ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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9 学園祭

9-2

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「笹村さんって、彼氏とかいないのかな?」

 昼休み中、昨夜の残りのひき肉から拵えられたと思われる、母特製のミニハンバーグを箸で引き裂きながら、さりげなく道子に尋ねてみた。

「分からないけど、いないと思うよ。告白した男子ってのは結構いたみたいだけど、上手くいったって話は一向に聞かないし」
「かぁ~、贅沢もんも居たもんだねぇ。まぁ、器量よしの女ってのはいつの時代も、男を選び放題だろうし、男にしてみれば、高嶺の綺麗な花ってのは、やっぱり摘んでみたくなるんだろうねぇ」

 紗絵が偏見に満ちた発言をしながら、見覚えのあるミニハンバーグを口の中に放り込んだ。

「うわっ、おばさん天才! どうやったらこんな深い味が出んのよ!」

 ――私のかよ!

「ちょっと、勝手に取ってかないでよ!」
「そうよ紗絵、ちゃんと一言言わなきゃ。ねぇ和葉、私にも一つ頂戴」
「これ、今日の私のメインおかずなんだけど?」
「あ~、そう言えば前に、彼氏作らないのかって理音に聞いた奴がいたことを、思い出しそうなんだけどさ~?」
「はい道子、あ~んして~」

 道子の口の中に、生贄を放り込む。
 道子は遠慮なく私からの供物を咀嚼し、満足気に頬を上気させた。

「うわぁ、本当に美味しい、和葉、ちょっと今度おばさんに料理習いに行っていいかな?」
「聞いておく。それで、笹村さん、何で彼氏作んないの?」
「まぁ、あくまで聞いた話ね? あの子、普段から結構アイドルの追っかけとかやってるらしいんだけどさ、言っちゃえばそのアイドルくらい、自分を夢中にさせてくれる人じゃないと、付き合う気がしないんだって」
「つまり、格好いい素敵な白馬の王子様が、目の前に現れて攫ってくれるのを待ってるって事? 現実の男共には全く興味が沸かないってかい? けったくそ悪い話だなぁ」

 道子の情報が、紗絵のフィルターを通すと途端に汚れていく。

「紗絵、笹村さんの事嫌いなの?」
「いや別に、まぁ、そんなに好きな部類では無いかな? でも、話を聞いてる限りでは、お近づきにはなれない感じはプンプンする」
「まぁ確かに、あんたとは相性悪いわね、きっと」

 道子がけらけらと笑う。

「んで、当の本人はまた屋上?」
「うん、多分」

 紗絵の目線を辿り、私も玲央君の席を眺める。そこに本人の姿は無く、次の授業で使う国語の教科書が、主人の帰りを待っている。
 ファンにサインを求められる事なんて、よくある事なんだろうか?
 だとしたら、玲央君の周りには、いつも彼の歌声に惹きつけられた女の子がいると言う事になる。
 げんなりするが、その代表格が自分なのだと理解すれば、その事実は最早諦めるしかない。

「ところでさ、出し物の希望、何するか決めた?」

 道子がふと話題を変えた。

「あ~、今日までだっけ? まぁ、喫茶店とか、お化け屋敷とかが妥当な所じゃない?」

 紗絵が気だるそうに呟く。
 携帯を取り出して、カレンダーを覗く。
 来月に迫った学園祭での、クラスの出し物を決める為のHRが、今日の放課後に行われる。
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