ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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3 スティグマ

3-5

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 大衆居酒屋で地味に飲んでるだけだから、別に居づらくなる事は無いよ、と言う姉の言葉は確かに半分は正しかった。だけど、大藤君が私を見つけた瞬間の、あの気まずそうな顔ったらなかった。これだけで、充分居心地が悪い上に、姉の悪い癖が出てしまい、あろうことか私を大藤君の隣に座らせたのだ。

「それじゃ、後は若い者同士。玲央君、和葉の事宜しくね」

 ニヤニヤ笑いながら彼氏の元へ戻る姉に対し、恨み言の一つでも呟きたくなった。
 会話をするのも気まずくて、私は目の前に置かれたコーラに救いを求め、手を伸ばした。

「友野」

 呼ばれ、大藤君の方を振り向く。

「何?」

 精一杯の笑顔を返したつもりだが、自分でも頬がひきつっているのが分かる。

「それ、俺の……」

 そう言って大藤君は、私が手にしているコーラを指差した。
 私は今さっき合流したばかりで、まだ何も注文をしてはいなかった。なので、考えてみれば、それは至極当然のやりとりだろう。

「あ、ごめんなさい」
「いや、いいけど……」

 大藤君は私からコーラを奪う事はせず、近くにいた店員さんに追加で新たにコーラを注文した。

「本当に、ごめんね」
「いや、別に、いいから……」

 そう言うと、大藤君は、つまらなそうに近くの唐揚げをつまんだ。

 ――何だこの気まずさは!

 そもそも、私だって突然こんな所に連れてこられて、大藤君の隣に座らされているのだ。
 大藤君は大藤君で、いつもの馴染みの空間に、ほとんど部外者の私が隣にいる事で、落ち着かないのでは無いだろうか?
 誰も得をしないのに、どうしてこんな事になっているのだろう?

「へぇ、君がキコさんの妹さんか」

 その時、髪を茶色に染めたお兄さんが、姉と一緒にこちらにやってきた。姉はご丁寧に、ビールの詰まったジョッキを手にしている。顔もほんのり赤みがかっており、未完成ながら、多少出来あがっているのは間違いない。

「あ、俺は月島順哉。さっきステージでギター弾いてたんだよ。宜しく」

 そう言って差し出された右手を、おずおずと握り返す。

「ちょっと順哉君。私の妹に手出さないでよ?」
「人聞き悪いなぁ。大体、手を出さなかったら、握手は出来ないもんね?」

 人懐っこくそう笑いかけられて、はい、そうですね、と何とか返す。

「聞いたよ。玲央のクラスメートなんだって? どう? 学校での玲央は?」
「順哉さん……、いいじゃないですか」

 大藤君が、順哉さんの言葉を柔らかく遮る。

「まぁ、いいだろ? ちょっと興味あるしよ」

 そう言いながら、順哉さんが大藤君の横に座る。
 大藤君は、気まずそうな顔をしながら、こちらに目線を向ける。
 その目は、変な事言うなよ、とそう言っていた。
 変な事も何も、私は大藤君の事をそんなに知らない。だから、私と大藤君の数少ないエピソードを話すことにした。

「大藤君は、いい人ですよ。この間も、転びそうな私を助けてくれたり、お昼忘れた時に、パンを分けてくれたりしましたし……」

 私の言葉がお気に召したのか、姉が私の横に座りながら嬉しそうな声を出した。
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