ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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3 スティグマ

3-2

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 地上への階段を上り、通りの路地を3つ程抜けた場所に、ライブハウスの看板を見つけた。
 どうやらライブは盛況らしく、看板横の地下へと続く階段をちょっと覗いただけで、けたたましい音の切れ端が漏れ聞こえて来た。
 慣れていない癖に、珍しく高めのヒールなんて履いてきたものだから、階段を下りるのも一苦労だ。こちらも勿論姉に借りたものだが、服の着こなしレベルには随分と差があるのに、靴のサイズは同じと言うのは些か納得がいかない部分もあった。靴のサイズが同じなら、もう少し私にも色々メリハリがあっても良いのでは無いか、なんて詰まらぬ思いを抱いている内に、階段を下りきった。
 受付のお兄さんに預かっていたチケットを渡し、分厚い防音扉を潜って中へと入る。
 重い扉を手前に開けた瞬間、私は激しい音の洪水に飲み込まれる事になる。
 チカチカと忙しく明滅する照明の中心には、激しく音楽を生み出している人達がいるのだろう。盛り上がっている人達の姿の隙間から、微かに頭だけが見える。その全身は、残念ながら舞台に押し掛ける人々に阻まれて、私の視界には入ってこない。
 背の低い私が悪いわけでは無い。背の低い人でも楽しめる作りになっていない、ステージがいけないのだ。

 ――折角のステージなんだから、もう少し高く作ってくれればいいのに……。

 心の中で一人言ちたその時、不意に右肩を叩かれた。
 そちらを振り向くと、こちらに向けて手をひらひらと振っている、姉の姿があった。何か口を動かしてはいるものの、何と言っているのかは空間を満たす音楽の濁流に飲み込まれて、正直全く分からない。
 お姉ちゃんを促すようにして、私は先程の防音扉をもう一度潜った。

「和葉、わざわざありがとね」

 外に出てすぐに、姉は先程の口の動きと同じ動きでそんな事を言った

「すごい大きい音だね。びっくりしちゃったよ」
「慣れない内はそうだよね。それにしても……」

 姉は、やっぱりね、と言う顔で苦笑した。

「結局一人で来たんだね」
「仕方ないでしょ。誘えるような男子なんていないよ」
「私の妹なのに、情けないわねぇ」

 そう笑う姉の胸元を、思わず見つめてしまう。

 ――仕方が無い、才能の有無だ。

「後10分位したら仁さん達の出番だから、そしたら入り直そっか」

 そう言いながら、姉は私の全体を矯めつ眇めつ眺めた。

「何よ?」
「いや、やっぱり可愛系になっちゃうんだなってね」
「うるっさいなぁ、もう」
「まぁいっか、ギリギリ大学生に見えない事も無いだろうし、こう言う可愛い系着てる大学生もいるだろうしね。それにこういうのは、ちょっと背伸びしてる位の方が、魅力的に映るもんだしね」

 好き勝手言う姉は、今日は長い髪の毛を後ろでポニーテールに纏め、柄物のTシャツ一枚にGパン一丁と言うラフな格好だ。よく考えたら、そこら辺のおっさんと全く同じようなコーディネートである。にも関わらず、その豊満な体型のお陰で、充分過ぎる程に色っぽく見えるのだからずるい。因みに中身も同じく放漫だったりするのに、彼氏が出来たりするところもずるい。

 その時、ライブハウスの中から響いていた音の波動が止んだ。
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