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第二話「破滅の壊音」音壊怪獣アポカリオン登場

封鎖しといてよかったね

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「"隊長!どうやら事件発生の際とその前日に、ラッパを吹くような音が聞こえていたようです"」

 アオイ隊員は小型トランシーバーの役割も持つミントマークのバッジを通して、MINT隊長・ユキヒラに調査情報を共有する。

「"つい先ほども、レインボーブリッジからラッパを吹くような音がするとの通報がありました"」
「"じゃあ、また破壊が起きるのでしょうか...?"」
「"その可能性はありますね、防衛軍本部からは我々にレインボーブリッジ付近の調査せよと通達。直ちにイキシアで飛んでください"」
「"了解しました!!"」

 斯くしてアオイ隊員はMINT基地へ早急に戻り、射撃訓練に励んでいた同僚のリンドウ隊員と共にイキシアに乗り込み、レインボーブリッジ上空へと向かった。

到着してみると!なんと!!・・・いつもと変わらぬ静かな空が広がっていた。

「"何の異変もありませんね、強いていえばちょっと今日はお腹の調子が悪いくらいで"」

 暫くイキシアでレインボーブリッジ上空を飛び回ってみるも鳥一匹も居やしなかったし、超高性能レーダーにも生物反応は確認できなかったのでアオイ隊員はユキヒラ隊長へ呑気な無線を送った。

「"こんな暑いなかで数日も作りおきしていたカレーなんか食べるから~"」

 イキシア三号もアオイとユキヒラの無線による通話を傍受していたので、かなり傷んでいたであろうカレーを想像してしまいリンドウ隊員の食欲は完全に失われた。

「"地球を防衛する者として体調管理も仕事のうちですからね"」
「"隊長に体調の事で怒られちゃったかあ!"」

 ツッーーーーー。アオイ隊員が洒落を口にすると同時に、無慈悲にも無線は切られるのだった。


 翌日の真っ昼間、レインボーブリッジ上空。道修町で人々が耳にしたものと同じくラッパを吹くような音が鳴り響き、それは破壊音へと変貌した。

するとレインボーブリッジは小刻みに震動し始め、やがて端から端まで順に粉々になっていき、七百九十八メートルの巨大吊橋は東京湾へと沈んだ。

「"録音しましたがっ...機体がっ!!”」

 念のため交通規制をしていたお陰で死傷者は出なかったものの、破壊音は周囲を警戒して飛んでいたイキシア二機のボディにも侮れないダメージを与えた。

「”まだ飛べますね二人とも、至急戻ってください”」
「“了解”」
   
 ユキヒラ隊長の指示通りボロボロになったイキシアは、修理と安全確保のために一先ず帰還した。






「申し訳御座いません、はい、ですからこちらとしても警戒はしておりましたとも、はい」

 防衛軍基地にレインボーブリッジ上空の調査はちゃんとやったのかとクレームの電話が殺到、対応するスタッフは今日だけでも謝罪と説明の対応を何十回と繰り返している。

「くっそぉ、確かにレーダーには反応なんてなかったのになぁ!」
  
 基地に帰還してきたアオイ隊員は、クレームに対応するスタッフを申し訳なさそうに見ながらサンドイッチを頬張る、理不尽な不条理と、してやられた自分の情けなさに苛立っているのだ。

「私も全く分からなかった、なにが、なんだか...」
   
 リンドウ隊員もスポーツドリンクの缶を握りしめ、俯いている。

「おふたりとも、お疲れ様です、無事でよかったわ」

 スタッフがクレーム対応に追われるなか、ユキヒラ隊長は部下二人に優しく労いの言葉をかけた。

「みすみす被害を出してしまいました」
「お役に立てず...」

 目に見えてイキシアのパイロットふたりは落ち込んでいる、なにしろ常識を遥かに超えた存在と戦ってきたのだから今までも失敗はあった、だが彼女たちの失敗は一つ一つが並外れて重たい事態を招く。

失敗しても軽い気分に切り替えるなんて事は、そう簡単ではない。

「おふたりとも、これを見てください」

 そう言ってユキヒラがアイ・コンタクトを送ると、オペレーターは複雑なパスワードを専用の機械に素早く打ち込み、先ほど記録されたレインボーブリッジの映像を司令室中央に用意されたスクリーンへ投影する。

するとあの不気味な音も、しっかりと聞こえてきた。

「あーあ!学校でやらかした翌日に親にかかってきた電話より、よっぽど怖い音になっちゃったなあ」
「アオイ隊員...いったい学校で何をしたんですか... ... ...」
「そんなトラウマレベルの嫌な音が解析されました、これは終末を予言するラッパの音などではありません、直後に変化した獣ような音と同様、生物の鳴き声です」
 
 それを聞いたアオイ隊員は、やっぱりそうか、怪獣だな・・・と、ため息混じりに漏らす。

「怪獣は超高速で肉体を振動させる事により姿を見えなくしており、その際に発生する膨大なエネルギーの衝撃波によって強大な破壊をもたらしていたのです」
「なるほど音そのものと化していたから、生物としてレーダーに反応が残らなかったのか」
「計算したところ怪獣の音は、約二十万ホーンです」
「耳栓をしても...体が粉々になる...」
   
 自らの肉体が崩壊していく様を想像してしまったリンドウ隊員は、思わず身震いする。

「大丈夫ですよリンドウ隊員、私達の科学力があれば、強大な怪獣にも負けません...」
「はい...!」

 怯えるリンドウ隊員をユキヒラ隊長は優しく抱きしめ、励まし落ち着かせる。

「ヒュウ!お熱いですなあ、御両人!!」

 基地内も暑いというのに体を密着させるリンドウとユキヒラを茶化しながらアオイ隊員は思う、それに今は猫鈴猫ちゃんがいるから...と。
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