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7 夏祭り
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「お母さん、私の浴衣ってどこにしまってあるの?」
「何よ、帰ってくるなり、騒がしいわね」
ただいまを言うよりも先に、開口一番お宝の在り処を尋ねる私に、母はお茶を飲みながらのんびりと返事をした。
ファミレスで宿題をやっつけた後、八時半頃に神社の境内前に集合と取り決め、その場は解散となった。
解散する直前、緊急的に行われた女子会議の議題は、着て行く衣類に対するものだった。
「道子、あんた浴衣?」
「もち」
「和葉は?」
「考えて無かった」
「そりゃそっか。私もだ」
「二人も着てよ、私だけ浮いちゃうじゃん」
「道子を浮かしとくのも面白いけど、出来れば着たいよね。和葉、着るならあんた、当てはある?」
「家に帰れば、去年買ったのがあるはずだから、大丈夫。紗絵は?」
「あ~……、浴衣なんて暫く着てないからなぁ。前に来た時は、小学生だった気がする」
「駄目じゃん」
「いや、何とかする。和葉はとりあえず、大丈夫なんだね?」
「多分、お母さんに聞けば何とかなると思う」
「あんたは言わずもがな、だ」
「まぁね」
「そもそもそう言う話題は、決定事項になる前に、秘密裏に教えて欲しいもんだね」
「ごめんごめん、うっかりしてたわ」
「まぁいいや。私は私で何とかするから、とりあえずうちらは浴衣着用って事で、OK?」
「OK? だけどそれなら、あんまり時間無いね?」
「そこら辺は女子の意地の見せどころだね。じゃあ、各自健闘を祈る!」
お互いの武運を確認した後、時計を確認すると、時刻は4時を回った所だった。
家に帰ってくるなり、浴衣を求める娘をどう思ったのかは知らないが、母はどっこいしょと口にしながら腰を上げた。
――その口癖は、流石にまだ早いだろう……。
私の母に対する懸念をよそに、どこにしまったかしらねと呟きながら、母は洋服ダンスのある部屋へと向かった。押入れを開け、中に手を入れる。
「確か、ここだったと思ったんだけど……」
宛らカルガモのように母の後ろを付いて歩いて行ったが、母の口ぶりは随分とおぼろげで、何だか心許ない。
「本当にそこ? あんまり時間無いんだけど?」
「いきなり言い出した癖に、随分ね。いいからちょっと待ってなさい」
母の真っ当な言い分を受け、私は母の隣に腰を下ろし、一緒に押入れの中を覗いた。
暗く、埃っぽい押入れの奥に手を突っ込んだ母は、そこから綺麗な風呂敷包みを取り出した。
「多分、これじゃないかしら?」
手渡された風呂敷を開くと、中から木箱が出て来た。床に置いて開けると、見覚えのある水色地の浴衣が眠っていた。
「これこれ」
喜び勇んで、箱から取り出し広げてみる。
去年、高校進学のお祝いにと、お婆ちゃんが買ってくれた代物だ。水色の下地に、流れる川を意識した白の線。そこに赤で彩られた金魚が楽しそうに泳いでいる柄が描かれている、夏の涼しさを感じさせる一品である。
「お婆ちゃんに感謝しなさいよ」
「去年も一杯したし、今もしてるもん。それよりお母さん、着せて着せて」
「焦るんじゃないの。今日お祭り?」
「うん、隣町の神社でだってさ」
「待ち合わせとかしてるの?」
「うん、八時半から」
「あんまり遅くなるんじゃないわよ」
「分かったから早く~」
「その前に、時間あるんだから、先にお風呂入って来ちゃいなさい」
「あ~、そっか」
「ったく、こう言うのはもっと早めに言ってくれなきゃ」
「私だって、さっき言われたんだもん」
「分かったから、小物も出しておいてあげるから、さっさとお風呂入っておいで」
「は~い」
その場の物資調達は母と言う名の上官に任せ、私は与えられた任務を遂行すべく脱衣所へと向かった。
「何よ、帰ってくるなり、騒がしいわね」
ただいまを言うよりも先に、開口一番お宝の在り処を尋ねる私に、母はお茶を飲みながらのんびりと返事をした。
ファミレスで宿題をやっつけた後、八時半頃に神社の境内前に集合と取り決め、その場は解散となった。
解散する直前、緊急的に行われた女子会議の議題は、着て行く衣類に対するものだった。
「道子、あんた浴衣?」
「もち」
「和葉は?」
「考えて無かった」
「そりゃそっか。私もだ」
「二人も着てよ、私だけ浮いちゃうじゃん」
「道子を浮かしとくのも面白いけど、出来れば着たいよね。和葉、着るならあんた、当てはある?」
「家に帰れば、去年買ったのがあるはずだから、大丈夫。紗絵は?」
「あ~……、浴衣なんて暫く着てないからなぁ。前に来た時は、小学生だった気がする」
「駄目じゃん」
「いや、何とかする。和葉はとりあえず、大丈夫なんだね?」
「多分、お母さんに聞けば何とかなると思う」
「あんたは言わずもがな、だ」
「まぁね」
「そもそもそう言う話題は、決定事項になる前に、秘密裏に教えて欲しいもんだね」
「ごめんごめん、うっかりしてたわ」
「まぁいいや。私は私で何とかするから、とりあえずうちらは浴衣着用って事で、OK?」
「OK? だけどそれなら、あんまり時間無いね?」
「そこら辺は女子の意地の見せどころだね。じゃあ、各自健闘を祈る!」
お互いの武運を確認した後、時計を確認すると、時刻は4時を回った所だった。
家に帰ってくるなり、浴衣を求める娘をどう思ったのかは知らないが、母はどっこいしょと口にしながら腰を上げた。
――その口癖は、流石にまだ早いだろう……。
私の母に対する懸念をよそに、どこにしまったかしらねと呟きながら、母は洋服ダンスのある部屋へと向かった。押入れを開け、中に手を入れる。
「確か、ここだったと思ったんだけど……」
宛らカルガモのように母の後ろを付いて歩いて行ったが、母の口ぶりは随分とおぼろげで、何だか心許ない。
「本当にそこ? あんまり時間無いんだけど?」
「いきなり言い出した癖に、随分ね。いいからちょっと待ってなさい」
母の真っ当な言い分を受け、私は母の隣に腰を下ろし、一緒に押入れの中を覗いた。
暗く、埃っぽい押入れの奥に手を突っ込んだ母は、そこから綺麗な風呂敷包みを取り出した。
「多分、これじゃないかしら?」
手渡された風呂敷を開くと、中から木箱が出て来た。床に置いて開けると、見覚えのある水色地の浴衣が眠っていた。
「これこれ」
喜び勇んで、箱から取り出し広げてみる。
去年、高校進学のお祝いにと、お婆ちゃんが買ってくれた代物だ。水色の下地に、流れる川を意識した白の線。そこに赤で彩られた金魚が楽しそうに泳いでいる柄が描かれている、夏の涼しさを感じさせる一品である。
「お婆ちゃんに感謝しなさいよ」
「去年も一杯したし、今もしてるもん。それよりお母さん、着せて着せて」
「焦るんじゃないの。今日お祭り?」
「うん、隣町の神社でだってさ」
「待ち合わせとかしてるの?」
「うん、八時半から」
「あんまり遅くなるんじゃないわよ」
「分かったから早く~」
「その前に、時間あるんだから、先にお風呂入って来ちゃいなさい」
「あ~、そっか」
「ったく、こう言うのはもっと早めに言ってくれなきゃ」
「私だって、さっき言われたんだもん」
「分かったから、小物も出しておいてあげるから、さっさとお風呂入っておいで」
「は~い」
その場の物資調達は母と言う名の上官に任せ、私は与えられた任務を遂行すべく脱衣所へと向かった。
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