ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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「何それ、和葉、あんた玲央君にそんなにお世話になってんの?」

 ――この人はどうしてそんなに嬉しそうなんだ……。

 居心地の悪さを誤魔化す為、手元のコーラを一口啜る。

「いや、そんな、たまたまですよ。たまたま、キコさんの妹さんが、いるなって、思っただけで……」

 大藤君が、姉に向けてそう弁解する。
 いつになく狼狽えた様子の大藤君が、新鮮だった。
 姉に耳打ちする。

「お姉ちゃん、キコって呼ばれてるの?」
「うん、仁さんが、久喜子って、言いづらいみたいなのよね。それが広まっちゃったのよ」
「ふぅん。それにしても、変な事言わないでよね」
「変な事って?」
「……何でもない」

 もう一口、コーラを啜る。
 姉は私の態度を見ながら、今度は耳打ちでは無く、わざと大藤君にも聞こえるような声量で、話し始めた。

「そういやぁ和葉、あんた玲央君の事、苗字で呼んでるんだ?」
「何よ急に、いや、そりゃ、そうでしょ? だって、クラスメートだよ?」
「そうなの? 私らはもうすっかり玲央って言う格好いい名前でしっくりきてるからさ、あんたが苗字で呼んでるのが何か違和感あるんだよねぇ~」

 そこで姉は、にやっと笑ってから、今度は大藤君の方へと声を掛けた。

「ねぇ玲央君。うちの妹にもさ、玲央君を玲央君って呼ばせたいんだけど、駄目かな?」

 ――何を言い出すんだこの馬鹿姉は!

「ちょっとお姉ちゃん!」
「別に、いいですけど……」

 私の返事を待たずに、大藤君がおずおずと言った感じで答えた。
 まるで敵将の首級でも取ったかのような、満面の笑みを浮かべた姉は、私の身体をぐるりと反転させて、大藤君と対峙させた後に、どんと背中を叩いた。
 ここで空気が読めない程、私は子供では無い。

「レオ……、君?」

 私のその言葉に、大藤君は気まずそうに、苦い笑いを浮かべる。
 それと向かい合う私も、きっと彼と同じような顔をしているのだろう。
 そして、彼の後ろにいる順哉さんは、何だか微笑ましいものを見るかのような目で私達を見ていた。
 きっと後ろの姉は、ニヤニヤした顔を隠そうともせずに、私達の事を見下ろしているのだろう。

 ――何だこれ?

 素直にそう思った。



 居酒屋での盛り上がりは、飲み放題の時間もある為2時間程で落ち着きを見せた。
 皆が店の外に出た時に、姉がまた大藤君にとんでもない事を言っていた。

「玲央君さ、悪いんだけど、和葉の事送って行ってくれない? あんまり遅くなっちゃったから、ちょっと心配なのよ」

 その会話にすかさず割って入る。

「ちょっとお姉ちゃん! いいよ、一人で帰れるよ」
「あんたがよくても駄目なの。何かあってからじゃ遅いんだから」

 結局、私も大藤君も、姉に押し切られるような形で、二人で帰る事になった。
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