ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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9 学園祭

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 呪詛を呟きながら、肩を落としとぼとぼと去っていくジャンヌダルクの背中を、道子と二人で暫し眺めた。

「紗絵、大丈夫かな?」
「何が?」
「いや、あんなに凹んでる紗絵初めて見たし、私も、メイド服着るよりはいいって、紗絵の応援しちゃったから、責任あるよ……」
「和葉は細かい事気にし過ぎ。女子のほぼ全員の総意だったんだから、別に和葉だけが責任感じる事は無いでしょ? それに、紗絵なら大丈夫よ。面倒くさい事は嫌がるけど、責任感はあるから、実際に任されたなら、しっかりやるって」
「それならいいんだけどさ……」
「それとね、あいつの事だから、絶対うちらは巻き込んで来るから。私は多分、去年みたいに、お菓子とか紅茶とか、その辺だと思うけど、和葉も何かやらされるかもね?」
「何かって?」
「まぁ、お化け屋敷みたいな感じって言ってんだから、小道具とか、メイクとか、衣装とか、色々あんじゃない?」
「なんだか、お芝居でもするみたい」
「大して違わないんじゃない? それに、お芝居って言うよりは、お祭りよね。トリックオアトリート」

 ハロウィンには若干時期が早すぎる。

「それにしても道子、なんか随分楽しそうね?」
「私は基本的にお菓子作るのもお祭り事も好きだからね。紗絵は面倒くさいの嫌がるだろうけど、私は割と面白くなってきたなって思ってる」
「祐一君との学園祭デートはいいの?」
「それはそれ、勿論そっちも全力で楽しむつもりよ! ユウ君はクラスより、サッカー部の出し物の方に力入れるって言ってたから、そこそこ時間はあると思うし」

 ワクワクを隠そうともせずに、星と炎を同時に瞳に宿しながら夢想する道子を、羨ましく思った。

「サッカー部って何やるの?」
「今頃決めてる筈。後でメール来るでしょ。そんじゃ、また明日ね」

 分かれ道で道子と手を振り合ったはいいものの、私は何だか真っ直ぐ帰る気になれなかった。
 辺りはもう薄暗くなりかけていたけれど、少しだけ、と決めて、私は駅前の大型書店に足を向けた。
 帰宅途中のサラリーマンや、子供連れの主婦達が入り混じり、店内は中々に盛況だった。
 特に何を見るでもなく、文庫コーナーを一瞥した所で、お気に入りの作家の新刊を見つけた為、思わず手に取る。裏面を眺め、数字の桁が3つなのを確認した後、レジへと持っていく。
 月一のお小遣いのみで生計を立てている私にとって、ハードカバーはちょっと敷居が高い。両親からは、学業が疎かになるからと言う理由で、アルバイトは禁止されているのだが、それはとんでもない誤解である。
 アルバイトをしないからと言って、進んで勉学に勤しむと言う物では無い。
 そんな自分勝手なロジックは、勿論両親に見つからないように、胸の内にこっそりとしまったままである。
 たま~に、お母さんに内緒でこっそり、お父さんがお小遣いをくれたりしている。欲しい本があるんだ、と言いながらお願いすれば、仕方ないなぁと言いながら、緑色の野口先生を握らせてくれる。
 ここで、男親なんてちょろい、なんて決して思ってはいけない。
 素直に、真剣にお願いするからこそ、こう言うおねだりは通用するものなのだ。たとえ肉親にでも、感謝の気持ちを忘れてしまっては、人間終わりである。
 文庫本にはカバーをかけて貰い、その代わりに袋を断る。
 輪ゴムを止めた文庫本を鞄の中にしまい、お買い物は終了。だけど、店から出る事はまだせずに、趣味や実用のコーナーに足を向けた。
 道子は気楽に言っていたが、やはり紗絵の事に関しては少し責任を感じていた。私が何をさせられるのか、そもそも、私に何が出来るのかは分からないが、何かしら紗絵の力になりたいと感じていた。
 お菓子の作り方、お洋服の縫い方、簡単メイクアップ術等々、役に立ちそうな物を眺めていたはずなのに、目線はいつの間にか、楽しい盆栽、一から始める般若心経、貴方にも出来るチャネリング、こんなに面白い高等数学、など、とても実用出来るとは思えないゾーンに足を踏み入れてしまっていた。
 試しに般若心経を手に取ってみるが、いくら本が好きな私でも、これは開始2ページでギブアップだ。
 そのまま目線を移していくと、実用コーナーのすぐ隣、音楽関係のコーナーで雑誌を読んでいた女の子に目を奪われてしまった。
 熱心に雑誌を読みふける彼女は、昼間と同じようにとても可愛らしく、だけれども、華やかと言うよりは、どこか気品の漂った面持ちをしていた。

「……笹村さん?」
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