ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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4 夏休み

4-4

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 そんな姉の自信満々の発言は諸手を上げて賛成するが、一つ確認を取っておかなければならない部分がある。

「私達がって、私も?」
「あら? あんたこの間のライブの時に、がっつりはまってたと思ったんだけど、違った?」
「え? 何でそう思ったの?」
「何でって、あんたが玲央君を見てる時の目が、くはっ、こいつはやられた、これなら抱かれてもいいって顔してたから」
「……そんな顔してない」
「してたよ」

 姉の得意満面の顔が、いつものように意地の悪いようなニマニマとした顔に歪む。
 断言するが、抱かれてもいいとまでは流石に思ってはいない。だが……、

「……まぁ、やられたなってのは、確かに思った」

 何せ、その夜に興奮して眠れなくなる程だ。自分に嘘を吐いてまで、姉の考えを突っぱねようとは思わない。
 その時、ステージ上から玲央君の声が聞こえてきた。

「お姉ちゃん、前に行かないの?」

 先程よりもステージ前に押し掛けている人は少ない。だから、掻き分けようと思えば何とか前に行けるだろう。

「今日はここで聞くわ」
「どうして?」
「今日はステージが高いから、あんまり前に行くとね、目が見えないのよ」

 ――目、か……。

 姉の言葉を素直に受け取り、私も隣に並んで、姉妹仲良く壁際族と洒落込んだ。
 ギターの音が響く。
 順哉さんがステージの上で、上半身裸に金のネックレスだけと言う過激な格好でその音を奏でさせていた。一昨日の花屋さんでの爽やかな印象とのギャップに、私は思わず吹き出してしまった。

「それじゃ、一曲目……」

 玲央君の声が、ギターのソロの上に被さる。
 次の瞬間、私は再び音の洪水に、いや、スティグマの波と、玲央君の歌声に飲み込まれていった。




 ライブ終了後、私は前回と同じように打ち上げにまで参加させて貰った。順哉さんに先日のお花のお礼を言って、姉の彼氏の仁さんとも少しだけ話をした。
 仁さんと話す時は、その見た目の雰囲気もあってやはり少し緊張した。スティグマの音楽が好きだと告げると、彼はにやりと笑って握手を求めてきた。がっしりとした腕、そこから伸びる武骨な手を握る。一度だけ振られて離れた手からは、ただそれだけで力強さを感じた。
 順哉さんに連れられ、ドラムの大吾さんとも少しだけ話した。寡黙なその姿は、まるで岩のようだと感じた。
 二度目と言う事もあり、場の雰囲気には前回よりも馴染む事が出来た。だけれども、打ち上げの最中、玲央君はずっと不機嫌そうにソーダを啜っていて、何だか話しかけるタイミングを逃したまま打ち上げは終了してしまった。
 二次会へと向かおうとする若干出来あがった大人達を尻目に、玲央君は順哉さんに一声かけると、そのままさっさと帰ってしまった。

「和葉」

 お姉ちゃんが私の耳元で囁いた。

「悪いんだけど、玲央君と一緒に帰ってあげてくれない?」
「いいけど、どうして?」
「いや、ちょっと様子がおかしかったからさ……。頼める?」

 姉もやはり、私と同じ思いを抱いていたようだ。
 私の頷きを確認すると姉は、じゃ、お願いねと私の背中を叩き、再び集団の中へと混ざって行った。
 その背中を刹那見送り、私はすぐに早足で玲央君を追いかけた。
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