのでよく眠れたかもしれないと思った。ヒートの心配もなさそうだ。
ただ、すぐに抱きしめてもらえるかもしれないという期待は外れた。そんな保証なんてものはないのに、この所すぐに私を抱きしめるものだから、今日もそうかもしれないと思い込んでしまっていた。
「お昼ごはん、食べましたか? 母様が、サンドウィッチを余分に作ってくれたので持ってきたんです」
「それはいいな、頂こう」
ダイニングに移動した。この時は手を繋いでくれた。もし、掌から私のアシェルさんへの想いが伝わったら……なんて妄想をしてみた。私がアシェルさんに好意を寄せていると知ったら……。
そう、私はとうとう自分の気持ちを認めたのである。
自分の気持ちがどういうものなのかは、よく分かっていなかった。
ただの憧れなのか、尊敬なのか、それとも恋愛の意味を含んだものなのか……。
昨日のアシェルさんのヒートに遭遇したことでやっと認めることが出来た。私はこの人を誰よりも側で支えたいと思ったこと。私はオメガになる予定だけれど、ラムズさんのようにオメガ同士で結婚している人だっている。アシェルさんと私だって、そうなる可能性を秘めているのだ。
勿論、アシェルさんが番を作った時は祝福するつもりでいるが、もしもと仮定して、アシェルさんが誰とも番わなかった時は……その時は、私が一番そばに居たいと……。
つまり、これらを全てまとめると……私はアシェルさんが恋愛の意味で好きと言う事だ。
これは私にとって初恋なのだ。初めて想いを寄せた人がアシェルさんだなんて贅沢すぎると言われるかもしれない。
でも自分の気持ちがはっきり分かってしまうと、好きという気持ちが身体中に染み渡って行ったのだ。アシェルさんに抱きしめられてふわふわした気持ちになったのは、こういう気持ちの表れだったのかもしれないと思った。
自分の気持ちに気づいたからと言って、直ぐアシェルさんに伝えようとは思っていない。子供の私が言ったところであやされて終わる気がするし、私の一方的な気持ちを押し付けて困らせるような真似もしたくないのだ。
今はこんな風に、二人だけの時間を大切にしたい。それで十分幸せだから。
「今日はなんのハーブなんだ?」
「レモンマートルにオレンジブロッサムとラベンダーをブレンドしました。気分もスッキリしますよ」
「それは楽しみだな。フォーリアのハーブティーがいつだって飲めればいいのに」
アシェルさんは私が喜ぶ言葉を全て知っているかのように届けてくれる。私だって、毎日アシェルさんとハーブティーを飲みたい。そんな日々は幸福以外の何物でもない。
私は自分の気持ちが暴露ないように、でもアシェルさんから離れないように一日を過ごした。
三ヶ月にたった十日ほどしか会えなくても。それを糧に頑張れる。アシェルさんのようにカッコイイ大人になって、いつの日か認められたいと、密かに思ったのだった。
いつも優しくて凛々しくて、綺麗で格好良くて……。堂々とした姿は理想の銀狼像そのものなのだ。そんなアシェルさんに憧れを持つのは、例え私じゃなくとも当たり前のように思う。誰もが銀狼に生まれたいと思っているのだ。そりゃ私だって同じである。
それにアシェルさんのような高貴な方が、私のような平民にも穏和な態度で接してくれる。きっと私だけに優しいのではないと思うが、それでも抱きしめられると特別扱いされているようで舞い上がるような気分になるのだった。
多分、私はアシェルさんのどんな姿を見ようと嫌いになんてならないだろう。それどころか、日に日にアシェルさんへの想いは募る一方なのだ。帰らなくていいなら、ずっとあの家に居たい。アシェルさんが街に帰る時まで。
空がオレンジ色に染まり、夜の準備をしている。急いで帰らなければ、秋の空は突然暮れる。何より、夕暮れ時には帰っておかなければいけない。今日こそは母様に叱られるだろう。アシェルさんのことをなんて言おうか……。
もっと早くアシェルさんの家を出ていれば、誤魔化すための木の実でも拾えただろうに……。家路を急ぎながら落胆のため息が漏れた。母様は怒ると怖いのだ。
家に着くと家の灯りが消えていた。良かった、まだ帰っていないのか……。急いでカバンを置き、シャワーを浴びた。その間もずっとアシェルさんの様子が気になって仕方なかった。明日までの時間が長過ぎる。
シャワールームら出ると、丁度母様が帰ってきた。ラムズさんの家に行っていたという。それで遅かったのか。ラムズさんはお喋りが好きだから。今日行ってくれて助かった。明日は二人で街まで出かけるらしい。午前中の配達は私がやるから早めに行って大丈夫ですよと伝えた。
勿論、母様はなかなか遊ぶ時間がないから気遣ったのもあるが、私も早くアシェルさんの所へ行けるからというのが一番の目的である。
自室に戻るとアシェルさん専用のノートを取り出し、今日のことを出来るだけ細かく書き記した。今日という日をずっと忘れたくはない。
次の日は朝一番から配達の準備を始め、オメガリストの確認をした。今日の配達は少しだけだ。急いで配ろう。いつもはのんびりといろんな人と話をしながら回るのだが、今日は自然と走り出していた。アシェルさんへの逸る気持ちが抑えられない。浮き足立っているのは自分でも分かる。
会いたい。今すぐアシェルさんに会いたい。
アシェルさんに抱きしめられたことを思い出すと恥ずかしくなるが、もしかすると今日も抱きしめてくれるかもしれないと期待してしまう。
アシェルさんの家に着いたら、勝手に鍵を開けて入っていいと言われている。静かに開錠すると、中を伺うようにドアを開けた。今日も部屋にいるようだ。
「こんにちは」
空気を含んだ声で私は言った。もうすぐお昼になるがまだ寝ているだろうか。
奥の部屋に足を運ぶ。私がドアノブに手をかけるのと、アシェルさんが中から出て来るのがほぼ同時だった。
「フォーリア、来てくれたんだね」
目が合った瞬間、アシェルさんの頬が緩み、喜びの笑みを浮かべた。顔色が良かったのでよく眠れたかもしれないと思った。ヒートの心配もなさそうだ。
ただ、すぐに抱きしめてもらえるかもしれないという期待は外れた。そんな保証なんてものはないのに、この所すぐに私を抱きしめるものだから、今日もそうかもしれないと思い込んでしまっていた。
「お昼ごはん、食べましたか? 母様が、サンドウィッチを余分に作ってくれたので持ってきたんです」
「それはいいな、頂こう」
ダイニングに移動した。この時は手を繋いでくれた。もし、掌から私のアシェルさんへの想いが伝わったら……なんて妄想をしてみた。私がアシェルさんに好意を寄せていると知ったら……。
そう、私はとうとう自分の気持ちを認めたのである。
自分の気持ちがどういうものなのかは、よく分かっていなかった。
ただの憧れなのか、尊敬なのか、それとも恋愛の意味を含んだものなのか……。
昨日のアシェルさんのヒートに遭遇したことでやっと認めることが出来た。私はこの人を誰よりも側で支えたいと思ったこと。私はオメガになる予定だけれど、ラムズさんのようにオメガ同士で結婚している人だっている。アシェルさんと私だって、そうなる可能性を秘めているのだ。
勿論、アシェルさんが番を作った時は祝福するつもりでいるが、もしもと仮定して、アシェルさんが誰とも番わなかった時は……その時は、私が一番そばに居たいと……。
つまり、これらを全てまとめると……私はアシェルさんが恋愛の意味で好きと言う事だ。
これは私にとって初恋なのだ。初めて想いを寄せた人がアシェルさんだなんて贅沢すぎると言われるかもしれない。
でも自分の気持ちがはっきり分かってしまうと、好きという気持ちが身体中に染み渡って行ったのだ。アシェルさんに抱きしめられてふわふわした気持ちになったのは、こういう気持ちの表れだったのかもしれないと思った。
自分の気持ちに気づいたからと言って、直ぐアシェルさんに伝えようとは思っていない。子供の私が言ったところであやされて終わる気がするし、私の一方的な気持ちを押し付けて困らせるような真似もしたくないのだ。
今はこんな風に、二人だけの時間を大切にしたい。それで十分幸せだから。
「今日はなんのハーブなんだ?」
「レモンマートルにオレンジブロッサムとラベンダーをブレンドしました。気分もスッキリしますよ」
「それは楽しみだな。フォーリアのハーブティーがいつだって飲めればいいのに」
アシェルさんは私が喜ぶ言葉を全て知っているかのように届けてくれる。私だって、毎日アシェルさんとハーブティーを飲みたい。そんな日々は幸福以外の何物でもない。
私は自分の気持ちが暴露ないように、でもアシェルさんから離れないように一日を過ごした。
三ヶ月にたった十日ほどしか会えなくても。それを糧に頑張れる。アシェルさんのようにカッコイイ大人になって、いつの日か認められたいと、密かに思ったのだった。
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