ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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6 キャンプ

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「よし、それじゃ出発しようか」

 順哉さんはそう言うと、ワゴン車の後ろを開けた。
 荷物を詰め込んだ後、大藤、あんたは和葉の隣、と言う声が前方から聞こえて来た。
 見ると、紗絵が助手席の窓から顔を出し、玲央君を見下ろしていた。どうやら玲央君も、助手席に座るつもりだったようだ。
 直後、紗絵はこちらにちらりと目線を向けて来た。
 こいつを何とかしなさいと、その目は語っていた。

「玲央君、ほら、乗ろう乗ろう」

 勢いだけで玲央君をワゴン車の真ん中の座席に促した。
 玲央君は若干ぶすっとしていたが、すぐに諦めたように深くため息を吐いて、もそもそとワゴン車の中へと向かって行った。
 姫、如何でしょうか?
 うむ、よきにはからえ。
 紗絵と目線だけで会話を交わし、後部座席に道子と祐一君カップルを詰め込んだ後、私も玲央君の隣、真ん中の座席に乗り込んだ。

「はい、しゅっぱ~つ!」

 順哉さんが掛け声を出しながらキーを回した。エンジンがかかると同時に、車内に激しい洋楽が流れ出す。
 出勤前のサラリーマン達を横目に、ワゴン車はゆっくりと駅から離れて行った。



 途中のコンビニでお菓子と言う名の補給物資を調達し、それを皆で分け合いながら、海への旅路は賑やかに、かつ順調に進んでいた。
 太陽も徐々に高度を増し、それに伴って青い空と白い雲が、太陽に負けじと自己主張を始める。
 時計の針が10時を回った頃、車は見慣れた街道から離れ、右手に海を臨む道に出た。
 窓の外に広がる久方ぶりの海に興奮しながら、ふと視線を山側に向けた。
 私が座席の真ん中に置いたポッキーを、一つ口に咥えながら、些かげんなりとした目を海側に向けている玲央君と視線がかち合う。

「玲央君、海だよ」
「ああ、知ってる……」

 何とも素っ気無い。
 後部座席では道子と祐一君が、何やら楽しげにひそひそ話に興じており、前方では本日初対面の筈の紗絵と順哉さんが、仲睦まじい様子で過ごしていると言うのに、私の隣の玲央君は、ずっと仏頂面のままお菓子を摘むばかりである。幸いにしてヘッドホンは外してくれている為、こちらの声は無事に届くのだが、こうリアクションが少なくてはあまり意味を成しているようには感じられない。
 まぁ、それも仕方ないのかもしれない。
 何しろ玲央君は、言うなれば今日は、順哉さんの騙し討ちに遭って、半ば無理やり連れて来られたようなものである。それに加え、道子や紗絵は言わずもがな、祐一君に至っては交流どころか面識があるかどうかも怪しく、そんな中で旅の初めからテンションを上げろと言う方が、土台無理な話なのかもしれない。
 だけど、もうちょっと楽しそうな素振りをしてくれてもよさそうなものである。

 ――団体行動なんだから……。

 ため息交じりに、再び車外に目線を戻す。
 柔らかな波が寄せては返す海面に、太陽の光が乱反射してキラキラと輝いている。その光の中に、時折サーファーの姿も見てとれる。
 車内はエアコンが程良く効いているが、外はどの位の暑さなのだろう。
 普段は疎ましく思う気温の上昇さえも愛おしく感じるのだから、改めて環境が人心に与える影響の多さを感じざるをえない。
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