ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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9 学園祭

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「とりあえず、勢いでこんな事になっちゃったけど、やるからには本気でやろうと思ってるんで、改めて宜しく」

 紗絵が一度立ち上がり、そう宣言して頭を下げた。

「んで、みんなに任せたい仕事を、こっちにいる佐藤と二人でちょっと考えてみたのね。その結果、とりあえずここに集まって貰ったメンバーで、走り出しの部分は纏めて行こうと思う。この辺りは、この会議に参加してくれた時点で了承してもらったと解釈したんだけど、いいかな?」
「まぁ、仕方ねぇやな」

 川口君が投げやりに言葉を返す。
 彼は身体も小柄だし、顔も童顔なのだけど、何となく粗野な印象があった為、正直私は苦手だった。その点他の二人は、しっかり協力して貰えるだろうと安心していた。
 私の目の前に座っているのが、瀬野明日香さん。だけど、彼女がクラスの中で、名前で呼ばれる事はまず無い。

「委員長は、去年のクラスでも模擬店仕切ってたって聞いたんだけど、何やってたの?」

 紗絵が瀬野さんに問いかける。
 お察しの通り、彼女はこのクラスの学級委員長だ。

「うちは去年、うどん屋さんやってたのよ」
「うどんか」
「香山君って言う、うどん屋さんの息子さんが居て、彼に教えてもらって、みんなで打ったのよ」
「仕込み関係とかに首突っ込んでた?」
「うん、一通り、全部」

 清楚な物言いは、流石委員長然としている。だけど、校則からはみ出無い程度の色合いで、綺麗に染められた茶色の髪の毛や、これまた校則からはみでない程度に爪に塗られたグロスが、彼女の女としての意識の高さを物語っている。
 紗絵とは違う意味で、格好いいな、と感じる女の子だ。

「じゃあ、一通りのノウハウはあるって考えて大丈夫か。こっちの佐藤が、お菓子関係作れるから、実際に出す物は、一先ず二人に任せたいんだけどいいかな?」
「うん、大丈夫」
「んじゃ、よろしくね委員長」

 道子が委員長に手を差しだし、委員長がその手をそっと握り返す。

「んで、塚君には、とりあえず金銭面の管理を任せたいんだよね、お願い出来る?」
「うん、分かった」

 紗絵が目星をつけた6人目の彼は、塚晴信君。
 どこからどう見ても草食系男子の代表のような彼は、実はこっそり茶道部の部長さんだったりする。茶道部は部員が塚君の他に、一年生の女の子が一人だけらしいので、今年の学園祭では出し物はしないらしい。
 因みに、その一年生の女の子は、塚君に気があるのでは無いかと専らの噂だ。
 成績も常に上位なのに、見栄を張る事も無く、男子にも女子にも受けがいい。昨日のメイド喫茶の乱の時も、女の子が嫌がるなら止めた方がいいんじゃないかな、と静かに手を上げてくれていた。男子は塚君に男の世界を教えようとし、そんな彼を密かに思う肉食の女子達はそれを必死で阻止している。
 要は、6組の影の人気者って事だ。

『頼んだら断らないだろうし、頭がいいだろうから細かい事も頼める。塚君をこっち側に引き入れるのは、簡単だと思うけれど、最重要項目と言ってもいいね』

 紗絵が君付けで呼ぶ男子なんて、塚君だけである。
 そんな十重二十重の紗絵の思惑に、塚君は我関せずと、涼やかに資料に目を通していた。

「とりあえず、後は衣装だよね。ここがさぁ、得意な奴ってのが思いつかなかったんだけど、何かいい案無い?」
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