ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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9 学園祭

9-12

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「あの女、本当に意味分かんないんだけど!」

 下校途中、夏の宿題戦争において幾度と無く戦場となったファミレスに、私達は再び足を向けた。道子の手によってドリンクバーのカウンターより運ばれてきた、100パーセントのオレンジジュースを片手に、紗絵は常識的な声量で猛り狂った。

「あの状況でよ、どう考えたら私らの話し合いぶったぎって、『携帯で写真撮りたいんだけど~』なんてほざけるってのよ! 天然でも引く! 計算だったらもっと引く!」

 紗絵は猛々しくコップを呷り、橙色の液体を体内に吸収していく。

「おかわり何がいい?」

 柑橘の恵みを早々と飲み干した紗絵に、新たな供物を捧げるべく、道子が声を発した。

「炭酸系!」
「コーラでいいよね?」
「あ、道子、私も……」

 手にしていたウーロン茶を飲みきり、立ち上がろうとした所で、コップを道子に掠め取られる。

「いいからいいから、すぐ戻ってくるから、和葉は紗絵の相手してて。同じものでいいでしょ?」

 そう笑いながら、道子は背中を見せて行ってしまった。

「そもそも、和葉もさぁ、いつの間にあの女と仲良くなったのよ?」
「いつって、昨日帰りに本屋さんでちょっと会って、それから一回メール交換しただけだってば」

 仲良しの基準にも寄るだろうが、いつ仲良くなったのかと聞れても、それはむしろこっちが聞きたい。

「そんな事よりもさ、さっき言ってた、私の使いどころって何?」

 理音の話しを有耶無耶にする訳では無いが、私にとってはそちらの方が重要だ。

「色々あるんじゃない? マスコットとか、色仕掛け要因とか?」

 道子がなみなみとコーラを注いだグラスを片手に戻ってきた。

「まぁでも、和葉は可愛いけど、色仕掛けにしては、ちょっと色は薄いかもね」

 誠に失礼な話だが、道子に言われるなら半ば仕方が無いとも感じる。だが、そう感じてしまう自分が口惜しくないかと言えば、それは否である。

「どうせ私は、道子みたいに色気なんて無いですよ~」
「お~、一丁前に拗ねてるよ。やっぱ和葉は可愛いなぁ、癒されるわ~」

 道子に向けた言葉を、紗絵に受け取られ、あまつさえからかわれてしまう。
 その時、紗絵の携帯から音が零れた。
 席を立つ事はせず、紗絵は座席に蹲るようにして、携帯を隠しながら会話を始めた。

「うっす。わざわざ悪いね。……そうそう、宿題やった時と同じ場所、私と和葉と道子だけ、そうそう、待ってるから」

 携帯を切った紗絵は、表面張力により何とかコップに留まっていたコーラを、口から迎えに行った。

「ねぇ紗絵。今の相手、誰?」
「ん?」

 コーラを補給した紗絵が、私の質問には答えずにニヤリと笑う。その直後、彼女は私の後ろに向けて片手を上げた。
 振り返ると、こちらへ向かってくる玲央君の姿があった。

 ――え?

 嬉しさと驚きで、心臓の血流量が跳ねあがる。
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