ふわふわ双子と溺愛お兄様

小梅

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ふわふわ双子と溺愛お兄様

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 この学園には有名人がいる。

 まずは生徒会の役員達。家柄や成績で全てが決まると言っても過言ではないこの学園で上位に位置する奴等の集まりだ。
 国内で知らない奴は居ないであろう財閥の御曹司の生徒会長である西園寺 将暉さいおんじ まさき
 西園寺家の顧問弁護士の息子であり将来は西園寺の右腕になることが約束されている生徒会副会長の東宮 行成とうぐう ゆきなり
 有名ファッションブランドである『riria―リリア―』のモデルでありブランドを立ち上げた南原家の息子でもある生徒会会計の南原 頼斗みなみはら らいと
 一年生の頃に剣道の全国大会で優勝して三年間無敗を貫き日本にその名を轟かせた生徒会書記の北河 敦きたがわ あつし
  俺達みたいな一般生徒には遠い世界の人達の集まりである生徒会の奴等は、全員が系統の違うイケメンでもあるため非常にモテる。学園の女子生徒の殆どがいずれかの役員のファンクラブに入っているっていう事実で察して欲しい。

 次にあの女子生徒。彼女は中高一貫校であるこの学園の試験に受かり、高等部から入学してきた外部受験生だ。
 財閥の令息令嬢も通うこの学園は世間から見たら学力レベルも高いらしく、また中高一貫校であることから授業の進みも同年代と比べて随分早い。
 だからこの学園の受験を外部生が合格する確率は非常に低いらしいんだが彼女は見事合格した。ちなみに今年の外部受験生で合格したのは彼女とお前だけな。
 そんな彼女の名前は橘 京花たちばな きょうか。橘さんは入学から1ヶ月も経たないうちに生徒会の役員達を虜にしたことで有名な人である。
 俺様な生徒会長からは物怖じすることの無い強気な性格を、腹黒な副会長からは同じレベルの会話ができる頭のよさを、軟派な会計からは自身を心配してくれる優しさを、寡黙な書記からは言葉が少ない自身の意図を読み取り接する姿を気に入られ、それがきっかけで彼等は彼女に惚れたらしい。

 一人の女子生徒にまとわりつく生徒会役員達。
 このフレーズでみなまで言わずともわかると思うが、まぁ学園の女子生徒達が荒れた。
 当然って言ったら当然だと思う。今まで特定の女を構うことのなかったイケメン達が一人の女、それも外部から入ってきた奴を特別視しているんだからな。当然の結果だ。
 橘さんは学園の女子生徒から嫌われた。ファンクラブの過激派は彼女を敵視し、呼び出しや嫌がらせなどもしているらしい。
 これだけ聞くと橘さんが可哀想ってなるんだけど彼女全然平気そうだし、逆に過剰に生徒会の奴等とつるんで過激派を挑発・刺激しているところもあるんだよな。
 男子生徒の中には橘さんを擁護する奴等もいるんだけど、俺は彼女が苦手だ。なんか笑ってるんだけど目が人を見下してるって感じだし、男子生徒と女子生徒で対応が違うし分かりにくいけど絶対にぶりっ子だと思う。おっと、話が逸れたな。

 最後は──

***

 目の前に座る友人の声がガラスの割れる音に遮られる。外部から入学してきた私が平和な学園生活が送れるようにと、食堂で昼食をとりながらいろいろ話してくれていた彼と顔を見合せ、音のした方へと注目する。
 視線の先では友人から教えてもらった橘さんと愉快な仲間達生徒会役員達が仲良く手を繋いでいる中等部の男女二人と対峙しており、その二人をキツく睨み付けていた。

「・・・あーあ、やらかしたなぁ」

 ポツリと友人が溢す。ため息混じりに呆れた様子で。その一方で私は気が気じゃなかった。中等部の子が危ない事になってしまうのではないかと焦る。
 オロオロする私を見て私の考えていることを察したのか、彼は「違う違う」と苦笑して首を横に振った。

「まぁ、見てればわかるよ」

 私は確信に満ちた友人の言葉を疑問に思いながらも、彼の言葉に従って彼等の様子を伺った。

***

ゆうくん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。ゆうちゃんも怪我ない?」

 白い肌に、琥珀のようにキラキラと輝く瞳、ふわふわしたミルクティー色の髪。お互いを心配し合う二人は同じ顔をしている。男女の双子であるようだった。

「おい、お前ら」

 二人は上から聞こえる威圧的な声に顔を上げる。西園寺は目の前で自分を見つめる二人をキツく睨み付け、口を開く。

「ぶつかったのに謝りもしないなんてどういう教育を受けてんだ。京花が怪我したらどうするつもりだ」
「そうですよ。京花さんは私達生徒会の大切な方です。早く謝りなさい」

 橘を背に庇い、東宮が二人を叱りつける。そんな二人の後ろに居る南原と北河も黙って二人を睨んでいた。

「「・・・ぶつかってごめんなさい」」
「でも、あの人が先に悠くんにぶつかったんだよね」
「そうだよ。悠ちゃんと一緒に買ったジュースが溢れちゃったもん」

 二人は西園寺達に向かって謝るも、そう言って顔を見合せ頷きあう。そして床に転がる割れたコップと溢れたジュースを見て悲しげに眉を下げた。
 事実、二人が席に向かい歩いている道を塞ぐ様な形で橘達が歩いていたのだ。これは彼等がちゃんと前を見て歩いていたら防げた事故であった。

「なんで文句なんか言ってんの?お前らが悪いのにさぁ~」
「口答えは、聞きたくないな・・・」

 だというのに自分達に否はないと言わんばかりに南原と北河が不機嫌そうに言う。そのあまりに身勝手な言葉に周りで様子を見ていた生徒達は眉を顰める。年下に対して威圧的に接するだけでも不快に思うのに、言いがかりをつけるなんて信じられないことだった。

「皆、そんなに怒らないでぇ?私は大丈夫だよぉ」
「だが、京花・・・」
「この子達を叱るなんてかわいそうだよぉ!」

 甘ったるい橘の声に食堂が静まりかえった。キュッと西園寺の袖を握り、上目遣いで橘は訴える。そんな彼女に西園寺達は頬を赤く染めた。

「京花は優しいな」
「流石京花さんです」
「京花ちゃんらしいな~」
「同意する」

 口々に橘を誉める彼等を見る生徒達の目は酷く冷たい。それに彼等は気付いていないし、気付いたところでもう遅いのだ。

「これは一体、なんの騒ぎかな・・・?」

  コツリと鳴った足音と共に、穏やかな声がその場に投げかけられる。食堂に居る生徒全員の視線を受けた男子生徒は首を傾げて、ふわりと微笑んでいた。

***

「げっ!ブチギレてやがる・・・」
「え?」

 私と一緒に彼等の言動に眉を顰めていた友人が、突然現れた男子生徒が見て苦い顔をした。ブチギレる、なんてあの優しく微笑んでいる彼に似合わない言葉に首を傾げる。

「いや、何でもない。こっちの話だ」
「??そっか」

 友人の言葉を不思議に思いながらも、私は渦中へと再び視線を向けた。

***

天之宮あまのみや様・・・」

 西園寺が呆然と男子生徒の名を呟く。他の生徒会役員達も橘も周りで様子を伺っていた生徒達も、天之宮を見て驚いていた。
 彼は天之宮 悠あまのみや はる
 学園で生徒会役員達よりも位の高い生徒だ。世界的に有名な天之宮財閥の御曹司であり、彼自身が起業した国内でも上位の業績を誇る会社『MBS』の社長でもある。
 生徒会に負けず劣らず綺麗な顔をしており、成績も優秀。また自身の肩書きを振りかざすことなく振る舞う彼は学園の生徒達全員の憧れだ。

「・・・聞こえなかったかな?これは一体、なんの騒ぎ?」

 こてん、と首を傾げた天之宮がもう一度問う。

「あの子達がぁ、私にぶつかって来てぇ、将暉センパイ達が注意してくれてたんですぅ」
「そうです!京花にぶつかったのに謝りもしなかったので、少し注意していました」
「へぇ、そうだったの」

 胸元で手を組んで、上目遣いで天之宮を見つめる橘に続いて西園寺も誇らしげに語る。

「あのぉ、私怪我しちゃったかもしれないですぅ。天之宮さまぁ・・・保健室、連れていってくださぁい」

 反応の薄い天之宮に、橘が甘えた声でしなだれかかろうとした。が、彼は彼女をヒラリと躱すと優雅に歩き出す。

「え?天之宮さまぁ?」

 天之宮は困惑した様子の橘からの呼び掛けに答えることなく、立ち尽くしたままだった中等部の二人の前へしゃがみ込む。

「本当にぶつかったのかな?」

 二人は天之宮からの問いに顔を見合せて首を勢いよく横に振ると、じっと彼を見つめて口を開いた。

「違うよ、あの人達が悠くんにぶつかったんだよ」
「謝れって言われたから僕も悠ちゃんも謝ったのに、ぶつかってきたあの人達は謝らなかったんだよ」
「「悠くん/悠ちゃんは嘘つかないもん」」

 ギュっとお互いの手を握りしめて訴える二人に天之宮は優しく微笑むと、二人の頭を撫でて口を開く。

「私の可愛い悠哉ゆうや悠香ゆうかが嘘をつくなんて思ってないさ」
「「悠お兄様、信じてくれるの?」」
「当たり前だろう?悠哉と悠香は私の可愛い弟と妹なんだから」

 そう言って二人を抱きしめると、天之宮は後ろを振り返りにっこり笑う。

あらた、どうせ見てたんでしょ?一から説明してくれるかな?」

***

 橘さん達に絡まれていた中等部の子達がまさかあの天之宮様の弟と妹だったという事実に、食堂中がざわめく。私も驚いていた。まさかの展開である。

「天之宮様が呼んでる新って人、一体誰なんだろうね?」

 ざわざわと騒がしい中、友人に声をかける。あれ?確か友人の名前も"新"だったような・・・まさか、ねぇ?
 フルフルと浮かんだ考えを消すように頭を振る。いや、考えすぎだぞ私。

「あぁ、まったくアイツは・・・俺を巻き込むなっての!」

 ガタッと大きな音をたてながら、友人は勢いよく立ち上がり悪態をつく。私はそんな友人を見上げ固まった。マジか、やっぱり友人のことだったのか・・・。

***

「やぁ、新」
「俺を巻き込むんじゃねぇよ、悠」

 あの"天之宮様"と親しげに会話をする男子生徒に、視線が集まる。天之宮様の弟と妹、それから親しい友人、新たに発覚した事実に生徒達のざわめきは収まらない。

「どうせ悠も見てたくせに・・・」
「私の主観になってしまうからね。客観的な意見が聞きたかったから仕方ないでしょ?」

 恨めしげな新の視線に悪びれもなく笑う天之宮。その態度に新は諦めたように肩を落とすと、深いため息をついて口を開いた。

「悠哉と悠香がジュースの入ったコップを運んでいたところに、前を見ずに歩いていたそいつらがぶつかった。二人は避けようとしていたが、そいつらが横に広がって歩いていたから避けきれなかったようだったな。今話した通り10:0でそいつらが悪いのに悠哉と悠香を威圧し謝罪を強要。橘は生徒会の奴等をなだめる様子を見せていたが、うっすら笑っていたから庇われて心配されている自分に酔っている様子で自分に否があると思っていなかったと思われる」

 つらつらと新の口から語られる内容に周りの生徒達も頷いている。まさに自分達が見たままの出来事をこうも明確に言葉に出来るのかとも驚いている生徒もいた。

「以前から生徒会の奴等の態度には思うところがあったが、今回の事でハッキリとわかった。コイツらは生徒会失格だと思うね。橘という女に溺れ、自分の役目を果たせない奴はいらない」
「お前!」

 そう続いた新の言葉に生徒会の役員達の顔が歪む。
 思わず手を出しかけた西園寺の動きを遮るように、天之宮が拍手をした。パチパチと手を打ち鳴らす彼に再び視線が集まる。

「流石だよ、新。お前はやっぱり私の右腕に相応しい」
「右腕になんてならないって言ってんだろ」

 新の報告に天之宮は嬉しそうに笑う。新は彼の言葉に鼻を鳴らし、そう吐き捨てる。
 天之宮はそんな彼の反応にまた笑うと、悠哉と悠香に優しく声をかけた。

「悠哉、悠香。私が合図をするまで耳をふさいでいてくれるかな?」

 突然告げられた脈略のない兄の指示を二人は疑問に思うことなく受け入れて頷くと、ギュっと耳をふさいだ。兄を一切疑うことなく、すぐさま行動した純粋な二人の姿に女子生徒達の母性が擽られていたのか、何人かが胸元を押さえ悶えている。

「さて、西園寺くん」
「はい!」
「君、生徒会辞めてね」

 その時、時が止まった。一瞬でざわついていた食堂が静まりかえる。

「え・・・」
「あぁ、他の役員達もだから安心して」
「な、何でですか・・・」

 震える声で西園寺が天之宮に問いかける。その顔は青ざめていた。

「え?言わないとわからないの?」
「っ・・・」
「しょうがないな。まずは生徒会の仕事をしなかったこと。仕事の出来はアレだったけど前はちゃんとこなしていたのに、最近はその子にうつつを抜かして仕事してないんだもの。仕事をしない奴はいらないよ?」

 聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように天之宮が説明をしていくと、生徒会役員達の顔からどんどんと血の気が引いていく。
 そんな彼等を気にすることなく、天之宮は続ける。

「それに生徒達の上に立って見本にならないといけないはずの君達は、女一人の為に事実を正しく認識することが出来ないみたいだしね。真実を見極めることの出来ない節穴はいらない。最後に、君達は私の可愛い弟と妹にあんな態度をとったんだ、これからも変わりなく学園生活が送れるはずがないだろう?私の可愛い宝物に傷がついてたら君達を消してるところだったよ」

 優しく微笑んでいるその美しい顔から吐き出される言葉が、毒となり刺となり生徒会役員達へと向かっていく。

『天之宮財閥に逆らうな』

 それは日本の上流階級の人間なら知っていて当然の事で、天之宮財閥に敵と見なされたら最後この業界で、日本で、生活していくのは不可能だとされる。

「君達の家を潰すのは簡単だけど後始末が大変だから生徒会を辞めるだけで許してあげる。あぁ、今後この子達には一切近付かないでね?じゃあそういう事でよろしく」

 天之宮の逆鱗に触れてしまったと今更ながらに気付くがもう遅い。生徒会が解散することはすでに決定事項であり、また彼等が天之宮から見放された事は速やかに各家に伝わり後継ぎから外される事も確定してしまった。項垂れ、後悔に呑まれている彼等に救いはない。
 新は友人の冷酷でありながらも正当な判断を幾度となく見てきたが、弟と妹に関する事になると彼が一段と冷酷になることを改めて認識する。

「何でそんな酷いことを言うんですかぁ!センパイ達が可哀想ですぅ」
「うるさいよ。君は退学だから早くこの学園から出ていってくれるかな?」

 目を潤ませ天之宮に訴えかける橘を一瞥もすることなく彼はそう言い捨てると、愛しの弟と妹の元へ足を進める。

「ちょっとぉ!離しなさいよ!私はヒロインなのぉ!皆に愛されて幸せになるのよ~!!」

 新が呼んでいた警備員に引き摺られながら狂ったように叫ぶ橘を生徒達は異様なものを見る目で見つめる。しかし天之宮がそれに反応を示すことない。彼の中からは既に彼女という存在は消えているからだ。

「悠哉、悠香。もういいよ」

 トントンと優しい手つきで二人の肩を叩き、天之宮は微笑む。

「悠お兄様、何かあったの?」
「悠くんにぶつかった人、いなくなっちゃった?」

 耳から手を離して直ぐにお互いの手を握り、兄を見上げる二人。可愛い宝物達からの問いに彼は笑顔を浮かべるだけで何も語らない。
 彼は二人の頭を優しく撫でて口を開く。

「二人共、アイス食べに行こうか。私が買ってあげるよ」
「アイスだって、悠ちゃん!」
「うん!交換しようね、悠くん!」
「「ありがとう、悠お兄様」」

 アイスの言葉に目を輝かせた二人は大好きな兄へ抱き着くと嬉しそうに笑う。もう二人の中に先程までの疑問は残っていない。
 兄は別の話題で意識をそらし、弟と妹に必要ないものを排除する。今までも、そしてこれからも天之宮はそうやって可愛い宝物を守るのだ。

「悠は二人を守る為に手段を選ばない。何であんなに過保護で溺愛しているのか俺は知らないけど、触らぬ神に祟りなしって言うからな」

 離れていく三人の背を見送りながら、新は新しく出来た友人へと助言をする。

***

──最後は、天之宮 悠あまのみや はる

 奴の宝物に手を出したら最後、平和な生活なんて送ることは不可能。優しい顔の裏に、黒いナニカを飼っている。

"触らぬ神に祟りなし"

 関わる事も近寄る事もオススメしないぜ。目を付けられたら、良くも悪くも普通の生活は送れないからな。
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