ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

文字の大きさ
上 下
51 / 86
7 夏祭り

7-3

しおりを挟む
 湯船を溜めている間に一度部屋に戻ると、階下から母の声が私を呼んだ。

「ちょっと、和葉ー!」
「なーにー?」

 部屋から顔を出し、大声で返す。

「あんた、ご飯どうするの?」
「あー、考えてなかった~!」
「その辺お友達と確認しときなさい。食べるなら、何か軽く作るから」
「うん、ありがとう」
「それと、ちゃんとお湯見ておきなさいよ」
「分かってるわよ~」

 大声の会話を中断し、道子と紗絵に食事に関してのメールを送る。
 すぐに道子から返信があった。

『うちらは早めに行くから、縁日で済ませるけど、あんたらは食べて来てもいいんじゃない?』

 可愛らしい絵文字で送られてきた女子力の高いメールを翻訳した内容は、結局紗絵に確認を取るしか無いと言う結論に至るものだった。
 携帯を片手に再び脱衣所に向かう。
 下着姿になった所で紗絵からのメールが届いた。

『時間も時間だし、軽く何か食ってった方がいいんじゃね? って訳で大藤への連絡は任せた』

 道子とは対称的に、男らしいシンプルな文面で送られてきた紗絵からのメールを受け、ほぼ同時に台所へ言葉を放つ。

「お母さーん。ご飯いるわ~。食べる~!」

 暫し待っても返事が無かった為、脱衣所より顔を出してもう一度叫んだ。

「お母さーん、聞こえたー?」
「はいはい、なぁに?」

 台所とは逆方向から登場した母は、私の姿を確認するなり呆れるような声を出した。

「あんた、年頃の娘が、そんな格好で出てくるんじゃないの」
「別にいいじゃん。家なんだし」
「お父さんもうすぐ帰ってくるわよ?」
「お父さんだったら全然平気だもん」

 正直、全然平気と言う訳では無いが、話しの流れ上強がっておく。

「それで、何?」
「ご飯食べる事になったから、お願い」
「あんまり食べ過ぎるんじゃないわよ。お腹出て、浴衣格好つかないから」
「分かってるわよ」

 そこで、下着姿がたたった所為か、一つくしゃみが出た。

「ほら見なさい。そんな格好してないで、さっさとお風呂入っちゃいなさい」
「は~い」

 脱衣所のドアを閉め、武者震いを起こした腕を軽くさすった後、下着を脱いだ。
 お風呂場のドアを開ける前に、ふと思い出し、玲央君にメールを打つ。

『玲央君、夜遅いので、何かお腹に入れておいて下さい』

 送信ボタンを押し、携帯を閉じる前に時間を確認する。
 4時44分。

 ――うぇっ、見るんじゃ無かった……。

 たまたま時刻を確認した時間が4並びとは……。迷信を然程気にするタイプではないが、何か嫌な予感がしてしまう。

 ――でもまぁ、よくある事だよね。うん、よくあることよくあること……。

 無理矢理自分に言い聞かせながら、お風呂場のドアを開けて、浴衣と言う戦闘服に着替える前の儀礼、身を清める作業に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

処理中です...