ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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6 キャンプ

6-7

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「あ、意外と混んでないね。これならすぐ着替えられそう」

 道子の声に顔を上げる。
 海の家に隣接されている更衣室に、人の列はそれ程出来ては居ない。
 その時、紗絵が私の首に腕を絡めて来た。

「は~い、和葉ちゃ~ん。準備はいいでちゅか~?」

 子供をあやすような口ぶりとは裏腹に、狡猾な蛇の目をこちらに向けてくる。
 今更、準備も何も無い。
 海に来て水着に着替えないなんて愚の骨頂だ。
 そして、私の水着はこれしかない。
 もはや必要なのは準備では無く、覚悟だけである。



 着替えを終えて集合場所に戻ると、海パンとTシャツと言うラフな姿に変身していた玲央君と祐一君が、出来あがったテントの前に座りながら何か話していた。
 近づきながら、それとなく耳を欹てる。

「大藤君も、キャンプとかよくするの?」
「いや、俺は全然しない。こういう、組み立てる系統の物が好きなだけ」
「プラモとか?」
「そうだな。小さい頃はよく作った」
「へぇ、テント組むの上手いから、てっきりアウトドア派なのかと思ったよ」
「全然そんなんじゃないよ。部屋に引きこもってる、不健康人間だから」

 ほとんど初対面であろう祐一君と話している玲央君は、微かに笑みを浮かべていた。
 やっぱり、男の子との方が話が合うのだろうか、なんていじけた感情が首を擡げる。

「お待たせユウ君、どうかな?」

 後ろからピンクのビキニに着替えた道子が、祐一君の前まで行きながら、これ見よがしにポーズを取った。悩ましげに、と言う枕言葉にならないのは、道子の風貌がどちらかと言えば幼いからだろう。だが、姉程では無いにしろ、発育の良さは私達三人の中では群を抜いている。
 一方、そんな道子を冷ややかに眺めている紗絵は、青色のワンピースをスレンダーな身体に纏わせている。制服を着ている分には分かりづらいが、一枚脱げば紗絵の身体は、中学までやっていた水泳のお陰で、引き締まりつつも女性的なラインを保っているのだ。
 そこそこの位置までいっていたと言う水泳をどうして辞めたのかと聞いたら、もっと人生を楽しみたかったからと、何とも紗絵らしい答えが返って来た。だが、水の世界を離れて2年が経っても、経験はその身体にしかと刻み込まれている。美人と呼んでも差し支えが無い、大人びた顔に少し切れ長の瞳。これで中身が中年男性に近く無ければ、彼氏などすぐに出来そうなものである。
 美人は男性に敬遠されがちと言う噂は、ある意味的を射ているのかもしれない。
 そして、私はと言えば、上下に黄色のビキニを付け、腰元には花柄のパレオなんぞを巻いていた。
 スタイルについては、察して欲しい。
 僭越ながら、言うほど悪くは無い。
 だが、私の基準はあの姉であり、あの曲線美である。自信を持てと言う方が、土台無茶な話だ。

「おお、みっちゃん可愛いよ」

 素直に送られる賛美の声に、道子が相好を崩す。
 祐一君の前だからぎりぎり女の子の顔を保っているのが手に取るように分かる。道子がもしも犬だったら、今頃きっと尻尾をぐるんぐるん回しているだろう。

「大藤、順哉さんは?」
「貴重品を車にしまいに行ってる。必要な物があったら、後で言ってくれってさ」
「ふぅん」

 紗絵は玲央君に話しかけながら、少しずつ彼に近づいて行く。

「ところでさ、和葉の水着姿どうよ? グッとくると思わない?」

 にまりと歪んだ笑顔を浮かべながら、紗絵が玲央君の肩を叩き、顔をこちらに向けさせる。
 こう言っちゃなんだが、もうちょっとソフトな表現は無かったのだろうか?
 こちらを見ている玲央君に、勇気を出して一歩近づく。
 途端に、顔が熱くなるのを感じた。
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