ステレオタイプ ーどこにもいない、普通の私

泣村健汰

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2 ヘッドホン

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「……えぇ~」

 思わず深いため息が零れ、その場に膝を付きそうになった。

 確かにいつもヘッドホンを付けている位だから、音楽が嫌いな訳では無いのかもしれない。だけれども、彼がいつも聞いているのは音楽では無く、静かな潮騒の音で在る事が今日判明した。姉の彼氏の奏でる曲がどんな物かは分からないが、ロックだと言っていたからには、大人しめのと言う事は無いだろう。もしかしたら、そう言う激しめの音楽は、どちらかと言えば苦手な部類かもしれない。
 それより何より、誘えるような相手と言われて真っ先に彼の顔が出てくる程、交友関係の少ない自分に愕然とした方が大きい。
 おまけに言えば、クリームパン一つであのシーンを思い浮かべたのかもしれない、お値段のお得な自分にほとほとがっかりしたと言うのもある。
 更に言うとするなら、誠に失礼な話ではあるのだけれど、私が大藤君の存在をしっかりと認識したのは、二学期も半分以上経過してしまっている、ついこの間の事だ。いや、だからこそ印象に強く残っているのかもしれないが、だとしてもだ、だったとしてもだ……。

 大藤君をライブに誘わなくてもいい理由を色々探してみるが、決定的と言える程、嫌だ、無理だ、絶対にお断りだ、と言う理由は出てこなかった。
 現実問題として姉に渡されたチケットは、一枚でも三枚でも無く二枚である訳だし、先日は転んで怪我をしてしまいそうな所を助けて貰った恩義もあるし、お礼にライブのチケットがあるんだけどどうかな、と言う流れはとても自然に思える。それに、今まで話した事が無かっただけで、話してみると意外と仲良くなれるかもしれない。
 思考の方向を、前へ前へと意識的に切り替えていく事で、漸く思考のループから抜け出す事が出来そうだった。

 ――それにまぁ実際、他に誰か目ぼしい人がいる訳でも無いし、誰も居なかったら、誘ってみるだけ誘ってみようかな……。

 どうやって誘うかはまた明日考えればいいし、誘えなければ誘えなかったで、別にいいだろう。そう気楽に考える事にした。
 不意に浮かんできたニヤニヤ顔の道子と、しかめっ面の紗絵を頭の中から追い出す為、私は駅への道を軽く走って帰る事にした。
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