HEAVENS HEARTS

SPEED 05 覚醒の光条

SPEED 05-05

「あん？ナノロボットやんけ。御高説を承った病原菌との闘いで業を煮やした人間達が投入した切り札、ナノサイズのロボットやろ。にしても拡大写真で改めて見ると気持ち悪（キショ）い形しとんな、肉眼で見られへんのは正解やな」

「形（ソレ）がミソやんかぁ。あの微生物みたいな形は伊達やなく、幾本もの細い足は人間の血管内を泳ぐ為。お尻に備える突起物は脳に電気信号を与える為。機能重視を貫いたカッコええ奴やねんで」

「オォォォォッ！」

先程とは立場を変え、拍手のできないカルナが口笛を吹き鳴らした。

「ヤッパさっきの根に持っとったか」

「二人とも結構詳しいのね」

「オヤジの仕事が仕事やからな。特にナノロボット開発時に関しては記憶に明るいで。なんせ製薬自体がお役御免になんねやって、ガキながらマジ考えしとったぐらいやからな」

「取り越し苦労やったけどな。ナノロボットはまだまだ高価やから様々な国で需要が残ってるし、製薬時の膨大なデータもナノロボットに転化できたから」

「そんな詳しい二人には蛇足になるやもしれんが、分子の大きさに相当する１mmの百万分の一スケールのコイツのシゴトは、人間が本来持つ自然治癒能力を最大限に引き上げること。電気信号での刺激を根付いた脳に直接送り、白血球を強制排出させる手法を取る。この技巧出現の意味する所は、抗生物質の乱用廃止にして病原菌という畏れからの完全解放……人類は再び幻想の旗を手にした訳だ」

「幻想？ナノロボットは何の問題もなく順調なんちゃうんか？」

自分の知る分野の口上に右から左なカルナだったが、逆説（パラドックス）配す締め括りに意表を衝かれた。

「順調だぜ。ただ抗生物質がそうであったように、自然界相手に喧嘩を売って完璧は有り得ないってことさ」

「なぁんや……しっかし前フリ長いのぉ」

「自分もよう念仏みたいに唱えてるやんか、オチ前にはしっかりした前フリが必要やって」

「アホ言え。前フリが大事な以上にオチをカマすタイミングが重要なんや、間や！間！」

カルナは妙に真顔で妙な力説をした。

「悪しきタイミングで差し引かれようと、これから先がお前の興味をそそることに変わりはないと思うぜ」

「ホントですかぁ？じゃあ続けて零士様ぁ」

「それぐらいにしときやカル兄ぃ。じゃないと三人で部屋を出て思い出話に花咲かせんで」

内容に似つかわしくない低い口調の射抜き。