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番外編
気になる子【恭side】
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私、黒崎 恭には気になる子がいる。
***
初めて会ったのは中庭。恥ずかしながら空腹で行き倒れていた私に彼女が声をかけてきてくれたのがきっかけだった。
唯一学園内で気を張らずに素の自分を出せる空間だったから少し油断していたのだ。お腹がすいたとこぼす私に彼女はクッキーを差し出す。
優しく微笑む彼女に何故か私の警戒心は働かず、半ば無意識にそのクッキーを口に運んでいた。何気ない、どこにでもあるそのクッキーが今まで食べた物の中で一番美味しかった。
私を見守る彼女の眼差しはとても優しくて。この空気感がひどく心地よくて、この時間がずっと続けばいいのにって思った。
でもその時間は長く続かなかった。彼女の携帯のアラームがこの時間の終わりを告げた。鞄を持ち立ち上がる彼女を思わず視線で追いかける。
「私、もう帰りますね。貴方も気をつけてお帰りください。もうこのような場所で倒れないように気をつけて下さいね」
「あ・・・、」
その言葉と共にさらりと私の頭が撫でられた。誰にもされたことがない、なんの思惑のない接触。優しさしか感じられない手付き。
それがきっときっかけだった。
次の出会いは図書館。中庭で出会った彼女の正体を知り、その姿を探していた時のこと。
友達になってくれた彼女に私の話をした。
「いつも私の周りにいるのは、私の家柄しか見ていない自称友達だから私の友達じゃない。・・・でも紫之宮嬢は初めて私を見て話してくれた人だから、私の友達になってくれて本当に嬉しいんだ」
裏のない、私の素直な言葉。私が見てきた、人間関係。
「・・・本当に、周りの方々はお友達ではなかったのですか?」
「え?」
「確かに黒崎様の家柄に寄ってくる方は沢山いらっしゃったと思います。けれど、貴方個人を見てお友達になった方もいらっしゃる筈です。黒崎様の周りには、本当に貴方の家柄しか見ていない方々ばかりだったのでしょうか?」
けれど彼女から帰ってきたのは思いもしない言葉だった。
「・・・私を、見ていた人がいる?」
「はい。【黒崎家次期当主】ではなく、【黒崎 恭】個人として見て接している方がいる筈です」
「私、個人として・・・」
考えもしなかった事。考えようともしなかった事。
「えぇ、黒崎様。もっと貴方の周りをご覧になって?貴方が思っているより、ちゃんと見ている方はいらっしゃるわ。・・・まだ貴方は子供なんですもの、もう少し気を抜いて人に甘えて良いのですよ」
「・・・っ」
私に向けられたその言葉は慈愛に満ちていて。ずっと気を張り続けていた私の心に深く染み込んでいく。
不意に涙が溢れた。泣き止まないと、と思う気持ちに反して私の目からは止めどなく涙がこぼれ落ちていく。
そんな私の手を握り、彼女は優しく背を撫でてくれた。小さなその手はとても暖かかった。
***
それから彼女の言葉を信じて私の周りを観察してみた。
まさかそんな筈はないと思う気持ちと、彼女が嘘を教えるわけがないと思う気持ちが揺れ動く。
「・・・もし私が黒崎ではなくなった時、お前達はどうする」
不意に私の周りを取り囲む奴等にそう聞いた。狼狽えた様な顔をするやつ、困った様な顔をするやつ、呆けた顔をするやつ、訝しげな顔をするやつと色々な反応が帰ってくる。
・・・やっぱりそうだ。帰ってこない回答に私の考えが正しかったのだと確信しかけた瞬間だった。
「別にどうもしませんよ。俺は貴方だから一緒にいたいと思って行動してるんですから。貴方が黒崎か黒崎じゃないかなんて関係ない」
訝しげな顔をしていたやつがそう言う。呆れたような声色で、至極当然の様に私へ告げたのだ。
「はいはい!僕も僕も!恭さんが恭さんじゃなかったら仲良くしないよ~」
私の腕に巻きついて先程まで呆けた顔をしていたやつが言う。ヘラヘラと楽しそうに笑いながら、当たり前だと私に告げる。
「お前、ちゃんと質問の意味わかってるのか?」
「わかってるよ~恭さんが黒崎と関係なくなっても僕は恭さんについていくよ!」
「ならいいがな。・・・それと気安く黒崎さんへ触れるな」
「うえ~、狂信者うざぁい」
私の側でキャンキャン吠える2人。私についてきてくれる人間。
確かに私を黒崎と見る人間もいた。けれどこの2人の様に私を私として見てくれる人間もいたのだ。
***
私だけでは気付かなかった事を気づかせてくれた紫之宮嬢。
私とは違う視点と考えを持った、優しい彼女。
そんな彼女の存在が私の中で大きく、重要なものになっていくのは当然のことだった。
蝶のように飛び回る彼女は色んな人物を虜にしている。
そんな彼女を私だけのものに出来たのなら、それはとても甘美な事だと思わない?
最後に綺麗な蝶を捕まえるのは私だ。
・・・早く私という花の虜になって仕舞えばいいのに。
***
初めて会ったのは中庭。恥ずかしながら空腹で行き倒れていた私に彼女が声をかけてきてくれたのがきっかけだった。
唯一学園内で気を張らずに素の自分を出せる空間だったから少し油断していたのだ。お腹がすいたとこぼす私に彼女はクッキーを差し出す。
優しく微笑む彼女に何故か私の警戒心は働かず、半ば無意識にそのクッキーを口に運んでいた。何気ない、どこにでもあるそのクッキーが今まで食べた物の中で一番美味しかった。
私を見守る彼女の眼差しはとても優しくて。この空気感がひどく心地よくて、この時間がずっと続けばいいのにって思った。
でもその時間は長く続かなかった。彼女の携帯のアラームがこの時間の終わりを告げた。鞄を持ち立ち上がる彼女を思わず視線で追いかける。
「私、もう帰りますね。貴方も気をつけてお帰りください。もうこのような場所で倒れないように気をつけて下さいね」
「あ・・・、」
その言葉と共にさらりと私の頭が撫でられた。誰にもされたことがない、なんの思惑のない接触。優しさしか感じられない手付き。
それがきっときっかけだった。
次の出会いは図書館。中庭で出会った彼女の正体を知り、その姿を探していた時のこと。
友達になってくれた彼女に私の話をした。
「いつも私の周りにいるのは、私の家柄しか見ていない自称友達だから私の友達じゃない。・・・でも紫之宮嬢は初めて私を見て話してくれた人だから、私の友達になってくれて本当に嬉しいんだ」
裏のない、私の素直な言葉。私が見てきた、人間関係。
「・・・本当に、周りの方々はお友達ではなかったのですか?」
「え?」
「確かに黒崎様の家柄に寄ってくる方は沢山いらっしゃったと思います。けれど、貴方個人を見てお友達になった方もいらっしゃる筈です。黒崎様の周りには、本当に貴方の家柄しか見ていない方々ばかりだったのでしょうか?」
けれど彼女から帰ってきたのは思いもしない言葉だった。
「・・・私を、見ていた人がいる?」
「はい。【黒崎家次期当主】ではなく、【黒崎 恭】個人として見て接している方がいる筈です」
「私、個人として・・・」
考えもしなかった事。考えようともしなかった事。
「えぇ、黒崎様。もっと貴方の周りをご覧になって?貴方が思っているより、ちゃんと見ている方はいらっしゃるわ。・・・まだ貴方は子供なんですもの、もう少し気を抜いて人に甘えて良いのですよ」
「・・・っ」
私に向けられたその言葉は慈愛に満ちていて。ずっと気を張り続けていた私の心に深く染み込んでいく。
不意に涙が溢れた。泣き止まないと、と思う気持ちに反して私の目からは止めどなく涙がこぼれ落ちていく。
そんな私の手を握り、彼女は優しく背を撫でてくれた。小さなその手はとても暖かかった。
***
それから彼女の言葉を信じて私の周りを観察してみた。
まさかそんな筈はないと思う気持ちと、彼女が嘘を教えるわけがないと思う気持ちが揺れ動く。
「・・・もし私が黒崎ではなくなった時、お前達はどうする」
不意に私の周りを取り囲む奴等にそう聞いた。狼狽えた様な顔をするやつ、困った様な顔をするやつ、呆けた顔をするやつ、訝しげな顔をするやつと色々な反応が帰ってくる。
・・・やっぱりそうだ。帰ってこない回答に私の考えが正しかったのだと確信しかけた瞬間だった。
「別にどうもしませんよ。俺は貴方だから一緒にいたいと思って行動してるんですから。貴方が黒崎か黒崎じゃないかなんて関係ない」
訝しげな顔をしていたやつがそう言う。呆れたような声色で、至極当然の様に私へ告げたのだ。
「はいはい!僕も僕も!恭さんが恭さんじゃなかったら仲良くしないよ~」
私の腕に巻きついて先程まで呆けた顔をしていたやつが言う。ヘラヘラと楽しそうに笑いながら、当たり前だと私に告げる。
「お前、ちゃんと質問の意味わかってるのか?」
「わかってるよ~恭さんが黒崎と関係なくなっても僕は恭さんについていくよ!」
「ならいいがな。・・・それと気安く黒崎さんへ触れるな」
「うえ~、狂信者うざぁい」
私の側でキャンキャン吠える2人。私についてきてくれる人間。
確かに私を黒崎と見る人間もいた。けれどこの2人の様に私を私として見てくれる人間もいたのだ。
***
私だけでは気付かなかった事を気づかせてくれた紫之宮嬢。
私とは違う視点と考えを持った、優しい彼女。
そんな彼女の存在が私の中で大きく、重要なものになっていくのは当然のことだった。
蝶のように飛び回る彼女は色んな人物を虜にしている。
そんな彼女を私だけのものに出来たのなら、それはとても甘美な事だと思わない?
最後に綺麗な蝶を捕まえるのは私だ。
・・・早く私という花の虜になって仕舞えばいいのに。
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