62 / 86
8 二学期
8-2
しおりを挟む
大急ぎで用意をした私が玄関に戻ると、何があったのか知らないが、3人はすっかり意気投合していた。テンションの高い女三人、朝から姦しい事この上ない。
階段から降りて来た私を見るなり、母は声を上げた。
「何よあんた、頭ボッサボサのままじゃない」
「ちゃんと梳かしたよ?」
「これで? 本当に下っ手くそなんだから~、道子ちゃん、紗絵ちゃん、一分待って貰っていい?」
苛つくような口調とは裏腹に、母は意気揚々と居間へと向かい、すぐさま櫛を片手に戻ってきた。
玄関前に座らされ、母曰くボサボサのままの頭に、櫛を当てられる。
――時間無いってのに~。
そう思いながらも、若干気分がいいのは、幼い頃からの条件反射によるものだろうか?
道子と紗絵がこちらをにまにました顔で眺めて来ているので、若干居心地は悪いのだけれども……。
「はいOK」
母が私の頭を両手でポンポンと叩き、終了の合図を出す。
「それじゃ、行ってきま~す」
「行ってきま~す」
「はい、行ってらっしゃ~い」
紗絵と道子の挨拶に、母が陽気な笑顔を返した。
――なんて晴れやかな笑顔だ。
その顔を見て苦笑しか出て来ないのは、私が彼女の実の娘だからだろうか?
「行って来ます」
申し訳程度に呟く。
「和葉のお母さん、面白いね。話してたらこっちまで楽しくなって来るわ」
道子が楽しそうに、初対面の母について語り出した。
「そうかな?」
「あれで料理も上手くてさ、朝から娘の頭に櫛を当てられる位余裕があって、ついでに気風もいい。和葉のお父さんは、いい人見つけたってもんだよ」
紗絵が語る母は、すでに私の知っている母では無い。
「ところで、今日はどうしたのよ? そもそも、家の場所よく分かったね?」
学校への道すがら、当然の疑問を投げかける。
二人とは二年生に上がった時に仲良くなったのだが、お互いの家にお邪魔した事なんて一度も無い。
「ああ、和葉の家の場所は、順哉さんに聞いた」
「どうして順哉さんが家を知ってるの?」
「お姉さんの引越しを手伝った時に行ったって言ってたけど?」
「あー……」
言われて思い出す。
お姉ちゃんが大学に合格し、一年程してから今のアパートに引っ越す際、何人か知り合いの男の子を手伝いで呼んでいた。あの中に、順哉さんも居たのだろう。
正直、全く覚えていないけれど……。
それにしても、順哉さんと紗絵の連携プレイの巧みさはどうだ?
この二人を組ませてしまった事が、後々恐怖へと繋がらない事を祈ろう。
「んで、どうして今日はわざわざ?」
残っていた方の疑問をもう一度口に出すと、急に道子が後ろから抱きついて来た。
「和葉~、ごめんね~」
「え? 何が?」
「いや、あの、花火の時とか、何か私が無理矢理持って行ったせいでさ、あんたら妙に気まずくなっちゃったじゃない? こないだファミレスに集まった時も、何か変な空気漂ってたしさ~。段々、悪い事したなぁ~って、思っちゃった訳よ~」
「そんで、その相談を受けた私が、わざわざ順哉さんから和葉の家の場所を聞き出して、わざわざ一緒にこうして迎えに行ってあげたって訳。どう? 持つべきものは親友だと思わない?」
紗絵がニヤニヤしながら、逆側から抱きついて来た。
朝の往来で女子高生三人が抱きあいながら歩いている。
何とも異様な光景だろうが、それより何より、二人ともがっつりと体重を預けて来るので、歩きづらくてしょうがない。
「わかったから、ちょっと離れて! 転ぶ、転ぶから!」
私の熱意が伝わったのか、二人共とりあえず身体を離してくれた。
「ん~、玲央君と、ちょっと空気がおかしくなっちゃったのは、そりゃ、それもちょっとあるけど、別にそれは、道子のせいじゃ無いし、寧ろ道子は、私の為を思ってやってくれたんだから、気にしなくていいよ?」
善意の行為が例え失敗に終わったとしても、それを責める程、了見の狭い人間ではいたく無い。
寧ろ、立ててくれたお膳をひっくり返してしまった事に、申し訳無さを感じる。
「そうは言ってもね、大藤はまだしも、和葉には悪い事したなって思っちゃったのよ。だから、マジでごめん」
「もういいってば、大丈夫だって」
道子の眉間に寄った皺が、少しだけ緩くなる。
「でも、そんな事の為にわざわざ迎えに来てくれたの?」
「まぁ、教室だと大藤がいるしさ。話しづらいなってのと、それと紗絵からのアドバイスもあって」
「アドバイス?」
「夏休み中の禍根は、夏休み中に解消すべきだって」
「今日もう9月だけど?」
「こう言うのは、学校に着くまでが夏休み」
紗絵が得意げに、遠足みたいな事を言っている。
「それにしても、大藤の奴、ちゃんと学校来るの?」
「あ、それは私も思った。どうなの、和葉?」
「ん~、多分来ると思うんだけど……、宿題も終わったし……」
正直なところ、それは私にも分からない。
階段から降りて来た私を見るなり、母は声を上げた。
「何よあんた、頭ボッサボサのままじゃない」
「ちゃんと梳かしたよ?」
「これで? 本当に下っ手くそなんだから~、道子ちゃん、紗絵ちゃん、一分待って貰っていい?」
苛つくような口調とは裏腹に、母は意気揚々と居間へと向かい、すぐさま櫛を片手に戻ってきた。
玄関前に座らされ、母曰くボサボサのままの頭に、櫛を当てられる。
――時間無いってのに~。
そう思いながらも、若干気分がいいのは、幼い頃からの条件反射によるものだろうか?
道子と紗絵がこちらをにまにました顔で眺めて来ているので、若干居心地は悪いのだけれども……。
「はいOK」
母が私の頭を両手でポンポンと叩き、終了の合図を出す。
「それじゃ、行ってきま~す」
「行ってきま~す」
「はい、行ってらっしゃ~い」
紗絵と道子の挨拶に、母が陽気な笑顔を返した。
――なんて晴れやかな笑顔だ。
その顔を見て苦笑しか出て来ないのは、私が彼女の実の娘だからだろうか?
「行って来ます」
申し訳程度に呟く。
「和葉のお母さん、面白いね。話してたらこっちまで楽しくなって来るわ」
道子が楽しそうに、初対面の母について語り出した。
「そうかな?」
「あれで料理も上手くてさ、朝から娘の頭に櫛を当てられる位余裕があって、ついでに気風もいい。和葉のお父さんは、いい人見つけたってもんだよ」
紗絵が語る母は、すでに私の知っている母では無い。
「ところで、今日はどうしたのよ? そもそも、家の場所よく分かったね?」
学校への道すがら、当然の疑問を投げかける。
二人とは二年生に上がった時に仲良くなったのだが、お互いの家にお邪魔した事なんて一度も無い。
「ああ、和葉の家の場所は、順哉さんに聞いた」
「どうして順哉さんが家を知ってるの?」
「お姉さんの引越しを手伝った時に行ったって言ってたけど?」
「あー……」
言われて思い出す。
お姉ちゃんが大学に合格し、一年程してから今のアパートに引っ越す際、何人か知り合いの男の子を手伝いで呼んでいた。あの中に、順哉さんも居たのだろう。
正直、全く覚えていないけれど……。
それにしても、順哉さんと紗絵の連携プレイの巧みさはどうだ?
この二人を組ませてしまった事が、後々恐怖へと繋がらない事を祈ろう。
「んで、どうして今日はわざわざ?」
残っていた方の疑問をもう一度口に出すと、急に道子が後ろから抱きついて来た。
「和葉~、ごめんね~」
「え? 何が?」
「いや、あの、花火の時とか、何か私が無理矢理持って行ったせいでさ、あんたら妙に気まずくなっちゃったじゃない? こないだファミレスに集まった時も、何か変な空気漂ってたしさ~。段々、悪い事したなぁ~って、思っちゃった訳よ~」
「そんで、その相談を受けた私が、わざわざ順哉さんから和葉の家の場所を聞き出して、わざわざ一緒にこうして迎えに行ってあげたって訳。どう? 持つべきものは親友だと思わない?」
紗絵がニヤニヤしながら、逆側から抱きついて来た。
朝の往来で女子高生三人が抱きあいながら歩いている。
何とも異様な光景だろうが、それより何より、二人ともがっつりと体重を預けて来るので、歩きづらくてしょうがない。
「わかったから、ちょっと離れて! 転ぶ、転ぶから!」
私の熱意が伝わったのか、二人共とりあえず身体を離してくれた。
「ん~、玲央君と、ちょっと空気がおかしくなっちゃったのは、そりゃ、それもちょっとあるけど、別にそれは、道子のせいじゃ無いし、寧ろ道子は、私の為を思ってやってくれたんだから、気にしなくていいよ?」
善意の行為が例え失敗に終わったとしても、それを責める程、了見の狭い人間ではいたく無い。
寧ろ、立ててくれたお膳をひっくり返してしまった事に、申し訳無さを感じる。
「そうは言ってもね、大藤はまだしも、和葉には悪い事したなって思っちゃったのよ。だから、マジでごめん」
「もういいってば、大丈夫だって」
道子の眉間に寄った皺が、少しだけ緩くなる。
「でも、そんな事の為にわざわざ迎えに来てくれたの?」
「まぁ、教室だと大藤がいるしさ。話しづらいなってのと、それと紗絵からのアドバイスもあって」
「アドバイス?」
「夏休み中の禍根は、夏休み中に解消すべきだって」
「今日もう9月だけど?」
「こう言うのは、学校に着くまでが夏休み」
紗絵が得意げに、遠足みたいな事を言っている。
「それにしても、大藤の奴、ちゃんと学校来るの?」
「あ、それは私も思った。どうなの、和葉?」
「ん~、多分来ると思うんだけど……、宿題も終わったし……」
正直なところ、それは私にも分からない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる