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そして、翌日。
私の財布の中には、昨日姉から頂戴したライブのチケットが挟まっている。
人間と言う物は意識をし始めると、もうどうにも止まらないものなのだと言う事が身に沁みて分かった。
昨夜私は7時前に家に帰り着いた。軽く走った為に少しだけ汗をかいたので、8時には入浴も済ませた。母が既に用意していた夕食も、無事に8時40分には食べ終えて、準備万端の状態で9時にはテレビの前に座り、ドラマにチャンネルを合わせ、クッションを抱き締めながら行儀良く視聴を開始した。
にも関わらずだ!
私はドラマの内容を全く覚えていないまま10時を迎えてしまう事と相成った!
チケットと姉と大藤君が次々と頭に浮かんできて、これでもかと言う程に気が散りまくってしまい、ドラマどころの騒ぎでは無かったのである。
考え過ぎて妙に疲れた為か、ドラマが終わると早めに床に着いた。睡眠に影響しなかったのは幸いだったが、学校に向かっている最中も、私の心臓は意味不明の高鳴りを見せていた。
――何これ、ありえない!
どうしてこんなにドキドキしているのだろうかと自分に問うても、返ってくるのはおよそ納得の出来る筈の無い結論ばかりだった。
男の子をライブに誘うと言っても、相手はあの大藤君だ。別に深い仲でも無いし、雑な言い方を許して貰えるなら大した相手でも無い。つまり、全く意識をするような相手では無い筈なのだ。それなのに、胸の高鳴りは収まらないし、体温は高めの様な気がするし、変な汗をかいている気さえする。
――何これ、ありえない! 本当にありえない!
自分の男の子に対する免疫の無さを信じたく無い一心で、頭の中を『ありえない』の単語で占めつくす。
勿論これには、当然揺るぐ事の無い至極全うな理由がある。
――だって、ありえないんだもの! それ以上でも以下でもないんだもの!
もう自分でも訳が分からない事を自覚している所為か、断られても何でもいいから、さっさと楽になりたかった。
……だけれでも、そんな半ば熱暴走気味の私の頭も心も身体も、帰りのHRが終わる頃にはすっかり落ち着きを取り戻していた。
理由は至極単純。
大藤君がこの日、学校に姿を見せなかったからだ。
一時間目の古文の授業が始まっても、教室の真ん中には主の不在に健気に耐える椅子と机が、ぽつねんと佇んでいるだけである。朝のHR後暫くの間は、遅刻してるのかもしないと身構えてもいたが、2時間目の授業が終わった頃には、今日はもう来ないんだろうなと、ぼんやりと思うようになっていた。
――今日、大藤君休みかぁ……。
その事実をしっかりと受け止めるだけの事に、3時間目の途中までかかってしまった。昨夜からかなり意気込んでしまっていたからだろうか、あんなにドキドキしていたのに何で今日休みなんだと思わず大藤君に憤りそうにもなったが、それは随分と勝手な事だと思い直し、考えを改める事にした。
――でもまぁ、逆に良かったかもしれないなぁ。鼻息荒くなってもみっともないしね。まだ日はあるし、別に無理する事でも無いし。そう言えば、別に大藤君である必要も無いんだった。
とは言え大藤君以外の男子を誘える気も全くしないんだけどね、と言う意気地無しの心の声には固く目を瞑って貰い、徒労の限りを尽くした昨夜からの自分に、そんな慰めの言葉をかけた。
だけど私は、週末のライブには結局、一人で足を運ぶ事になる。
何故ならこの日以来、大藤君はただの一度も、学校に顔を出す事がなかったからだ……。
私の財布の中には、昨日姉から頂戴したライブのチケットが挟まっている。
人間と言う物は意識をし始めると、もうどうにも止まらないものなのだと言う事が身に沁みて分かった。
昨夜私は7時前に家に帰り着いた。軽く走った為に少しだけ汗をかいたので、8時には入浴も済ませた。母が既に用意していた夕食も、無事に8時40分には食べ終えて、準備万端の状態で9時にはテレビの前に座り、ドラマにチャンネルを合わせ、クッションを抱き締めながら行儀良く視聴を開始した。
にも関わらずだ!
私はドラマの内容を全く覚えていないまま10時を迎えてしまう事と相成った!
チケットと姉と大藤君が次々と頭に浮かんできて、これでもかと言う程に気が散りまくってしまい、ドラマどころの騒ぎでは無かったのである。
考え過ぎて妙に疲れた為か、ドラマが終わると早めに床に着いた。睡眠に影響しなかったのは幸いだったが、学校に向かっている最中も、私の心臓は意味不明の高鳴りを見せていた。
――何これ、ありえない!
どうしてこんなにドキドキしているのだろうかと自分に問うても、返ってくるのはおよそ納得の出来る筈の無い結論ばかりだった。
男の子をライブに誘うと言っても、相手はあの大藤君だ。別に深い仲でも無いし、雑な言い方を許して貰えるなら大した相手でも無い。つまり、全く意識をするような相手では無い筈なのだ。それなのに、胸の高鳴りは収まらないし、体温は高めの様な気がするし、変な汗をかいている気さえする。
――何これ、ありえない! 本当にありえない!
自分の男の子に対する免疫の無さを信じたく無い一心で、頭の中を『ありえない』の単語で占めつくす。
勿論これには、当然揺るぐ事の無い至極全うな理由がある。
――だって、ありえないんだもの! それ以上でも以下でもないんだもの!
もう自分でも訳が分からない事を自覚している所為か、断られても何でもいいから、さっさと楽になりたかった。
……だけれでも、そんな半ば熱暴走気味の私の頭も心も身体も、帰りのHRが終わる頃にはすっかり落ち着きを取り戻していた。
理由は至極単純。
大藤君がこの日、学校に姿を見せなかったからだ。
一時間目の古文の授業が始まっても、教室の真ん中には主の不在に健気に耐える椅子と机が、ぽつねんと佇んでいるだけである。朝のHR後暫くの間は、遅刻してるのかもしないと身構えてもいたが、2時間目の授業が終わった頃には、今日はもう来ないんだろうなと、ぼんやりと思うようになっていた。
――今日、大藤君休みかぁ……。
その事実をしっかりと受け止めるだけの事に、3時間目の途中までかかってしまった。昨夜からかなり意気込んでしまっていたからだろうか、あんなにドキドキしていたのに何で今日休みなんだと思わず大藤君に憤りそうにもなったが、それは随分と勝手な事だと思い直し、考えを改める事にした。
――でもまぁ、逆に良かったかもしれないなぁ。鼻息荒くなってもみっともないしね。まだ日はあるし、別に無理する事でも無いし。そう言えば、別に大藤君である必要も無いんだった。
とは言え大藤君以外の男子を誘える気も全くしないんだけどね、と言う意気地無しの心の声には固く目を瞑って貰い、徒労の限りを尽くした昨夜からの自分に、そんな慰めの言葉をかけた。
だけど私は、週末のライブには結局、一人で足を運ぶ事になる。
何故ならこの日以来、大藤君はただの一度も、学校に顔を出す事がなかったからだ……。
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