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5 初恋
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今の姉の態度は明らかにおかしい。普段の姉なら、もっと飄々として常に余裕があるのに……。
不意に、あの夜の玲央君の哀しそうな、そして悔しそうな顔がまたフラッシュバックする。
次の瞬間、胸の奥がズキンと痛む。もう、あの夜から、何度も何度も味わった痛みだ。
居ても立ってもいられない、だけど、どうしたらいいのか分からない……。
姉はあの様子だ。
これ以上の情報は、こちらが何かを掴んでからで無いと何も聞き出せないだろう。
その時私は、連絡先を知らなくても会いに行ける関係者を思い出した。
勢いに任せて、そのまま玄関を飛び出して、再び駅前へと走った。
昼下がりの電車内、乗客の数は少なく、席も疎らだった。乗り込んですぐの、入り口に近い場所に座る。目の前では、タイトなスカートを履いたお姉さんが、熱心にマスカラを塗っていた。
電車に揺られながら、私は先程までの自分に、ふと問いをかけた。
――どうして、あんな嘘を吐いたんだろう?
咄嗟に口から出てしまった、玲央君とは会ってないなんて言う、幼稚で意味を成さない嘘。玲央君と話せばすぐに分ってしまうし、大体隠すような事でも無いのに……。
その問いをきっかけに、様々な思いや状況が次々とフラッシュバックして来る。
玲央君の悔しそうな叫び。掛けられなかった言葉。拒絶するようにヘッドホンをかける後ろ姿。それらの光景が、ひび割れ、次々と心に突き刺さってくる。
胸が苦しい。
思わず、零れそうになった涙を手の甲で拭う。
――とにかく、お姉ちゃんとは後でもう一回話そう。その時に、嘘を吐いちゃったことは謝ろう。
自分の心の波を鎮める為、一先ず今後の予定を立てておく。迷宮の中、同じ所をぐるぐると回り続けるよりは、微かでも指針があるだけで、心の時化は多少凪ぐものだ。
先の目標は置いておき、当初の目的地へと心を移す。
結局、質問自体はなんの答えも見せぬまま、安寧と平穏を求めた海へと沈んでしまったのだけれども……。
目の前のお姉さんは、マスカラを終え口紅へとその工程を移していた。その唇が潤いを増していく様を茫然と眺めていると、不意に向かいのお姉さんがこちらを向いた。
見てんじゃないわよ、と目は語っている。
すいませんの代わりに目線を逸らすが、そもそもこんな所で化粧をする方が悪いのに、と心の内側だけで反抗してみる。何の意味も成さないその行為に、心のモヤモヤが膨れ上がるのを感じた。目線を逸らした先にあった銀色の手すりに額をつける。ひんやりと伝わってくる鉄の感触が、随分と心地よく感じた。
その時、電車が目的の駅に到着した。
そそくさと電車を降り、ふと最後にお姉さんを振り向くと、彼女は鞄からごそごそとあんぱんの袋を取り出していた。
結局注意をしない私も同罪なのかも、と心が更に重くなるのを感じた。
足取りが重くなったとしても、下りの階段を早く降りれる訳では無かった。
改札を潜り抜けると、まだ夏休み時期にも関わらず、閑散とまでは行かないが、人通りは以前来た時よりも随分と減っていた。
私は一つ深呼吸をした後、前方に見える花屋さんへと足を向けた。
不意に、あの夜の玲央君の哀しそうな、そして悔しそうな顔がまたフラッシュバックする。
次の瞬間、胸の奥がズキンと痛む。もう、あの夜から、何度も何度も味わった痛みだ。
居ても立ってもいられない、だけど、どうしたらいいのか分からない……。
姉はあの様子だ。
これ以上の情報は、こちらが何かを掴んでからで無いと何も聞き出せないだろう。
その時私は、連絡先を知らなくても会いに行ける関係者を思い出した。
勢いに任せて、そのまま玄関を飛び出して、再び駅前へと走った。
昼下がりの電車内、乗客の数は少なく、席も疎らだった。乗り込んですぐの、入り口に近い場所に座る。目の前では、タイトなスカートを履いたお姉さんが、熱心にマスカラを塗っていた。
電車に揺られながら、私は先程までの自分に、ふと問いをかけた。
――どうして、あんな嘘を吐いたんだろう?
咄嗟に口から出てしまった、玲央君とは会ってないなんて言う、幼稚で意味を成さない嘘。玲央君と話せばすぐに分ってしまうし、大体隠すような事でも無いのに……。
その問いをきっかけに、様々な思いや状況が次々とフラッシュバックして来る。
玲央君の悔しそうな叫び。掛けられなかった言葉。拒絶するようにヘッドホンをかける後ろ姿。それらの光景が、ひび割れ、次々と心に突き刺さってくる。
胸が苦しい。
思わず、零れそうになった涙を手の甲で拭う。
――とにかく、お姉ちゃんとは後でもう一回話そう。その時に、嘘を吐いちゃったことは謝ろう。
自分の心の波を鎮める為、一先ず今後の予定を立てておく。迷宮の中、同じ所をぐるぐると回り続けるよりは、微かでも指針があるだけで、心の時化は多少凪ぐものだ。
先の目標は置いておき、当初の目的地へと心を移す。
結局、質問自体はなんの答えも見せぬまま、安寧と平穏を求めた海へと沈んでしまったのだけれども……。
目の前のお姉さんは、マスカラを終え口紅へとその工程を移していた。その唇が潤いを増していく様を茫然と眺めていると、不意に向かいのお姉さんがこちらを向いた。
見てんじゃないわよ、と目は語っている。
すいませんの代わりに目線を逸らすが、そもそもこんな所で化粧をする方が悪いのに、と心の内側だけで反抗してみる。何の意味も成さないその行為に、心のモヤモヤが膨れ上がるのを感じた。目線を逸らした先にあった銀色の手すりに額をつける。ひんやりと伝わってくる鉄の感触が、随分と心地よく感じた。
その時、電車が目的の駅に到着した。
そそくさと電車を降り、ふと最後にお姉さんを振り向くと、彼女は鞄からごそごそとあんぱんの袋を取り出していた。
結局注意をしない私も同罪なのかも、と心が更に重くなるのを感じた。
足取りが重くなったとしても、下りの階段を早く降りれる訳では無かった。
改札を潜り抜けると、まだ夏休み時期にも関わらず、閑散とまでは行かないが、人通りは以前来た時よりも随分と減っていた。
私は一つ深呼吸をした後、前方に見える花屋さんへと足を向けた。
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