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3 スティグマ
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「よし、おいで」
姉に手を引かれて再び戦場へ。
舞台上では、先程まで演奏をしていた人達が後片付けをしており、次のグループに引き継ぎを行っている。
人が少なくなっている瞬間を見計らい、姉はそのまま私を一番前まで引き連れて、ステージの真正面のど真ん中を陣取った。
ステージとは言っても、実際には観客席と高さは20センチ程しか変わらない。そこを隔てる敷居代わりに、公園内への車両の進行を防ぐ際の様な、だけどもそれよりももっと大きくて綺麗な鉄の柵が、ステージの前に構えられていた。
姉はステージ上の、赤いベースを肩から下げている人を指差して、私に教えてくれた。
「あれが仁さんだよ」
ベースを掴む腕は太く筋肉質で、黒いタンクトップからはがっしりとした体格がはみ出していた。赤く染めた髪を、ツンツンにおっ立てていて、ピックを握る右手の、手首から肩辺りにかけて、炎を象ったような黒いタトゥーが掘り込まれていた。
姉の彼氏である仁さんが、実際にはどう言う人なのかは知らないけれど、一見した所、かなり怖そうな人に見えてしまった。まぁ、姉の彼氏なのだから、見た目に反していい人なんだろうと信じたいところだけれど……。
――あぁ、これは確かに母さん達には言えないなぁ……。
懸念が杞憂である事を願う。
改めて、厄介な秘密を抱えてしまったなぁ、と遠い目で姉の想い人を眺めていると、準備の出来たバンドのメンバーが、各々の楽器を鳴らし始めた。
それに伴って、甘い蜜に吸い寄せられる蝶の様に、ステージの前には再び人集りが出来た。
「始まるまでここにつかまってな」
姉に言われ、ステージ前の鉄柵をしっかりと握る。多少の圧力が掛かったとしても、ここは死守しろとの命を受けた訳だ。
その時、一人の男の子が、袖から飛び出しステージの上へと上がってきた。この薄暗いライブハウスの中でサングラスをかけている。髪の毛は綺麗に金髪に染めており、かっちりとオールバックに固めていた。
「和葉和葉、今出てきたのがボーカルの子。玲央君って言うんだよ。最近加入してくれた、まだ10代の子なんだけどさ、メチャメチャいい声がいいのよ~」
彼の事を説明してくれる姉の頬は、既に若干上気している。
ボーカルの玲央君は、舞台のセンターに立てられていたマイクを掴むと、キスをする様な仕草で口を近づけた。
「改めまして、こんばんは、スティグマです」
バンドのメンバーが、彼の挨拶に呼応するかのように、好き勝手に音を出す。
「今日は、本当に来てくれて、ありがとうございます。短い時間ですけれど、一緒にロックして下さい。盛り上がっていきましょう、よろしくお願いします」
玲央君の声は、透き通っていて、高くて、綺麗で、爽やかで、凡そロックにはそぐわない様な印象を受けた。
か細い様な呟きが、マイクに拾われてライブハウス中を包む。その囁く様な声からは、青い炎のような、静かなのに高い温度を、確かに感じる事が出来た。
観客も分かっているのか、会場からは彼の挨拶に対し、拍手と歓声と、耳を劈くような指笛が聞こえて来た。
演奏が始まる直前の、一瞬の静寂の時間、
「内緒なんだけどね、確か玲央君、和葉と同い年の筈だよ」
姉は私に、そう耳打ちをしてくれた。
「じゃあ、一曲目、行きます。『光と影と』」
姉に手を引かれて再び戦場へ。
舞台上では、先程まで演奏をしていた人達が後片付けをしており、次のグループに引き継ぎを行っている。
人が少なくなっている瞬間を見計らい、姉はそのまま私を一番前まで引き連れて、ステージの真正面のど真ん中を陣取った。
ステージとは言っても、実際には観客席と高さは20センチ程しか変わらない。そこを隔てる敷居代わりに、公園内への車両の進行を防ぐ際の様な、だけどもそれよりももっと大きくて綺麗な鉄の柵が、ステージの前に構えられていた。
姉はステージ上の、赤いベースを肩から下げている人を指差して、私に教えてくれた。
「あれが仁さんだよ」
ベースを掴む腕は太く筋肉質で、黒いタンクトップからはがっしりとした体格がはみ出していた。赤く染めた髪を、ツンツンにおっ立てていて、ピックを握る右手の、手首から肩辺りにかけて、炎を象ったような黒いタトゥーが掘り込まれていた。
姉の彼氏である仁さんが、実際にはどう言う人なのかは知らないけれど、一見した所、かなり怖そうな人に見えてしまった。まぁ、姉の彼氏なのだから、見た目に反していい人なんだろうと信じたいところだけれど……。
――あぁ、これは確かに母さん達には言えないなぁ……。
懸念が杞憂である事を願う。
改めて、厄介な秘密を抱えてしまったなぁ、と遠い目で姉の想い人を眺めていると、準備の出来たバンドのメンバーが、各々の楽器を鳴らし始めた。
それに伴って、甘い蜜に吸い寄せられる蝶の様に、ステージの前には再び人集りが出来た。
「始まるまでここにつかまってな」
姉に言われ、ステージ前の鉄柵をしっかりと握る。多少の圧力が掛かったとしても、ここは死守しろとの命を受けた訳だ。
その時、一人の男の子が、袖から飛び出しステージの上へと上がってきた。この薄暗いライブハウスの中でサングラスをかけている。髪の毛は綺麗に金髪に染めており、かっちりとオールバックに固めていた。
「和葉和葉、今出てきたのがボーカルの子。玲央君って言うんだよ。最近加入してくれた、まだ10代の子なんだけどさ、メチャメチャいい声がいいのよ~」
彼の事を説明してくれる姉の頬は、既に若干上気している。
ボーカルの玲央君は、舞台のセンターに立てられていたマイクを掴むと、キスをする様な仕草で口を近づけた。
「改めまして、こんばんは、スティグマです」
バンドのメンバーが、彼の挨拶に呼応するかのように、好き勝手に音を出す。
「今日は、本当に来てくれて、ありがとうございます。短い時間ですけれど、一緒にロックして下さい。盛り上がっていきましょう、よろしくお願いします」
玲央君の声は、透き通っていて、高くて、綺麗で、爽やかで、凡そロックにはそぐわない様な印象を受けた。
か細い様な呟きが、マイクに拾われてライブハウス中を包む。その囁く様な声からは、青い炎のような、静かなのに高い温度を、確かに感じる事が出来た。
観客も分かっているのか、会場からは彼の挨拶に対し、拍手と歓声と、耳を劈くような指笛が聞こえて来た。
演奏が始まる直前の、一瞬の静寂の時間、
「内緒なんだけどね、確か玲央君、和葉と同い年の筈だよ」
姉は私に、そう耳打ちをしてくれた。
「じゃあ、一曲目、行きます。『光と影と』」
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