HEAVENS HEARTS

SPEED 03 確証の破綻

SPEED 03-05

しゃがむ標的。威力を発揮できない技巧。

「御機嫌ナナメらしいで！」

カルナは、エルナの舞が交わされること、並びに月華の対処法を一日（いちじつ）の長で予測していたが為、既に上半身を半回転捻りつつ滑り込み、下段後廻し蹴り（ローバックスピンキック）を敢行。

しかし、コレに相対しようとも月華に慌てた様子はなく、地（コンクリート）に接した腕の力のみで飛び上がる回避を見せ付ける。

「フラれ過ぎやでカル兄ぃ！」

この場面（シーン）での先駆者となったエルナは、二段攻撃（ツープラトン）を退けた月華がもう一度射程圏内に戻って来ると、第三者の目を得た二人の手合わせにより確信。カルナが見せた空振り後の肢体が生む腰の捻じれを採用、上半身を委ね右拳での裏拳を執行した。

「ビンゴ！えっ！？」

再び驚愕と同居するエルナ。腕の力を唯一に飛び上がった筈の月華の身体が、拳の達する以前に予測を反した速度でその場（ポイント）を越え、遥かに高い中空にまで到達していたが為に。

「エルナ！」

月華・零士・そしてジャンキー。幾度の苦い経験がカルナにエルナを我に返す発声を可能とし、次に取るべき行動の意思伝達（アイコンタクト）発信までをも容認した。

「わかった！シッカリなカル兄ぃ！」

復活の承諾（ノロシ）を下方で受けたカルナは地（コンクリート）に両手を付くなり目標物も何もない空中目掛け後廻し蹴り（バックスピンキック）を疾走。

一方、策に乗ったエルナは疾風の最も破壊力を有する頂点を目指し跳躍。

カルナとエルナ、靴底を介す以心伝心。

カルナの蹴りが作り出した踏み台（ステップ）と動力、エルナの呼吸（タイミング）が生んだ方向性と跳躍力。

カードが出揃った結果、月華が飛翔する中空を席巻、エルナは更なる上空（うえ）をも凌駕した。

「アタマ捕らせてもらったで月華さん！」

月華の頭頂部を越（おさ）えたエルナの五体が前方に回転、抜刀する左踵に遠心力を宿した。

ーやるやんけエルナ、ええタイミングや！しかも空中……如何に素早かろうが何人（なんびと）たりとも逃げることは叶わん！

ー悪いな月華さん……仇討ちは熱い内にが鉄則やねん！

阿吽の呼吸で放った即席コンビネーションに確信を得るカルナとエルナ。

だが、確信は確答を引き出せないまま急速に解体を始める。