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4 夏休み
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休憩の為、近くのコーヒーショップでアイスティーを頼み、腰を下ろす。
大通りの人通りは、昼間から衰えを見せない。寧ろ、太陽の勢いに反比例するかのように、少しずつ増えて来ている程だ。
そんな様子を窓から眺めながら、戦利品を確認する。
二つ入った袋の中には、ホットパンツやタンクトップなどが入っている。肌を出しつつ、大人の雰囲気を出せる物を選んでみた。身近な大人のモデル、つまり、姉が来たら似合うだろう物を想定しつつ、自分でも試着を繰り返し、自分の趣味はワンポイント程度に抑える事に尽力した。
ピッタリとした物が似合うのが大人、と考えている時点で子供なのかもしれないが、自分の美的センスを疑い始めたらもう外には出られない。第一、一人で買い物に出て来た時点で、全て自己責任なのだから。
アイスティーにレモンを絞り、飲みながら再び窓の外を見つめる。
家族連れに紛れ、ちらほら見えるカップルの姿が眩しく見えるのは、太陽の所為だけでは無いだろう。ぼんやりとそんな事を思った時に、足元に置かれた今日の戦利品が、何だか光を失っていくように見えた。
買い物は、何を買うかも大事だが、誰と買うかも大事なのだ。
金銭的には、誇れる程では無いがまだ多少の余裕はある。だが、これを飲んだらもう一度、と言う気は起こらなかった。
結局、夏の暑さに浮かされただけだったのだろうか……。
その時、コーヒーショップの向かいに並ぶ花屋さんに、見知った顔を見つけた。
笑顔でお客さんに花束を渡しているのは、明後日見に行くバンドのギタリストだった。
名前を思い出そうとして暫く逡巡した結果、順哉、月島順哉さんだ、と見事正解に辿り着く事が出来た。
アイスティーを飲み干し、店を出ると私は真っ先にその花屋さんへ向かった。
一人で街をふらついていたせいか、知らず心に寂しさが溜まっていたのかもしれない。
花屋の前まで近づき、こちらに向けられた背中に声をかける。
「こんにちは」
「はい、いらっしゃいませ」
そう言って振り向いた順哉さんの顔が、一瞬驚きの表情になり、それがすぐさま笑顔に変わる。
「あれ、確か、キコさんの妹さんだよね?」
「はい、そうです」
「えっと、待ってね……」
そこで彼は少し考えるポーズを取った後に、一つ指を鳴らした。
「そう、思い出した、和葉ちゃんだ」
彼の検索エンジンに引っ掛かった事が嬉しくて、私も思わず、順哉さん、先日はありがとうございました、と答えた。
「お花屋さんで働いてるんですね?」
「うん、普段はね。ギターだけじゃ食っていけないしね。和葉ちゃんはどうしたの? 今日は買い物?」
「はい、明後日のライブに着て行く服を」
「お、マジで! 来てくれるんだ!」
「はい。それで、お姉ちゃんに、高校生に見えないような大人っぽい格好で来いって言われてるんです」
「ああ、そうかそうか。でもまぁ、そんなに心配しなくてもいいよ? 制服で来たりしなければ、よっぽどの事が無いと分からないから」
順哉さんは、手元の花束を纏めながらそう笑った。
「でも、新しい服も欲しかったんで、はい……」
「そっか、でも俺は、今日の格好も充分可愛いと思うよ? 別にそう言うのでもいいと俺は思うんだけどな」
「そうなんですか?」
もしかして、私はまた姉に一杯食わされたのだろうか?
そんな黒い情念が一瞬心を覆った時に、順哉さんが私にオレンジ色の薔薇を一輪手渡してくれた。
「あの、これ……」
「ライブ来てくれるお礼」
「いいんですか?」
「もち」
「ありがとうございます」
棘が綺麗に抜かれた一輪の薔薇は、私の手の中で可愛らしく咲いていた。
「裸のままで悪いんだけどね、ま、サービス品だと思って、大目に見てよ」
そう言ってニカッと笑う順哉さんは、本当にお花屋さんがよく似合っていた。
「あの、玲央君は元気ですか?」
「ああ、玲央か。うん、まぁ、元気って言えば元気だけど……」
「何かあったんですか?」
少し暗い表情を見せた順哉さんの顔を見て、私は思わずそう聞いてしまった。
順哉さんは、いや、別に大した事じゃないんだよ、と笑った後に、
「ちょっと、音楽に対してストイックになり過ぎててね。熱心になるのはいいんだけど、ちょっと熱が入り過ぎかもなって……」
「そうですか……」
「心配?」
順哉さんはそう言いながら、こちらに温かな目を向ける。先日の飲み会の席でも感じたが、私達を見る時に、微笑ましい物を見るような眼は、正直止めて頂きたい。
「そんなんじゃないですよ!」
ここでムキになる私は、やはり充分子供だろう。
「まぁ、明後日来た時、あいつと話してみてよ。和葉ちゃんの話しなら、俺らよりも聞いてくれるかもしれないしさ」
じゃ、仕事に戻るわ、と笑う順哉さんは、笑顔のまま店の奥へと引っ込んで行った。
私はその後ろ姿を暫し眺めた後、手の中の薔薇に視線を落とし、店の外へと出た。
太陽は休息時間に入ったのか、赤みがかり、気温も落ち着きを見せていた。
だけど、私の心は何故だか、妙な火照りを保ったままだった。
大通りの人通りは、昼間から衰えを見せない。寧ろ、太陽の勢いに反比例するかのように、少しずつ増えて来ている程だ。
そんな様子を窓から眺めながら、戦利品を確認する。
二つ入った袋の中には、ホットパンツやタンクトップなどが入っている。肌を出しつつ、大人の雰囲気を出せる物を選んでみた。身近な大人のモデル、つまり、姉が来たら似合うだろう物を想定しつつ、自分でも試着を繰り返し、自分の趣味はワンポイント程度に抑える事に尽力した。
ピッタリとした物が似合うのが大人、と考えている時点で子供なのかもしれないが、自分の美的センスを疑い始めたらもう外には出られない。第一、一人で買い物に出て来た時点で、全て自己責任なのだから。
アイスティーにレモンを絞り、飲みながら再び窓の外を見つめる。
家族連れに紛れ、ちらほら見えるカップルの姿が眩しく見えるのは、太陽の所為だけでは無いだろう。ぼんやりとそんな事を思った時に、足元に置かれた今日の戦利品が、何だか光を失っていくように見えた。
買い物は、何を買うかも大事だが、誰と買うかも大事なのだ。
金銭的には、誇れる程では無いがまだ多少の余裕はある。だが、これを飲んだらもう一度、と言う気は起こらなかった。
結局、夏の暑さに浮かされただけだったのだろうか……。
その時、コーヒーショップの向かいに並ぶ花屋さんに、見知った顔を見つけた。
笑顔でお客さんに花束を渡しているのは、明後日見に行くバンドのギタリストだった。
名前を思い出そうとして暫く逡巡した結果、順哉、月島順哉さんだ、と見事正解に辿り着く事が出来た。
アイスティーを飲み干し、店を出ると私は真っ先にその花屋さんへ向かった。
一人で街をふらついていたせいか、知らず心に寂しさが溜まっていたのかもしれない。
花屋の前まで近づき、こちらに向けられた背中に声をかける。
「こんにちは」
「はい、いらっしゃいませ」
そう言って振り向いた順哉さんの顔が、一瞬驚きの表情になり、それがすぐさま笑顔に変わる。
「あれ、確か、キコさんの妹さんだよね?」
「はい、そうです」
「えっと、待ってね……」
そこで彼は少し考えるポーズを取った後に、一つ指を鳴らした。
「そう、思い出した、和葉ちゃんだ」
彼の検索エンジンに引っ掛かった事が嬉しくて、私も思わず、順哉さん、先日はありがとうございました、と答えた。
「お花屋さんで働いてるんですね?」
「うん、普段はね。ギターだけじゃ食っていけないしね。和葉ちゃんはどうしたの? 今日は買い物?」
「はい、明後日のライブに着て行く服を」
「お、マジで! 来てくれるんだ!」
「はい。それで、お姉ちゃんに、高校生に見えないような大人っぽい格好で来いって言われてるんです」
「ああ、そうかそうか。でもまぁ、そんなに心配しなくてもいいよ? 制服で来たりしなければ、よっぽどの事が無いと分からないから」
順哉さんは、手元の花束を纏めながらそう笑った。
「でも、新しい服も欲しかったんで、はい……」
「そっか、でも俺は、今日の格好も充分可愛いと思うよ? 別にそう言うのでもいいと俺は思うんだけどな」
「そうなんですか?」
もしかして、私はまた姉に一杯食わされたのだろうか?
そんな黒い情念が一瞬心を覆った時に、順哉さんが私にオレンジ色の薔薇を一輪手渡してくれた。
「あの、これ……」
「ライブ来てくれるお礼」
「いいんですか?」
「もち」
「ありがとうございます」
棘が綺麗に抜かれた一輪の薔薇は、私の手の中で可愛らしく咲いていた。
「裸のままで悪いんだけどね、ま、サービス品だと思って、大目に見てよ」
そう言ってニカッと笑う順哉さんは、本当にお花屋さんがよく似合っていた。
「あの、玲央君は元気ですか?」
「ああ、玲央か。うん、まぁ、元気って言えば元気だけど……」
「何かあったんですか?」
少し暗い表情を見せた順哉さんの顔を見て、私は思わずそう聞いてしまった。
順哉さんは、いや、別に大した事じゃないんだよ、と笑った後に、
「ちょっと、音楽に対してストイックになり過ぎててね。熱心になるのはいいんだけど、ちょっと熱が入り過ぎかもなって……」
「そうですか……」
「心配?」
順哉さんはそう言いながら、こちらに温かな目を向ける。先日の飲み会の席でも感じたが、私達を見る時に、微笑ましい物を見るような眼は、正直止めて頂きたい。
「そんなんじゃないですよ!」
ここでムキになる私は、やはり充分子供だろう。
「まぁ、明後日来た時、あいつと話してみてよ。和葉ちゃんの話しなら、俺らよりも聞いてくれるかもしれないしさ」
じゃ、仕事に戻るわ、と笑う順哉さんは、笑顔のまま店の奥へと引っ込んで行った。
私はその後ろ姿を暫し眺めた後、手の中の薔薇に視線を落とし、店の外へと出た。
太陽は休息時間に入ったのか、赤みがかり、気温も落ち着きを見せていた。
だけど、私の心は何故だか、妙な火照りを保ったままだった。
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