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衝突しまして
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「そんなに私が嫌いならわざわざ話しかけてこないでください。鬱陶しいんで」
私の言葉に春也の顔が固まった。隣にいた秋久は驚いたように私と春也の顔を見比べている。佐渡家の廊下で私の進路を塞ぐ春也を睨みつけた。
***
時を遡ること30分程。全授業が終わり、慈雨と並んで下駄箱の前で靴を履き替えていると背後から声がかかった。声に振り返ると、そこにはにこにこと笑う秋久がいる。
「秋久くんも今帰り?」
「うん。冬華ちゃんももう帰るんだよね?」
「そうだよ」
つま先を地面に何度か打ち付けて靴を履く。秋久がちらりと私の隣を見た。
「隣の子は友達?」
「え?うん。親友の慈雨」
「•••どーも、冬華の親友の雨沢慈雨です」
「へぇ•••」
ピリ、と空気が変わる。秋久と慈雨の空気が強張るのを感じた。
「あー、あはは、ごめんね慈雨。今日は秋久くんと帰るよ」
「•••仕方ないわね、気を付けなさいよ」
「うん。ありがとう」
一触即発の空気を遮るように声を上げた私に慈雨が呆れたように言う。不穏な空気を纏う秋久の手を引いて私は学校の門を出た。
「あの子、冬華ちゃんの親友なの?」
学校を出て幾らか経った頃に秋久が問いかけてきた。何故か目の据わっている彼に首を傾げながらも、私は頷く。
「そうだよ。中学からずっと仲良しなんだ」
「ふーん、そうなんだ」
「なんか元気ないね。今日は焼肉だって言ってたから早く帰ろ」
しお、と肩を下げた秋久を励ますように言って私は彼の背中を押した。私に押されるがままだった秋久は家に近付くにつれて普段と変わらない様子になる。先程の元気のなさは一過性のものだったらしい。
「ただいま帰りました」
「ただいま」
「!坊ちゃん、お嬢、おかえりなさい!!」
門の周りを掃除していたスズさんが嬉しそうに笑って門を開ける。秋久と二人並んで門をくぐった。
ガラリと開けた玄関は静かで、どうやら組員達はそれぞれの持ち場で仕事中のようだった。靴を脱いで並べ、部屋に行こうと足を動かす。
「おや、おかえり」
「ただいま帰りました、春也義兄さん」
「ただいま、兄さん」
「秋久と一緒だったんだね」
対面から歩いて来た春也に挨拶を返すと、彼は含みのある笑顔を浮かべて私に言った。
「同じ時間に終わったので」
「へぇ、君が合わせたんじゃなくて?」
「•••は?」
「ちょっと兄さん!」
春也の言っている意味がわからなくて首を傾げる私の隣で秋久が声を上げる。
「父さんを誑かした次は秋久?母娘揃って金か顔か目当てはわからないけど諦めてくれるかな。目障りなんだよね」
「兄さん、いい加減にしてよ!冬華ちゃんも雪子さんもそんな人じゃない!」
「秋久、お前は騙されてるんだ。ヤクザの家に嫁いでくる女とその娘だぞ?普通な訳がないじゃないか」
黙り込む私の側で春也と秋久が言い合う。悪意に満ちた春也の言葉に頭が真っ白になり、衝動的に口が開いていた。
そして冒頭に戻る。
「•••は?」
「偏った考えしか出来ない、その小さな頭にしっかり叩き込んでください。私は、貴方なんてどうでもいい。だから貴方も構ってこないでくださいよ、鬱陶しいから」
私の言葉に混乱した様子の春也に、重ねて告げた。
「母さんが四季さんを選んだわけじゃなくて、逆。四季さんが母さんを選んで縛ってるの。私は母さんのオマケで可愛がってもらってるだけ」
四季さんの反応でわかるでしょうに、と呟いて私は続ける。
「四季さんと母さんがどんな関係だろうが私には関係ないし、四季さんの娘になったからどうこうしたいとかない。ただ家族になるからそういう対応をしているだけで別に貴方達と仲良くなりたいわけじゃないの」
「なっ、」
「自意識過剰って言葉、知ってる?」
く、と喉を鳴らして笑った私に、春也の顔が真っ赤に染まる。怒りに満ちた黒曜石が私をじっと睨みつけていた。
「俺も?」
「え?」
「俺も、鬱陶しい?」
ぽつりと呟かれた秋久の言葉に目を丸くする。苦しそうな顔をする彼に少なからず驚いた。懐かれている気はしていたが、まさかここまでとは思わなかった。
「秋久くんは鬱陶しくないよ。いつも仲良くしてくれてありがとうね」
「・・・!!良かったぁ~」
私の言葉にぱぁっ、と顔を明るくさせた秋久に、ホッと息を吐く。数ヶ月違いでも弟は弟である。初めて出来た弟に私は存外甘かった。
「あっ!お嬢に若達、もう少しで晩飯の時間ですぜ」
「教えてくれてありがとうございます!じゃあまた後でね、秋久くん」
声を掛けてくれた組員にそう返して、秋久に言う。頷いて手を振ってくる秋久に手を振り返して私は自室へ足を向けた。
ふと、何気なく見た春也は愕然とした様子で私を見つめていた。その顔は真っ赤に染まったままだった。
私の言葉に春也の顔が固まった。隣にいた秋久は驚いたように私と春也の顔を見比べている。佐渡家の廊下で私の進路を塞ぐ春也を睨みつけた。
***
時を遡ること30分程。全授業が終わり、慈雨と並んで下駄箱の前で靴を履き替えていると背後から声がかかった。声に振り返ると、そこにはにこにこと笑う秋久がいる。
「秋久くんも今帰り?」
「うん。冬華ちゃんももう帰るんだよね?」
「そうだよ」
つま先を地面に何度か打ち付けて靴を履く。秋久がちらりと私の隣を見た。
「隣の子は友達?」
「え?うん。親友の慈雨」
「•••どーも、冬華の親友の雨沢慈雨です」
「へぇ•••」
ピリ、と空気が変わる。秋久と慈雨の空気が強張るのを感じた。
「あー、あはは、ごめんね慈雨。今日は秋久くんと帰るよ」
「•••仕方ないわね、気を付けなさいよ」
「うん。ありがとう」
一触即発の空気を遮るように声を上げた私に慈雨が呆れたように言う。不穏な空気を纏う秋久の手を引いて私は学校の門を出た。
「あの子、冬華ちゃんの親友なの?」
学校を出て幾らか経った頃に秋久が問いかけてきた。何故か目の据わっている彼に首を傾げながらも、私は頷く。
「そうだよ。中学からずっと仲良しなんだ」
「ふーん、そうなんだ」
「なんか元気ないね。今日は焼肉だって言ってたから早く帰ろ」
しお、と肩を下げた秋久を励ますように言って私は彼の背中を押した。私に押されるがままだった秋久は家に近付くにつれて普段と変わらない様子になる。先程の元気のなさは一過性のものだったらしい。
「ただいま帰りました」
「ただいま」
「!坊ちゃん、お嬢、おかえりなさい!!」
門の周りを掃除していたスズさんが嬉しそうに笑って門を開ける。秋久と二人並んで門をくぐった。
ガラリと開けた玄関は静かで、どうやら組員達はそれぞれの持ち場で仕事中のようだった。靴を脱いで並べ、部屋に行こうと足を動かす。
「おや、おかえり」
「ただいま帰りました、春也義兄さん」
「ただいま、兄さん」
「秋久と一緒だったんだね」
対面から歩いて来た春也に挨拶を返すと、彼は含みのある笑顔を浮かべて私に言った。
「同じ時間に終わったので」
「へぇ、君が合わせたんじゃなくて?」
「•••は?」
「ちょっと兄さん!」
春也の言っている意味がわからなくて首を傾げる私の隣で秋久が声を上げる。
「父さんを誑かした次は秋久?母娘揃って金か顔か目当てはわからないけど諦めてくれるかな。目障りなんだよね」
「兄さん、いい加減にしてよ!冬華ちゃんも雪子さんもそんな人じゃない!」
「秋久、お前は騙されてるんだ。ヤクザの家に嫁いでくる女とその娘だぞ?普通な訳がないじゃないか」
黙り込む私の側で春也と秋久が言い合う。悪意に満ちた春也の言葉に頭が真っ白になり、衝動的に口が開いていた。
そして冒頭に戻る。
「•••は?」
「偏った考えしか出来ない、その小さな頭にしっかり叩き込んでください。私は、貴方なんてどうでもいい。だから貴方も構ってこないでくださいよ、鬱陶しいから」
私の言葉に混乱した様子の春也に、重ねて告げた。
「母さんが四季さんを選んだわけじゃなくて、逆。四季さんが母さんを選んで縛ってるの。私は母さんのオマケで可愛がってもらってるだけ」
四季さんの反応でわかるでしょうに、と呟いて私は続ける。
「四季さんと母さんがどんな関係だろうが私には関係ないし、四季さんの娘になったからどうこうしたいとかない。ただ家族になるからそういう対応をしているだけで別に貴方達と仲良くなりたいわけじゃないの」
「なっ、」
「自意識過剰って言葉、知ってる?」
く、と喉を鳴らして笑った私に、春也の顔が真っ赤に染まる。怒りに満ちた黒曜石が私をじっと睨みつけていた。
「俺も?」
「え?」
「俺も、鬱陶しい?」
ぽつりと呟かれた秋久の言葉に目を丸くする。苦しそうな顔をする彼に少なからず驚いた。懐かれている気はしていたが、まさかここまでとは思わなかった。
「秋久くんは鬱陶しくないよ。いつも仲良くしてくれてありがとうね」
「・・・!!良かったぁ~」
私の言葉にぱぁっ、と顔を明るくさせた秋久に、ホッと息を吐く。数ヶ月違いでも弟は弟である。初めて出来た弟に私は存外甘かった。
「あっ!お嬢に若達、もう少しで晩飯の時間ですぜ」
「教えてくれてありがとうございます!じゃあまた後でね、秋久くん」
声を掛けてくれた組員にそう返して、秋久に言う。頷いて手を振ってくる秋久に手を振り返して私は自室へ足を向けた。
ふと、何気なく見た春也は愕然とした様子で私を見つめていた。その顔は真っ赤に染まったままだった。
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