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9 学園祭
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「裁縫だったら私好きだよ?」
手を上げてくれたのは委員長だった。
「マジで!」
紗絵の歓喜が音となって飛ぶ。
「うん、一番上の姉ちゃんがお芝居やっててさ。衣装とか持って来てるの手伝ってる内に、出来るようになった」
「じゃあ決まりじゃん? お菓子とかは、他の女子巻き込んで何とかやるから、委員長はそっちに回ってよ」
道子の意見に、紗絵も首を縦に振る。
「うん、分かった」
「大体決まったんなら、もう帰っていいか?」
話の腰を折るように川口君が声を出す。
「ちょっと川口、あんたもちょっとは協力的な態度見せなさいよ」
「こっちはサッカー部の方とかもあるんだから、クラスだけに構っていらんねぇんだよ」
道子の正論に、川口君から正論が返って来る。どちらにも正義があるのだろうが、端から聞いてる限りでは、道子に分があるだろう。
「サッカー部の方とかって、他に何かあんの?」
委員長の質問に、川口君は得意気に鼻を鳴らした。
「俺今年は、有志でバンドやろうと思ってる訳よ。俺がボーカルでよぉ、何人かもう目星付けてんだけど、そっちの練習もしなきゃいけねぇんだよ」
「あんたがバンド? しかもボーカル? うわぁ、無いわぁ~」
道子の歯は、全裸でも全く気にしないようだ。
「おいこら佐藤!」
「だってよ? 仮にも皆の前で歌うのよ? 歌唱力はともかく、それこそそこそこのルックスはあってしかるべきじゃない? ねぇ、和葉?」
「どうして私に振るのよ?」
道子のニヤニヤ顔の奥が、私にだけは明け透けに分かる。だけど、ここで話題に出せる訳が無いので、当然知らんぷりを決め込む。
「ねぇ川口、その有志のバンドってさ、まだ応募掛けてるのかな?」
会話を引き継いだのは紗絵だった
「あ? さぁ、生徒会に聞いてみたら分かんじゃね?」
「つまり、生徒会に聞いてみないと分からないか。まぁ、いいや」
「紗絵、あんたバンドに興味あんの?」
「ん~、まぁね~」
道子の問いかけに対し、紗絵は曖昧に返事をするが、あのライブの夜から、彼女の心に火が灯っていたとしても何もおかしくは無いと、私は密かに思っていた。
玲央君の歌声が、様々な所に飛び火して行く。勿論、私にも。それが、とても嬉しい。反面、理音のような女の子もいる事を考え、苦しくもある。
ともすればすぐ落ちそうになる弱い自分を振りほどくべく、紗絵に話しかけた。
「ところで紗絵、私は何をすればいいの?」
「友野はあれだろ? 癒し担当大臣って奴だろ?」
茶化すように下卑た笑いを浮かべる川口君に対し、川口うぜぇと声を出したのは道子だった。
「ん~、和葉の出番は、もうちょっと後かな。衣装のモデルとか、色々考えてたけど、ちょっと、あんたの使いどころ他に出来たかも」
「使いどころって?」
「本決まりになったらまた言うわ」
紗絵が怪しげな笑みを、珍しく手弱かに浮かべた所で、教室のドアが静かに開いた。
「和葉ちゃ~ん」
呼ばれて振り向くと、教室の入り口に理音が立っていた。
「さ、笹村?」
私の代わりに驚きの声を上げたのは、他ならぬ川口君だった。
「あら、川口君、お久しぶりね」
「お、おう、笹村も、元気だったか?」
「ええ」
川口君は照れくさそうに理音に返事をしたが、理音はそんな川口君をさらりと流し、私に話しかけて来た。
「和葉ちゃん。昨日はメールありがとう。あのね、理音、お友達になった人の写真、携帯に入れてるんだ。それでね、6組の前通ったら、たまたま和葉ちゃん見つけたの。今、時間貰ってもいい? 携帯で写真撮りたいんだけど?」
「笹村さんだっけ? 見て貰ったら分かると思うんだけどさ、今うちらのクラス会議の真っ最中なんだよね? 悪いんだけど、部外者は出て行って貰えないかな?」
柔らかい笑みを浮かべる理音に、舌鋒鋭い言葉を飛ばしたのは紗絵だった。
理音はその言葉に一瞬戸惑うように目線を移したが、あら、ごめんなさい、気付かなかったわ、と可愛らしく笑って、悪びれもせず、楚々とした立ち居振る舞いで教室を出て行った。
「和葉ちゃん、みっちゃん、時間ある時に、またね」
そう言ってドアが閉められた途端、紗絵が深い溜め息をつく。
「おい鈴原、あんな言い方ねぇだろ?」
川口君が先程の紗絵の言葉使いに突っかかる。
「ああ、悪い、反省してる。流石にちょっと言い過ぎたかもしれないとは思わなくもないかもしれない」
紗絵はあからさまな言葉だけの反応を見せると、顔をパンと叩いて、んじゃ、続きだけど、と話と空気を元に戻した。
若干困惑したままの私にこそっと、道子が言葉を掛けてくれる。
「ねぇ、紗絵と理音、合わないって言ったでしょ?」
その言葉に、これまたこっそりと首を縦に動かす。
教室の窓からは夕陽が射しこみ、教室内の机や椅子の影を床に落とす。
今後の大まかなスケジュールと、次回の会議の日程を組んで、この日はお開きとなった。
手を上げてくれたのは委員長だった。
「マジで!」
紗絵の歓喜が音となって飛ぶ。
「うん、一番上の姉ちゃんがお芝居やっててさ。衣装とか持って来てるの手伝ってる内に、出来るようになった」
「じゃあ決まりじゃん? お菓子とかは、他の女子巻き込んで何とかやるから、委員長はそっちに回ってよ」
道子の意見に、紗絵も首を縦に振る。
「うん、分かった」
「大体決まったんなら、もう帰っていいか?」
話の腰を折るように川口君が声を出す。
「ちょっと川口、あんたもちょっとは協力的な態度見せなさいよ」
「こっちはサッカー部の方とかもあるんだから、クラスだけに構っていらんねぇんだよ」
道子の正論に、川口君から正論が返って来る。どちらにも正義があるのだろうが、端から聞いてる限りでは、道子に分があるだろう。
「サッカー部の方とかって、他に何かあんの?」
委員長の質問に、川口君は得意気に鼻を鳴らした。
「俺今年は、有志でバンドやろうと思ってる訳よ。俺がボーカルでよぉ、何人かもう目星付けてんだけど、そっちの練習もしなきゃいけねぇんだよ」
「あんたがバンド? しかもボーカル? うわぁ、無いわぁ~」
道子の歯は、全裸でも全く気にしないようだ。
「おいこら佐藤!」
「だってよ? 仮にも皆の前で歌うのよ? 歌唱力はともかく、それこそそこそこのルックスはあってしかるべきじゃない? ねぇ、和葉?」
「どうして私に振るのよ?」
道子のニヤニヤ顔の奥が、私にだけは明け透けに分かる。だけど、ここで話題に出せる訳が無いので、当然知らんぷりを決め込む。
「ねぇ川口、その有志のバンドってさ、まだ応募掛けてるのかな?」
会話を引き継いだのは紗絵だった
「あ? さぁ、生徒会に聞いてみたら分かんじゃね?」
「つまり、生徒会に聞いてみないと分からないか。まぁ、いいや」
「紗絵、あんたバンドに興味あんの?」
「ん~、まぁね~」
道子の問いかけに対し、紗絵は曖昧に返事をするが、あのライブの夜から、彼女の心に火が灯っていたとしても何もおかしくは無いと、私は密かに思っていた。
玲央君の歌声が、様々な所に飛び火して行く。勿論、私にも。それが、とても嬉しい。反面、理音のような女の子もいる事を考え、苦しくもある。
ともすればすぐ落ちそうになる弱い自分を振りほどくべく、紗絵に話しかけた。
「ところで紗絵、私は何をすればいいの?」
「友野はあれだろ? 癒し担当大臣って奴だろ?」
茶化すように下卑た笑いを浮かべる川口君に対し、川口うぜぇと声を出したのは道子だった。
「ん~、和葉の出番は、もうちょっと後かな。衣装のモデルとか、色々考えてたけど、ちょっと、あんたの使いどころ他に出来たかも」
「使いどころって?」
「本決まりになったらまた言うわ」
紗絵が怪しげな笑みを、珍しく手弱かに浮かべた所で、教室のドアが静かに開いた。
「和葉ちゃ~ん」
呼ばれて振り向くと、教室の入り口に理音が立っていた。
「さ、笹村?」
私の代わりに驚きの声を上げたのは、他ならぬ川口君だった。
「あら、川口君、お久しぶりね」
「お、おう、笹村も、元気だったか?」
「ええ」
川口君は照れくさそうに理音に返事をしたが、理音はそんな川口君をさらりと流し、私に話しかけて来た。
「和葉ちゃん。昨日はメールありがとう。あのね、理音、お友達になった人の写真、携帯に入れてるんだ。それでね、6組の前通ったら、たまたま和葉ちゃん見つけたの。今、時間貰ってもいい? 携帯で写真撮りたいんだけど?」
「笹村さんだっけ? 見て貰ったら分かると思うんだけどさ、今うちらのクラス会議の真っ最中なんだよね? 悪いんだけど、部外者は出て行って貰えないかな?」
柔らかい笑みを浮かべる理音に、舌鋒鋭い言葉を飛ばしたのは紗絵だった。
理音はその言葉に一瞬戸惑うように目線を移したが、あら、ごめんなさい、気付かなかったわ、と可愛らしく笑って、悪びれもせず、楚々とした立ち居振る舞いで教室を出て行った。
「和葉ちゃん、みっちゃん、時間ある時に、またね」
そう言ってドアが閉められた途端、紗絵が深い溜め息をつく。
「おい鈴原、あんな言い方ねぇだろ?」
川口君が先程の紗絵の言葉使いに突っかかる。
「ああ、悪い、反省してる。流石にちょっと言い過ぎたかもしれないとは思わなくもないかもしれない」
紗絵はあからさまな言葉だけの反応を見せると、顔をパンと叩いて、んじゃ、続きだけど、と話と空気を元に戻した。
若干困惑したままの私にこそっと、道子が言葉を掛けてくれる。
「ねぇ、紗絵と理音、合わないって言ったでしょ?」
その言葉に、これまたこっそりと首を縦に動かす。
教室の窓からは夕陽が射しこみ、教室内の机や椅子の影を床に落とす。
今後の大まかなスケジュールと、次回の会議の日程を組んで、この日はお開きとなった。
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