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3 スティグマ
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玲央君が曲名を呟いたのと同時に後ろのバンドが、空気が激しくうねるような音楽をこちらにぶつけて来た。一瞬、爆発が起きたのではないかと錯覚する程の、音の奔流に身体ごと心を持っていかれそうになる。
その激流のような曲の中を、透き通った玲央君のボーカルが折り重なり、寄せては返す波の様に、幾度と無く私の心を握っていく。
数多の衝撃が私の中に、言葉以外の何かで次々に伝わり、流れ、響き、全身を、心を、魂を翻弄する。
生のロックンロールのパワーを目の当たりに感じ、興奮と言う言葉では足りない程、私は高揚していた。その圧倒的なパワーに対し、寧ろ慄いてさえいた。
サビに差し掛かる直前に、玲央君が自身の掛けていたサングラスを床に投げ捨てた。サングラスは床を跳ね、私の元へと飛び込んできた。
「……嘘でしょ?」
私は、思わず呟いていた。
サビに入った瞬間、玲央君はマイクに掴みかかり、ここで死んでも後悔は無いかの様に、額やこめかみに血管を浮かべながら、熱唱した。登場した時の、何処か爽やかでさえあった彼の印象は、最早すっかり跡形も無かった。
ステージの上マイクを握るのは、この一曲に命を懸ける、一匹の獣だった。
激しく熱いボーカルの歌声に負けじと、バンドが奏でる音楽達もさらに激しく熱を帯びていく。それに従い、観客のボルテージも高まって行き、最高潮まで達した瞬間、ギターとベースとドラムとボーカルが同時に咆哮し、ライブハウスと言う名の小宇宙は、小規模であろうと確かにビッグバンを起こした。
いや、事実がどうであろうと、私はそう感じた。
背骨まで突き抜けて行く程の、恐怖と間違わんばかりの衝撃。
「どうもありがとう」
ボーカルの謝辞によって、漸く私は曲の終焉を知った。
そして、先程までの衝撃も感動も一旦全てをかなぐり捨てて、ボーカルの彼の顔をもう一度、深く観察した。
「どうだった和葉?」
姉が話しかけて来るけれど、今はそれも耳には入ってこない。その代わりに、先程の姉の放った言葉が、頭の中で何度も蘇ってきた。
『内緒なんだけどね、確か玲央君、和葉と同い年の筈だよ』
髪の色も金髪だ。
雰囲気もまるで違っている。
ヘッドホンもしていない。
だけど、間違いようが無かった。
あの日屋上で交わした彼の声と、もっさりとした髪の毛の隙間から見えた瞳を、私はチケットを渡す事の出来なかった今日の今日まで、何度も何度も頭の中で、思い返していたからだ。
だからこそ、気付いてしまった。
――大藤君、一体そこで、何やってるの?
だけどそれでも、目の前の出来事を、俄かには信じる事が出来なかった……。
その激流のような曲の中を、透き通った玲央君のボーカルが折り重なり、寄せては返す波の様に、幾度と無く私の心を握っていく。
数多の衝撃が私の中に、言葉以外の何かで次々に伝わり、流れ、響き、全身を、心を、魂を翻弄する。
生のロックンロールのパワーを目の当たりに感じ、興奮と言う言葉では足りない程、私は高揚していた。その圧倒的なパワーに対し、寧ろ慄いてさえいた。
サビに差し掛かる直前に、玲央君が自身の掛けていたサングラスを床に投げ捨てた。サングラスは床を跳ね、私の元へと飛び込んできた。
「……嘘でしょ?」
私は、思わず呟いていた。
サビに入った瞬間、玲央君はマイクに掴みかかり、ここで死んでも後悔は無いかの様に、額やこめかみに血管を浮かべながら、熱唱した。登場した時の、何処か爽やかでさえあった彼の印象は、最早すっかり跡形も無かった。
ステージの上マイクを握るのは、この一曲に命を懸ける、一匹の獣だった。
激しく熱いボーカルの歌声に負けじと、バンドが奏でる音楽達もさらに激しく熱を帯びていく。それに従い、観客のボルテージも高まって行き、最高潮まで達した瞬間、ギターとベースとドラムとボーカルが同時に咆哮し、ライブハウスと言う名の小宇宙は、小規模であろうと確かにビッグバンを起こした。
いや、事実がどうであろうと、私はそう感じた。
背骨まで突き抜けて行く程の、恐怖と間違わんばかりの衝撃。
「どうもありがとう」
ボーカルの謝辞によって、漸く私は曲の終焉を知った。
そして、先程までの衝撃も感動も一旦全てをかなぐり捨てて、ボーカルの彼の顔をもう一度、深く観察した。
「どうだった和葉?」
姉が話しかけて来るけれど、今はそれも耳には入ってこない。その代わりに、先程の姉の放った言葉が、頭の中で何度も蘇ってきた。
『内緒なんだけどね、確か玲央君、和葉と同い年の筈だよ』
髪の色も金髪だ。
雰囲気もまるで違っている。
ヘッドホンもしていない。
だけど、間違いようが無かった。
あの日屋上で交わした彼の声と、もっさりとした髪の毛の隙間から見えた瞳を、私はチケットを渡す事の出来なかった今日の今日まで、何度も何度も頭の中で、思い返していたからだ。
だからこそ、気付いてしまった。
――大藤君、一体そこで、何やってるの?
だけどそれでも、目の前の出来事を、俄かには信じる事が出来なかった……。
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