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7 夏祭り
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「はぁ~ん、なるほどね~」
賽銭箱の前で、道子は考え込むように呟いた。
人目につくのを避け、早々と移動して来た私達以外、境内にはまだ誰もいない。先程まで喧騒のただ中にいたとは思えない程、祭りの賑わいは微かに耳を擽るのみだ。
祐一君は飲み物を買って来ると言って、一人縁日へと戻って行った。恐らく、気を利かせてくれたのだろう。
私は先程までの一連の流れを、道子に話した。
いや、話さざるを得なくなってしまった、というのが正しい。
泣き顔の理由を問いただされ、玲央君の所為かと怒り出しそうになった道子に対し、ありのままを話すしか無くなってしまったのだ。
そして、ありのままを話すと言う事は、すなわち、私達の関係性を全て話すと言う事だ……。
「それにしても、和葉も厄介な恋愛してるのね~」
賽銭箱前の小さな石段に、道子は腰を下ろした。
道子の隣に座り、思わず嘆息する。
「そう言わないでよ。別に、したくて厄介にしてる訳じゃないんだから……」
「まぁ、それもそうよね。でも、あんたのお姉さんにも彼氏いるんでしょ? じゃあ結局、大藤の方も脈無しじゃない?」
「……うん」
思わず頷いてしまったが、私は玲央君に、姉の事が好きなのかと確認を取った事は無い。
まぁ、聞ける訳は無いのだが、なので今は、まだあくまでそうかもしれない、と言うレベルの話なのだ。
だけど私だって、伊達に玲央君の事ばかり考えている訳ではない。言葉遣いも、表情も、そう考えれば全て説明がついてしまうのだ。
女の勘は当たる。
だけどその勘は、ただの単純なインスピレーションだけでは無い。
表情や仕草、言動などから摘み取る事の出来る情報から導き出される、確信めいた推測なのである。
それが例え、気づきたく無い事実だったとしても、女のアンテナには、殊更人の好意や悪意がホイホイと引っ掛かるのだ。
勿論これ自体が、私の個人的な推測なのだけれども……。
「じゃあさ、結局大藤が和葉に振り向けば、万事解決な訳よね?」
「え?」
「いやぁ、だってよ? 大藤だって、別に好き好んで彼氏いる相手好きになった訳じゃないでしょ? あいつも不毛、あんたも不毛なら、あんたら二人がくっつけば、丸く収まる訳じゃない?」
道子は微笑みを浮かべながら、自分で出した推論に、自ら相槌を打っている。
――簡単に言ってくれるなぁ……。
「うん、親友の恋路の手助けもしたいし、ここは一つ、全力で協力させてもらうわ」
道子はキラキラとした顔をこちらに向け、そう宣言する。
人の事を言えた義理では無いが、どうして女と言う生き物は、人の恋愛事に対して、こんなにも熱心になれるのだろう? 寧ろ当事者よりも自分事のように捉えている気さえする。さも良縁を結ぶ事を至上の目的と思っているかのようにさえ感じる。
道子は私達三人の中で、最も女子力が高い。
いや、そもそも女子力と言う値が、一般的に数値化されている訳では無いのだが、私の目から見ても道子は、これぞ女の子、流石女の子、と思うような面が多く見受けられる。
そんな道子の事を羨ましく思う時もある。
私は女子力の正体とは、女として生きる事の情熱を、伝播しやすい言葉に変換した物だと思っている。
つまり、情熱的に生きる道子を、時に羨ましく、時に疎ましく感じるのは、結局私が、中途半端に生きている事の証とも言えてしまう。
だけれども、玲央君との仲を取り持ってくれると言うのは、この上なくありがたい提案だ。
ありがた迷惑と言う言葉には、今の間だけ蓋を被っていてもらおう。
「でも、協力って、何をどうしてくれるの?」
「あんたね、何の為にここを集合場所に選んだと思ってるの?」
「え? 人が少なくて、場所的にも目立つから、待ち合わせしやすいからじゃないの? そもそも、ここを指定したのは祐一君だったじゃない」
考えながら口を動かす私を見ながら、道子は大袈裟に肩を竦めた。
「それなら入り口の鳥居で待ち合わせた方が手っ取り早いじゃない?」
「ああ、それもそっか」
「じゃあヒントね、ここは今は人がいないけど、もうちょっとしたらそこそこ賑わう事になるの。それに、私とユウ君も、元々今日はこの場所に来るのが目的だったのよ」
「……あぁ、分かった」
この境内は、縁日の終点に位置する階段を登った先に存在している。登り切ったなら、階下に見える縁日の喧騒が若干の収まりを見せる程度には、高い位置に存在しているのだ。
つまり、
「花火の穴場スポットって事?」
「はい、正解」
「でも、それが?」
「和葉、あんた本当に恋する女の子なの?」
道子が眉根を寄せ、呆れ口調で呟く。
「そう言われてしまうと、面目無いです……」
「いい? 夏祭りで、浴衣で花火なんて、一大イベントじゃない。いつもとは違う雰囲気の中で、花火の明かりに照らされながら、女がちょっとだけ大胆になる事を許される時間。そんな女の事を、男は可愛いって思うもんなのよ」
道子の口から、夢見がちな妄想がだだ漏れる。
「そう言うもん?」
「花火の明かりは、薄暗い中での熱明かりだからね。暗闇の中での熱明かりってのは、人間の顔を魅力的に見せるものなのよ。影が濃く出るのがいいんだって」
夢見がちな割に、随分と論理的な答えが返ってきた事に驚く。
「花火始まるちょっと前位になったら、こっそり私達離れるからね。とりあえず、上目遣いは鉄板だから。ポイントはね、ちょっと顎を引く感じを常に意識するの。思いっきり笑うより、ちょっと微笑む位の方が効果あるわよ。後は、花火始まったら、手を握るなり、裾を持つなり、思い切って告白するなり、好きに頑張ってくれたらいいから」
「無理~、そんなの絶対無理~」
「大丈夫だって、別にキスしろとか、押し倒せとか言ってる訳じゃないんだから。ちょっと背伸びをしてますくらいでいいんだって」
「うぅ~……」
道子から与えられる素晴らしき謀略の数々も、私にとってはかなりハードなレベルだ。
それにしても、げに恐ろしきは道子の軍師としての才能である。
「全部計算の内って事?」
「全部じゃないわよ。計算高い女なんて、嫌じゃない? でも、足し引きも出来ない女は、モテないからね~。可愛い狡さは許されるわよ。最近は小悪魔ブームなんてのもあったしね~」
道子はしみじみと言う。
ここまで智略を巡らす事を、足し引き程度と言われてしまうのならば、私は数字の読み方から勉強し直すべきかもしれない。
賽銭箱の前で、道子は考え込むように呟いた。
人目につくのを避け、早々と移動して来た私達以外、境内にはまだ誰もいない。先程まで喧騒のただ中にいたとは思えない程、祭りの賑わいは微かに耳を擽るのみだ。
祐一君は飲み物を買って来ると言って、一人縁日へと戻って行った。恐らく、気を利かせてくれたのだろう。
私は先程までの一連の流れを、道子に話した。
いや、話さざるを得なくなってしまった、というのが正しい。
泣き顔の理由を問いただされ、玲央君の所為かと怒り出しそうになった道子に対し、ありのままを話すしか無くなってしまったのだ。
そして、ありのままを話すと言う事は、すなわち、私達の関係性を全て話すと言う事だ……。
「それにしても、和葉も厄介な恋愛してるのね~」
賽銭箱前の小さな石段に、道子は腰を下ろした。
道子の隣に座り、思わず嘆息する。
「そう言わないでよ。別に、したくて厄介にしてる訳じゃないんだから……」
「まぁ、それもそうよね。でも、あんたのお姉さんにも彼氏いるんでしょ? じゃあ結局、大藤の方も脈無しじゃない?」
「……うん」
思わず頷いてしまったが、私は玲央君に、姉の事が好きなのかと確認を取った事は無い。
まぁ、聞ける訳は無いのだが、なので今は、まだあくまでそうかもしれない、と言うレベルの話なのだ。
だけど私だって、伊達に玲央君の事ばかり考えている訳ではない。言葉遣いも、表情も、そう考えれば全て説明がついてしまうのだ。
女の勘は当たる。
だけどその勘は、ただの単純なインスピレーションだけでは無い。
表情や仕草、言動などから摘み取る事の出来る情報から導き出される、確信めいた推測なのである。
それが例え、気づきたく無い事実だったとしても、女のアンテナには、殊更人の好意や悪意がホイホイと引っ掛かるのだ。
勿論これ自体が、私の個人的な推測なのだけれども……。
「じゃあさ、結局大藤が和葉に振り向けば、万事解決な訳よね?」
「え?」
「いやぁ、だってよ? 大藤だって、別に好き好んで彼氏いる相手好きになった訳じゃないでしょ? あいつも不毛、あんたも不毛なら、あんたら二人がくっつけば、丸く収まる訳じゃない?」
道子は微笑みを浮かべながら、自分で出した推論に、自ら相槌を打っている。
――簡単に言ってくれるなぁ……。
「うん、親友の恋路の手助けもしたいし、ここは一つ、全力で協力させてもらうわ」
道子はキラキラとした顔をこちらに向け、そう宣言する。
人の事を言えた義理では無いが、どうして女と言う生き物は、人の恋愛事に対して、こんなにも熱心になれるのだろう? 寧ろ当事者よりも自分事のように捉えている気さえする。さも良縁を結ぶ事を至上の目的と思っているかのようにさえ感じる。
道子は私達三人の中で、最も女子力が高い。
いや、そもそも女子力と言う値が、一般的に数値化されている訳では無いのだが、私の目から見ても道子は、これぞ女の子、流石女の子、と思うような面が多く見受けられる。
そんな道子の事を羨ましく思う時もある。
私は女子力の正体とは、女として生きる事の情熱を、伝播しやすい言葉に変換した物だと思っている。
つまり、情熱的に生きる道子を、時に羨ましく、時に疎ましく感じるのは、結局私が、中途半端に生きている事の証とも言えてしまう。
だけれども、玲央君との仲を取り持ってくれると言うのは、この上なくありがたい提案だ。
ありがた迷惑と言う言葉には、今の間だけ蓋を被っていてもらおう。
「でも、協力って、何をどうしてくれるの?」
「あんたね、何の為にここを集合場所に選んだと思ってるの?」
「え? 人が少なくて、場所的にも目立つから、待ち合わせしやすいからじゃないの? そもそも、ここを指定したのは祐一君だったじゃない」
考えながら口を動かす私を見ながら、道子は大袈裟に肩を竦めた。
「それなら入り口の鳥居で待ち合わせた方が手っ取り早いじゃない?」
「ああ、それもそっか」
「じゃあヒントね、ここは今は人がいないけど、もうちょっとしたらそこそこ賑わう事になるの。それに、私とユウ君も、元々今日はこの場所に来るのが目的だったのよ」
「……あぁ、分かった」
この境内は、縁日の終点に位置する階段を登った先に存在している。登り切ったなら、階下に見える縁日の喧騒が若干の収まりを見せる程度には、高い位置に存在しているのだ。
つまり、
「花火の穴場スポットって事?」
「はい、正解」
「でも、それが?」
「和葉、あんた本当に恋する女の子なの?」
道子が眉根を寄せ、呆れ口調で呟く。
「そう言われてしまうと、面目無いです……」
「いい? 夏祭りで、浴衣で花火なんて、一大イベントじゃない。いつもとは違う雰囲気の中で、花火の明かりに照らされながら、女がちょっとだけ大胆になる事を許される時間。そんな女の事を、男は可愛いって思うもんなのよ」
道子の口から、夢見がちな妄想がだだ漏れる。
「そう言うもん?」
「花火の明かりは、薄暗い中での熱明かりだからね。暗闇の中での熱明かりってのは、人間の顔を魅力的に見せるものなのよ。影が濃く出るのがいいんだって」
夢見がちな割に、随分と論理的な答えが返ってきた事に驚く。
「花火始まるちょっと前位になったら、こっそり私達離れるからね。とりあえず、上目遣いは鉄板だから。ポイントはね、ちょっと顎を引く感じを常に意識するの。思いっきり笑うより、ちょっと微笑む位の方が効果あるわよ。後は、花火始まったら、手を握るなり、裾を持つなり、思い切って告白するなり、好きに頑張ってくれたらいいから」
「無理~、そんなの絶対無理~」
「大丈夫だって、別にキスしろとか、押し倒せとか言ってる訳じゃないんだから。ちょっと背伸びをしてますくらいでいいんだって」
「うぅ~……」
道子から与えられる素晴らしき謀略の数々も、私にとってはかなりハードなレベルだ。
それにしても、げに恐ろしきは道子の軍師としての才能である。
「全部計算の内って事?」
「全部じゃないわよ。計算高い女なんて、嫌じゃない? でも、足し引きも出来ない女は、モテないからね~。可愛い狡さは許されるわよ。最近は小悪魔ブームなんてのもあったしね~」
道子はしみじみと言う。
ここまで智略を巡らす事を、足し引き程度と言われてしまうのならば、私は数字の読み方から勉強し直すべきかもしれない。
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