ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

文字の大きさ
上 下
78 / 86
9 学園祭

9-6

しおりを挟む
 ――不思議な子だな~……。

 悪い子だとは思えない。
 だけど、彼女と仲良く、スムーズにお話ししている自分を想像する事は、残念ながら今の私には難しかった。

 ――けど、ああ言う女の子が、男の子は好きなのかな?

 思わず、大きな溜息が出た。
 何だか疲れた、もう帰ろうと、ふと顔を上げた瞬間、実用コーナーに置かれていた、一冊の本のタイトルが目に飛び込んできた。

『必見! 男を手玉に取る100のテクニック』

 実用コーナーに置いてあると言う事は、実用するべき事柄なのだろうか?
 一瞬手を伸ばしかけて、やっぱり手にするのをやめた自分を、今はまだ、賢明だと思いたい。



『ふんふん、成程ね。それで、紗絵ちゃんが珍しく気落ちしてるって事か~』

 帰宅後、どうしても心の靄を払い切れなかった私は、まるで助けを求めるように、順哉さんに電話を掛けた。
 一通り事情を説明したのだが、私の思いとは裏腹に、携帯の向こう側の順哉さんは、随分と楽しそうな口ぶりである。

「事か~、じゃないですよ~。紗絵があんなに凹んでるのなんて初めて見たし、何とか、不自然にならないように元気づけてあげて貰えませんか?」
『ん~、上手く出来るかは分からないけどね、とりあえず、後で一本メール打っておくよ』
「お願いします」
『それより、普段クール気取ってる癖に、熱くなると暴走しちゃうなんて、紗絵ちゃんも随分可愛いとこあるんだね』
「それは是非本人に言ってあげて下さい。きっと喜びますよ」
『え~? 紗絵ちゃんに、可愛いって言って喜ぶかな~?』
「喜ぶに決まってるじゃないですか、紗絵だって女の子なんですよ。口では何言ってても、可愛いって言われて、喜ばない女の子はいません」

 どんなに表面とのキャラが違っていても、可愛いと形容されたり、女の子扱いされたりして、心の底から嫌がる女の子なんて、ほぼ皆無と言っていい。この辺りを理解していない男の子が世の中には多過ぎる。誠に遺憾である。
 ましてや相手は紗絵なのだ。順哉さんに言われたら、嬉しいに決まってるじゃないか、と言う言葉は、後々の紗絵の名誉の為にも、私の口からは控えておく事にする。

『それもそっか。そんじゃ、和葉ちゃんの期待に添えられるように、何とか頑張ってみますか』
「よろしくお願いします」

 電話口から祈りの電波を送り込み、携帯を切る。

「……はぁ~あ~」

 身体をうんと伸ばし、溜息を思いっきり吐きながらベッドに倒れ込んだ。そのまま、枕を抱え込んでベッドの上で丸くなる。
 紗絵の落ちた気を持ちあげられるよう、私なりに色々考えてみたのだが、結局順哉さんに協力を要請する事しか思いつかなかった。
 他人任せになってしまい非常に申し訳無いが、順哉さんが上手くやってくれる事を切に願う。
 それと同時に、何も出来ない不甲斐無い自分にますます溜息が出る。
 沈んだ気持ちを紛らわせる為、買って来た文庫本に手を伸ばし、ゆっくりとページを繰ってみる事にする。だけれども、文章を流して読む事は出来ても、内容はさっぱり頭に入ってはこなかった。

「和葉~、ご飯出来たわよ~」
「は~い! 今行く~」

 階下から聞こえて来た母の呼び声に返事をする。
 読み始めた文庫本は栞を挟まずに閉じ、携帯だけを持って居間へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

処理中です...